第13話 ●とあるメイドの日常
みなさま、今日は初めまして。ファンナ・メルと申します。
バルクス伯爵様のお屋敷にてメイドとして働かせていただいており、今年で二十六歳になります。
同じ屋敷で御者をしている夫と4歳になる娘が一人の三人家族です。
元々は、王領にて
三年前に夫の伝手で、このお屋敷のメイドとして雇っていただき、軍への所属経験から、バルクス家の長男のお目付け役兼護衛役を仰せつかっております。
貴族と言うものは、周囲(主に同じ貴族達からですが)から恨みを買う事が多いため、子息に護衛役として退役軍人を雇う事が多いので私もその一人という事になります。
第三者と精神感応して連絡する魔法を常時発動出来る事が採用の決め手になったのでしょう。
何かあれば離れているところにいる人に即座に連絡することが出来ますので。
ご当主は、レインフォード・バルクス・シュタリア様。
中央では『国王の末子を唯一支援する変わり者。されど才気あふれる人物』として知られております。
実際に、日夜モンスターの脅威にさらされている伯領にも関わらず、大きな被害を出されない手腕はすごいの一言では語れません。
ご正室は、エリザベート・バルクス・シュタリア様。
貴族は多くの後継者を作ることも責務の一つとなるため、普通何人もの側室を置くのですが、レインフォード様はご正室のみ。
つまり奥さまはお一人となります。
私の精神感応のお相手となります。
年齢が近いためか非常に親しくしていただいております。
(たまに職務中に友達感覚でお茶に誘われるのが少し困りますが。)
貴族にありがちな
私の中では常に優しく微笑んでいる印象が強いですね。
ご両名とも、貴族らしからぬ貴族かもしれません。
メイドや屋敷で働く者に対して、厳格ではあれ
地方であれ中央であれ、ほとんどの貴族は長年続いた王国の歴史の中で血筋的に劣化したのでしょう
傲慢・尊大を絵に描いたものばかり、正直バルクス家に仕えることになった時もまずは、何かあった時に娘に害が及ばないようにと考えたものです。
(幼女趣味や加虐趣味のような特殊な癖の貴族がごまんといますので)
こちらに勤める事が出来たのは神に感謝しなければいけませんね。
伯爵には現在三名のお子様がおられます。
ご長男は、エルスティア・バルクス・シュタリア様。
今年で四歳になられます。つまり、私の娘とは同い年となります。
ご長女は、アリシャ・バルクス・シュタリア様。
ご次女は、リリィ・バルクス・シュタリア様。
ご長女とご次女は、双子で生後三か月となられます。
私は、エルスティア様の護衛役を一歳になられる頃から務めております。
エル様は……一言で言えば、子供らしからぬ子供、でしょうか?
一歳のころからお屋敷の中を動き回っていましたが、台所のような危険がある所には扉があいていても外から
そもそも
特に好きな場所が、書庫と言うのも変わっていると言えるかもしれません。
毎日のように書庫に行き、本を取り出しては読み、眠くなったらその場で横になり、しばらくしたら起きて、また本を読む。
が日課で今もその行動は変わりません。
魔法に興味を持たれてからより
性格としては、子供らしからぬ礼儀さを兼ね備えておられ、メイドに何かを依頼する際にも命令ではなく懇願されます。
逆にこちらが恐縮してしまうこともしばしばあります。
ご両親の良いところを余すことなくお継がれになっていると、常々感じます。
いずれエル様が当主になられた際には、愛娘もメイドとしてお傍に仕えさせたいと考えるほど将来が楽しみなお方です。
そういえば、魔法と言えば驚きました。
まだ四歳なのにウォーターボールの魔法を最初の詠唱で成功。
しかも十回詠唱するまで魔力枯渇しなかったのです。
四歳くらいであれば、ウォーターボールクラスの低級魔法でも多くて四回が限度です。
私自身、エル様が四回以上詠唱したあたりから、気を失った際に支えられるように準備をしていましたが、十回も詠唱したことに少々驚き、反応が少し遅れてしましました。
(幸いにも仰向けに倒れなかったので事なきを得ましたが。)
簡単に見積もっても一般の子供の二.五倍の魔力量。
もちろん精神感応にて奥様へ報告しましたが、自身の才能に
この事実は、エル様が大きくなるまで伏せることにしました。
――――
(ファンナ、ちょっといいかしら?)
不意に、奥様から精神感応にてメッセージが来ました。
奥様もエル様と同じく、まずこちらの都合をお聞きになるという貴族らしさが無いなぁと少し可笑しくなります。
(はい、奥様、大丈夫です)
(エルは今、何をしているかしら?)
(そうですね。魔法書に記載された魔法陣を紙に模写されています)
(あら? だったらお茶の準備が出来たんだけど断られるかしら?)
(確認してみますので少々お待ちいただけますでしょうか?)
(よろしくお願いするわ)
「エル様」
「ん? どうかしましたかファンナさん?」
「お茶の準備が出来たころですが、奥さまの所に行かれますか?」
「うーん、そうだなぁ」
と、言いながら左肩を右手でトントンする。どこか大人くさい。
「うん、そうだね。脳が疲れたから、甘いものを食べたほうがいいかも」
脳が疲れる? エル様はたまに不思議なことを言う。
何かの本でそういった言い回しが書いてあったのだろうか?
「では、奥さまの所に参りましょう」
と、床に座っているエル様に右手を差し出す。
「うん、ありがとう」
と、エル様が私の手をつかんだ所で引き起こす。
「それじゃ、ファンナさん。行こうか」
と、手を繋いだまま。歩き出す。ここら辺はやっぱり子供だな。とほほえましく思う。
(奥様、エル様とそちらに向かいます。)
と奥様にメッセージを飛ばして歩き始める。
これからもこんな日が続けばいい。そう思ったいつもの午後でした。
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