第71話 ■「襲撃 レイーネの森1」

「それでは出発するぞ!」


 インカ先生の号令と共に僕達を乗せた馬車は動き始める。


 同学年千八百人と教師、食料品といった消耗品を乗せた馬車の列は壮観だ。


 とはいえ、直ぐにクラスごとに決められた場所に分かれる為、実際にレイーネの森に向かうのは五クラス。三百人程になる。


 行程としては、お昼頃に南方駐留軍が滞在している駐屯地に到着。

 そこで昼食後、さらに二時間ほどかけてレイーネの森に向かう事になる。


 先達せんだってレイーネの森には、生徒の安全性を確保するために騎士団による魔物討伐が行われていた。


 今年は例年に比べるとゴブリンやコボルトなどの低級魔物ばかりで実践演習にもならなかったな。というのが騎士団の評価であった。


 討ち漏らしがあったとしても森奥部までの掃討を行った為、演習期間の数日であれば問題ないだろう。という判断だ。


 それを聞いた生徒たちの何人か(ご多分に漏れず貴族だけど)は、『であれば、討ち漏らした魔物を俺たちが倒そう』なんて、鼻息荒く語る者もいる。


 うんうん、実戦の怖さってのを知らないんだろうな。

 十歳の子供が実戦を知っているのもどうだろう?という話ではあるけれど。


 何か緊急事態があった時のために昼食を食べる場所になる駐屯地にいる第二騎士団が即時対応できる体制をとってくれている。

 レイーネの森までは往復で三~四時間ほど掛かるのは少し気になるけどね。


 かといって、あるかどうかも分からない有事の為にレイーネの森まで騎士団を同行させるというのも現実的ではない。

 騎士団を動かすのもタダではない。物と金を喰うのだ。


 到着後に魔物対応用のバリケード構築を行う事になっているからそれで騎士団到着まで持たせるという事になるのだろう。


 流石にこれだけの集団に手を出してくる魔物や賊もおらず、行程は順調に進み、昼前に駐屯地に到着する。


「ふぃ~、二時間そこらだけど体がバッキバキだ」


 大人数輸送が目的で快適性は二の次の馬車だから、到着する事には体のあちこちの筋肉が固まっている。


 馬車から降りると同時に僕はストレッチで筋肉をほぐしていく。

 ベルやリスティも僕と同じようにストレッチをする。


「リスティ! リスティじゃないか!」


 不意に、リスティに声がかけられる。

 僕は声がかけられた方向に振り向く。


 そこには騎士が二人。


 片方はリスティと同じく燃えるような赤髪。

 もう片方は金髪の青年だった。


「レックス兄様! ベルダ兄様!」


 リスティは嬉しそうな声を上げると二人の方へ駆けていく。

 そして二人に抱き着く。


「大きくなったなリスティ。父上と母上は元気か?」

「はい二人ともご健勝です。お兄様方はお元気ですか?」

「あぁ、馬鹿みたいに元気だ。

 父上仕込みの剣技だぞ簡単には怪我しないさ」


 なるほど、話を聞く限りだとリスティの兄、つまりはバインズ先生の息子という事か。


 そして三人はその様子を見ていた僕に気付く。


「そうだ。お兄様方、紹介しますね。

 お父様が剣術の指南を行っていますエルスティア・バルクス・シュタリア伯爵公子です」


 その紹介に二人は驚き、騎士の礼を取る。


「これは、お初にお目にかかります。

 バインズ・アルク・ルードが長子、レックス・アルク・ルードと申します」


 そう赤髪の騎士は頭を下げる。


「バインズ・アルク・ルードが次子、ベルダ・アルク・ルードと申します」


 金髪の騎士も同様に頭を下げる。


「初めまして。エルスティア・バルクス・シュタリアと言います。

 バインズ先生とリスティさんには非常にお世話になっております」

「そう言っていただけると。家族として安堵します」

「御二方とも固くならず、エルと呼んでくれませんか?

 僕自身、公私の分別は付けますが、私事の時にはエルスティアと呼ばれるのがあまり好きではないので」


 二人は顔を見合すと。


「承知しました。それではエル様と呼ばせて頂きます」

「はい、それでお願いします。

 ところで御二人は第二騎士団に所属されているのですか?」


「はい、とはいえまだ見習い騎士ではありますが。

 いずれは父上の名に恥じない功績を立てたいと思っております」


 そう言いながら、何か思い出したのだろう。少し悲しそうな顔をする。


「すまんな。リスティ。もっと話をしたい所だが今から訓練があってな」

「いえ、大丈夫ですレックス兄様、ベルダ兄様。

 会ってお話しできただけでも嬉しいです」


 そう語るリスティの頭を2人は優しく撫でる。

 それに嬉しそうに目を細めるリスティ。


 うん、バインズ先生の所の家族の雰囲気は何だか良いな。

 バルクス家もそう言った意味では大概だけどね。


 特に母様の愛情が……あー、弟妹に会いたいよぉ。

 ……僕も母様の事言えないか……


 そしてリスティの兄と別れ、僕達は昼食後、再び馬車に乗りこむと駐屯地を後にする。


 出発してすぐは、少しさびしそうにしていたリスティも一時間もする頃には何時ものように元気を取り戻す。

 離れているとは言え、馬車で片道二時間であれば近所も近所だ。

 何時でも会おうと思えば会える距離だしね。


 そして僕達は目的地、レイーネの森に定刻通りに到着するのであった。

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