第18話 ■「魔法陣を改造してみよう2」

「それで? 結局、実験は成功だったのかしら?」


 シャワーを浴びて着替えてきたクリスは、髪に残っている水気をふき取りながら聞いてくる。


 ファンナも同様に新しいメイド服に着替えてきている。


「予想以上の成功。って感じかな。

 威力としては想定以上、魔力消費も想定以下だったからね。

 ただ、制御の部分でまだ改善の余地ありな状況かな」


 土下座してからずっと正座したままでいた僕は、腕組みしながら思案にふける。

 言ったように実験自体は成功だ。


 ただ、魔法陣は実戦を考えた場合、欠点が多い。

 そりゃそうだ、一つの魔法を使用するたびに魔法陣を準備していたら敵の接近を容易く許してしまう。


 詠唱する呪文さえ覚えておけば、魔法陣が不要と言うのが、詠唱技術が発展した理由だ。


 次のステップとしては、改良した魔法陣と同じレベルで詠唱出来るようにすることなのだが、詠唱の際に無意識に展開される文様を改良した文様に意識せずに変えなきゃいけない。


 この意識しないというのがなかなかに難しい。


 とはいえ、物は試しで呪文を詠唱文に直していく。


「クリス、ファンナさん、今の魔法陣を詠唱してみるから注意して」


 ファンナも慣れたもので大きなパラソルを今回は準備してきていた。

 クリスもそのパラソルの下に避難していく。


 さて、今までこの世界に存在しない自作詠唱が上手くいくのか。

 僕の魔法実験の最初にして最大の難関だ。


 二度・三度と深呼吸して集中力を高めて右手を差し出す。


「『我、求るは猛威奮う豪雨、集え、水の鏃となりて、我が仇なすものを貫かん。ウォーターアロー』」


 もう、球状ではないから水の矢。

 ウォーターアローに改名した詠唱はそれに応えるかのように右手に魔力が集中していく。


 先ほどの魔法陣のおかげで形成のイメージが出来ていたためか瞬く間に水が鏃の形になっていく。

 目標はさっきの岩の亀裂部分。


(いけっ!)


 命じると同時に水の鏃は瞬く間に岩の亀裂部分に向かって正確に飛んでいく。

 先ほどの一撃でもろくなっていたためか、水の鏃は岩を貫通し後ろ側の地面に衝突し水柱となる。


「成功。よね?」


 水柱から降ってくる水が一通り落ち着いた後で、クリスが僕に聞いてくる。


「う、うん。成功。かな?」


 正直、僕はうまくいったことに逆に驚いていた。

 魔法の威力・魔力の消費共に僕の理想通りだったからだ。

 つまり、詠唱により無意識の中で展開された魔法陣が最適化されたという事になる。


(詠唱による魔法陣は、使用者が認識すれば上書きされるという事か?)


 もしそうであれば、僕が新しく作り出した魔法も、認識さえすれば別の人も使えるようになるってことか?


「ふむ、クリス、ちょーっと、お願いがあるんだけれど?」

「……なんでだろ? エルが言おうとしている事がなんとなくわかるんだけど?」

「いまの魔法詠唱をやってみてくれないかな?」


「い、嫌よ! どれくらい魔力消費するかわからないんだもの!

 さっき魔力枯渇になったばかりだし!」

「大丈夫、詠唱1回分はもう十分回復する時間だから」

「そ、それでも!」


「ボク、センセイ。キミ、セイト」

「ひ、卑怯者ぉ~」


 その罵倒は、僕らの業界ではご褒美です。

 結局、折れたクリスは僕をジト目で見ながら詠唱態勢に入る。

(その視線も僕らの業界では……以下略)


「『我、求るは猛威奮う豪雨、集え、水の鏃となりて、我が仇なすものを貫かん。ウォーターアロー』」


 僕の言った詠唱をまねてクリスが詠唱を行うと、右手の先に圧縮された水弾が次第に鏃の形になり岩に向かって飛んでいく。

 そしてさっき出来た亀裂を突き抜けた後に着弾する。


「す、すごい! できた!私にもできた!」


 さっきの不機嫌さが一気に晴れて笑顔になるクリス。

 なるほど、やはり魔法陣を認識すれば上書きされるのがほぼ確定だな。


 テンションが上がったクリスが再度魔力枯渇でぶっ倒れるのにそこまで時間はいらなかった。


 まさか、クリスにどじっ子特性があるとは、本日一番の収穫であった。

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