第106話 ■「魔法と鉄の仲介を……2」
さて、ということで僕達は鉄の魔法阻害能力の検証を始めた。
ベルとメイリアの二人に作ってもらっていた物はズバリ。魔力検知器だ。
どういう構造なのか? をベルとメイリアに小一時間にわたって説明されたが……うん、正直さっぱりだ。
聞いた話ではやはり魔法が発動して消滅する際、空気中に魔力の
これを観測できたのは今回が初めて……あれ? ノーベル賞クラスの発見じゃね?
ってことでその残滓――分かりやすいように『マナ』と名付けた――を計測する事が出来る装置となる。
一つ一つの部品を二人で丁寧に作ったので製作日数は四か月の一品ものではあるけれどね。
なんせ使っている部品の幾つかに鉄や銅を使っている。
王都とはいえ材料を揃えるだけでひと苦労だったらしい。本当に二人には感謝だね。
二人にとってもテスト中は魔法のみでやっていたから、鉄に対して魔法を使った際のデータは無いらしい。
僕としては『鉄から出る磁場が影響』と『鉄が魔法力を吸収』が原因の有力候補と思っているけどはてさて。
という事で検証をするためにいつもの訓練場に来てみた。
アインツ達は昨日からバディア渓谷まで遠征しているから、僕たち以外に人はいない。
とはいえ、もうすぐ冬休みも終わりだから今回の遠征以降は、春休みまではお預けになるだろう。
「それではエル様、お願いします!」
検知器を鉄板の後ろにセッティングして少し離れた場所にベルとメイリアは移動して僕に声を掛ける。
「りょうかーい、さてと、『穿て蒼き矢、ウォーターアロー』」
僕は、一番慣れ親しんだウォーターアローを発動させる。
名の通り矢のごとく放たれたウォーターアローは、当たり前のように鉄板の三十㎝前で霧散する。
「エル様! 申し訳ありませんが色々なデータが取りたいので幾つか魔法を試してもらえませんかー」
「りょうかーい」
メイリアからお願いされた事に答えるかのように僕は少し時間を置きながら(マナの残留が終わるだろう時間を見越して)魔法を発動させる。
ファイアーボールといった範囲型魔法。
チェーンバインドといった拘束系魔法。
ライトニング・サイスといった高速魔法。
果ては『神の雷』と呼ばれる上級魔法。
その全てが鉄板三十㎝前で霧散する様子はある意味異様な光景だ。
なんてったって低級魔法だろうが上級魔法だろうが鉄板を前にあっさりと霧散するのだから。
鉄板の魔法阻害能力の鉄壁さはまったくもって驚愕でしかない。
……阻害能力を排除できる手段なんてないんじゃないか? と不安になる。
「ありがとうございましたエル様。今回取得できたデータを解析しますので一旦お屋敷に戻りましょう」
「うん、了解。しかし鉄板一つで上級魔法も消滅する様はなんだか悲しいねぇ」
「十二歳で上級魔法を使って
ベル達は苦笑いする。
「それで解析ってどれくらいで出来るものなの?」
「そうですね。申し訳ありませんが二・三日いただけますでしょうか?」
「うん、問題ないよ。そんな直ぐに方向性が見えてくるようなもんでもないしね。」
そして伯館に帰ると同時に二人はさっそく解析作業に入る。
うん、手持無沙汰だ。って事でアリシャとリリィを愛でる事にしよう
………………ふぅ、妹分摂取完了
――三日後
肉体班は、バディア渓谷から明後日帰宅する予定なので不在。
頭脳班もこの間のデータ解析の真っ最中だ。
リスティについては、銃を用いた戦術を検討するためにまずは「戦争論」という本を熟読中だ。
「戦争論」というのは、ドイツの前身といえるプロイセン出身の将軍カール・フォン・クラウゼヴィッツによって書かれた書物になる。
軍事学……例えば有名な所では『孫子の兵法書』『
上記の二つについても読み込んではいるけれど、この本が自分の感性に合うらしく特にお気に入りのようだ。
僕はというと……リバーシで妹二人が対戦しているのを観戦中だ。
いや、もちろんただ妹たちの事を愛でているだけじゃないよ、本当だよ。
リバーシは、この世界には存在していない。僕が自作したものだ。
二人に対戦してもらって面白いようであれば販売するのもありかな。というれっきとした調査だ。
最初こそルールを理解していない所もあったけれど、何回も対戦する事で四隅を押さえる事がセオリーというのが分かったようでなかなかに白熱した対戦になっている。
そんな対戦も終盤になる。
「やったぁ、アリシャの勝ちぃ。これで九勝十敗だね。よぉーし追いつくぞぉ」
「むぅー、次は負けないもん」
二人はそう言いながら次の対戦を始める。うんうん、気に入ってもらえたみたいだな。
その姿を確認して僕は、紙の束を取り出す。
それは新作魔法のために検討・試作した魔法陣や考察がびっしりと書きこまれている。
メイリアから提案された『生体認証』と『遠隔操作』の試作真っ最中なのだ。
新規魔法を作る事については、結局僕が一番適任という事になった、ベルやメイリアとかにとっては魔法がある事が当たり前の認識がどうしても障害になるらしく上手くいかなかった。
『生体認証』についてはある程度目星がついて来ている。結局のところ生体認証ってのは鍵の代理品だ。
完全一致する物が少なければいい。という事で思いついたのが指紋だ。
この世界でも指には指紋がある。完全に一意性が取れるかどうかは技術的な部分で調べる事は難しいけれどね。
とりあえず盗もうとしている人と一致しなければ最低限のセキュリティは確保できる。
そこで考えたのが魔法陣の一部に指紋を呪文化して記載する。
そうする事で一致する指紋の持ち主以外が魔法陣を展開できない様にしてみた。
この魔法陣が展開できなければトリガーを引くことが出来ない様に細工すればいいわけだ。
とはいえ、あれから三日で考えたものだから動作的に不安定な部分がある。
今の所、成功確率は五割だからまだまだ改善が必要だ。
あとは上手くいったときに指紋を呪文化する事が簡単にできるようにしないとな。
一人一人の指紋を呪文化するのを手作業でやっていたら日が暮れてしまう。
『遠隔操作』についてはまだまだ検討不足という感じかな。
一定の距離を離れてしまったことを感知するためには銃の方から何らかの信号を出す必要がある。
でも魔法陣だから少なくとも魔力が必要。けれど鹵獲されるって事は放棄されないといけない。
つまり魔力の供給源、つまりは人の手から離れた時にどうやって魔法を発動させるのか?という問題点があるのだ。
うーん、一つ案はあるけれど実際に可能かどうかはベルに聞いてみないとな。
その案が上手くいくのであれば、かなり応用が利くんだけれどね。
そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされる。
僕が答えると、ベルとメイリアの二人が入ってくると口を開く。
「エル様、お待たせしました。解析結果がまとまりましたのでご報告します」
と――
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