第十一章④ 救うもの、救われるもの
ソディが神剣を構えて、機械人形のほうへ駆け出す。
機械人形は飛び上がり、長い尾を高速で回転させる。それがフリアに当たり、彼女は弾き飛ばされた。腹部に強烈な衝撃を受けたようだ。すぐさま、ソディが彼女に治癒の魔法を投げかける。
ベブルには、機械の尾が一回、二回、三回と連続で当たり続ける。何度打ち当てても彼は倒れない。高速で回転しているので、二十回、三十回と打撃の回数をすぐに重ねていく。
「っざけんな!」
回転する尾の打撃を受けながら、ベブルは遂にその機械人形の長い尾を掴んだ。そして反対に、彼がその尾を振り回して機械人形のほうを回転させる。
「喰らえ!」
ベブルは機械人形の尾を引き下ろし、その金属の塊を地面に叩きつける。
そこへ、ソディが神剣を振り下ろし、斬りかかる。
更に、物陰から出てきたフィナの
だが、機械の単眼がフィナの姿を捉えた。そして、魔導銃を彼女に向けて乱射する。
ソディは、しまったと思って、フィナを見た。彼女は魔法を撃ったばかりで身を守れない。魔導機関銃の連射を魔力障壁もなしに受けて生きていられる人間はいない。せめて、すぐに治癒の魔法を掛けなければ。
しかし、ここへ出てくる前に、フィナは自分自身に魔法を掛けていたのだ。自動反射の魔法だ。
魔法の銃弾が当たるかといったところで、反射の魔法が勝手に発動し、フィナに向けて撃たれた銃弾の全てを撥ね返した。それらが全て、機械人形の身体に撃ち込まれる。それに乗じて、彼女は更に
「思い知ったかぁ!」
ベブルが機械人形を上から殴り付けた。機械人形の頭部が消滅し、それは動かなくなった。
ソディが無言で剣を下ろした。
「終わったか……」
フリアもそう呟いて、大槍の構えを緩めた。
だが、ベブルだけは、攻撃の手を止めなかった。
「馬鹿め!」
ベブルは叫び、声をあげて笑いながら、ただの金属部品の塊となった魔法機械兵器を殴りつづけていた。一撃殴るごとに、機械人形の部分が丸ごと消滅する。
「お前ももうちょっとアタマがありゃあ、俺に喧嘩を売るなんざしなかったろうによお!」
そうして、ベブルは狂ったように大笑いした。
フリアは驚いて、槍を取り落としそうになる。
「なに、あいつ……。ソディ、あいつはなにをしているんだ?」
ソディは答えなかった。いや、答えられなかった。
レミナを抱えたザンが、戦いの終わりを見て取って、物陰から出てきた。だが、緊張の糸は緩まなかった。
脅威はまだそこにある。
ザンは声を掛けながら歩み寄る。
「ベブル! よく見ろ。そいつはもう止まってる」
「ああ?」
機械人形の残骸を踏みつけたまま、ベブルは手を止め、ザンの方を向いた。そして、顔を歪める。
「俺に歯向かったらどうなるか、他の鉄屑共にも教えてやるのさ。ま、奴らのアタマで理解できるなんて思ってないがな」
「……正気か?」
ベブルは髪を掻き揚げる。
「はっ! 俺が正気かだと? 俺はいつになく正気だ! いつもに増してな!」
ベブルの眼光は鋭い。だが、それは彼のものではなかった。彼のものではない存在による威圧が、そこにあった。
誰かが、ベブルの肩を掴んだ。反射的に、彼はそれを払い除けようと腕を振るったが、その手はしつこく彼の肩を掴みつづけた。
ベブルは振り返った。そこには、杖を持ったままのフィナがいた。彼女は彼を睨みつけている。
「いつ近づいた」
フィナの言葉に、ベブルは顔を歪めて笑う。。
「はあ? なに言ってんだ」
「聞こえていないのか?」
「うるせえんだよ!」
ベブルはフィナを突き飛ばした。その瞬間、彼の表情が緩んだ。なにかを恐れている表情だった。
フィナは静かに言う。
「……戻ったな」
「俺は……?」
ベブルは呟き、機械人形の残骸の上から降りた。仕草はもう落ち着いている。解放された証だった。
フィナはベブルに答える。
「取り込まれつつあった」
「そんな……馬鹿な! 今回は奴の『声』は聞かなかったぞ! ……そんなに簡単に取り込まれるわけが……」
「安易に力を求めた」
フィナは淡々と言った。一方のベブルは叫ぶ。
「なっ? 戦いの中で、力を求めるのは当たり前だろうが!」
だが、フィナは首を横に振る。
「自分以外に」
「それは……」
ベブルは口篭り、ややあって、また呟く。
「そうだったかもしれない……」
ザンが口を開く。
「いまのは、つまり、フィナがベブルを治したのか?」
フィナは首を横に振る。
「偶然。運がよかった」
しばらく、沈黙があった。
そして、ソディが言う。彼の表情は険しい。
「発言してよろしいか?」
フィナが、そして、ベブルが頷く。それから、ザンが「ああ」と答える。ソディは彼自身の意見を述べる。
「ベブル殿の力のことなのだが、私はやはり、レイエルスの最上位の神のものではないかと思う。フィナ殿の言う『声』の主は、最上位の神の声なのではないだろうか?」
フリアは彼の意見を真っ向から否定する。
「そんな馬鹿な! どうしてアーケモスの人間に、レイエルスの最上位神が力を与えるんだ! ましてや、神界レイエルスは滅んで、私たちしか残っていないのに——」
そこまで言ってから、フリアは口を噤んだ。そして、思い出したように叫ぶ。
「まだ見つかっていない、レイエルスとアーケモスを繋ぐ時空塔か!」
ザンがうなずく。
「それならありえる話だ。神界レイエルスの最上位に位置する神が、レイエルスからアーケモスに、俺たちと同じように逃げたと考えれば……」
それから、ベブルが呟くように言う。
「畜生……、一体、俺を捕まえて、どうしようって言うんだよ……」
ベブルはうつむいて、自分の手を見つめている。
ザンは溜息をついた。彼は踵を返して、仲間の方を振り返る。
「仕方がない。まずは帰ろう。アーケモスに」
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