第113話 ■「急報」
二月になった。
ここ最近は学校に行ってもほとんどの科目で授業免除が言い渡される状況になっていた。
もう教える事は無いっていう教師お手上げ状態になっているらしい。
なので多くの時間を与えられた部屋で過ごすようになっていた。
学校に行く意味とは? 状態だね。
そんなある日、伯館に戻るとファンナさんが血相を変えて僕の所に駆け寄ってくる。
「エル様! 先ほど奥様からご連絡が!
旦那様が魔物の討伐中に負傷されたと!」
「えっ! 父さんが?」
「…………奥様から追加の情報が。
旦那様の命には別状はないそうです」
その情報にホッとする。
「ただ右腕を大怪我されているそうで、業務に支障が。
エル様には大至急お戻りいただきたいと」
「それは、僕に父さんの跡を継いで欲しいという意味なの?」
「……はい、そのようです」
「……わかった、アーシャさんすぐに皆を執務室に集めてもらえますか?」
「かしこまりました。すぐにでも」
僕は、傍に控えていたアーシャさんに伝える。
どうやら僕の学園生活はここまでのようだ。
――三十分後――
執務室には皆がそろう。アーシャさんから一通りの話は聞いているのだろう。
皆がそろうまでの間ファンナさんを通して母さんとある程度の方針は決めていた。
「みんな揃ってもらってありがとう。
聞いたとは思うけれど父さんが負傷してバルクス伯の執務に支障が出ているそうだ。
なので僕は学校を退学してバルクス伯に戻り、跡を継ぐことになる。
それに当たっての方針を説明するよ」
まずは僕の家族の方針を……
「まずはクイとマリー」
二人が前に出てくる。その顔は不安そうだ。
「二人はこのままガイエスブルクに残って来年からの入学に備えてほしい」
「一時的に戻ってはダメなんですか? 兄さん」
クイが僕に尋ねてくる。二人にとっても父さんの容体が気になるのだろう。
「母さんとも話したんだけど、往復だけで5か月位かかってしまうからね。
学校への入学は貴族の義務だから入学拒否は出来ない。
だからこの地に残るんだ。いいね?」
「……はい、分かりました兄さん」
「了解しました兄様」
二人は不承不承ながらも答える。
僕としても二人に会ってまだ数か月しか経っていないから離れるのは寂しいんだけどね。
あ、そうか……
「クイ、マリー。やっと二人に会えたばかりでまた離れるのは寂しいけど。
二人は僕にとっては大事な家族。必ずまた会えるからね」
僕は二人に笑いかける。それに二人は少し笑顔になる。
「はい、また兄さんに会えるのを楽しみにしてます」
「マリーもクイ兄としっかりお勉強して必ず戻ります。」
「うん、成長した二人に会えるのが楽しみだよ」
うん、二人は成長した姿を僕に見せるという目的が出来た。もう大丈夫だろう。
「次にアリシャとリリィについてもガイエスブルクに残って学園に通って欲しい」
「分かりました。お兄様」
「はい、お兄様」
……あれ? 二人の事だから僕についてくるって
その僕の反応に気付いたのだろう。二人は笑い出す。
「だって、クイとマリーだけを残していったら可哀そうでしょ?
二人は私たちが面倒見ますのでお兄様はお父様とお母様を安心させてあげてください」
まだまだ子供だと思っていたけれど二人ももう十一歳。
学園生活を通して精神的にかなり成長している。
「わかったよアリィ、リリィ。クイとマリーを頼むね」
「「はい、お任せ下さい」」
さてこれで家族については問題ない。
次はメイドについてだね。
「フレカさん、アーシャさん、ミスティさんについてはバルクスに戻ってもらいます。
ガイエスブルクに残るメイドたちへの引き継ぎと体制整理をお願いします。
体制が整い次第、バルクスへの帰還を」
「かしこまりました。エル様」
この三人については、母さんが僕につけてくれた諜報のプロだ。
今後も僕のために働いてもらいたい。
まぁフレカさんの事だから早々に引き継ぎが出来る準備は出来ているだろう。
「次にベル。君はどうする?」
「私もエル様と共に戻ります」
ベルは即答する。うん、ある意味僕のためについて来ていた部分もあるから、僕が帰郷するとしたら一緒についてくるよね。
「わかった。ファンナさんとランドさんは……」
「ルークも入学しますし今後のバルクス伯との連絡を考えますと、こちらに残ります」
「うん、そうだね。今後もガイエスブルクとの情報共有をお願いします」
「かしこまりました。エル様」
――こうして僕達は皆の今後の方針を決めていく。
僕の兄妹については僕だけが帰郷、残りの四人はこのまま王都に残り学業を優先する。
伯館のメイドたちは体制の再編が出来次第、メイドトリオは帰郷する。
メイドトリオの話だと半年ほどは欲しいとの事なので許可した。
ファンナさん一家は、ベルのみ僕に付いて帰郷する。
ファンナさんについてはバルクス領と伯館の情報連携を考えて王都に残る。
旦那さんとルーク君については今年入学する事になるのでそのまま王都に残る事になった。
バインズ先生一家については、バインズ先生が僕に付いてくる。
リスティと奥さんはバルクスに移住するための準備が必要なので遅れて出立する事になる。
ある程度準備は完了していたようだから二月ほど遅れだそうだ。
アインツとユスティは、両親が長男に家督を継いだ後に移住する事になっている。
ただ、家督引継ぎの最中との事で一度故郷に戻ってから両親と共に移住する事になった。
こちらも二か月ほど遅れての到着となる。
メイリアについては、何時でも動けるように準備が出来ているようなので一緒に移動する事にした。
レッドとブルー、その他バルクス伯に仕官する事が決まった人たちについては、それぞれのタイミングで移動してもらう事にした。
彼達は平民だ、入学する際に莫大な学費を払っている。中には借金してという人もいるだろう。
王立学校卒業生という肩書は自身、いや、家族にとっても一種のステータスになる。
だから僕の都合で中退となるのは可哀そうだ。
なので出来るだけ卒業するまでは学生でいてもらいたいと告げている。
「さてと、皆、急な話で申し訳ないけれど、よろしくお願いします」
僕は頭を下げる。本当は貴族が頭を下げるとは……とか言われるんだろう。
けどここに居る人は僕の正体を知っている人が多い。
皆は頷き準備を始める。
一週間後の二月十六日――
急な事なのにルート上のもろもろの準備をメイドたちは迅速に行ってくれた。
本当に皆には感謝しかないね。
僕、ベル、バインズ先生とメイリアを中心とした帰郷組は皆に見送られながら出発する。
荷物は随時送ってもらうため、来る時には六台あった馬車も三台のみ。
スピードを重視して人足や護衛も徒歩ではなく馬車にしたから四台になるけれどね。
王都ガイエスブルク――
六年十一か月をここで過ごしたことになる。
それはとても濃密な時間だった。多くの出会いに恵まれた。多くの戦いも経験した。
僕達が再びこの地に戻ってくるのにはかなりの年数を必要とし、色々と状況が変わっている事になるのだがこの時の僕達は知る由も無かった。
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