第18話:機動要塞の脅威①
【sideカズマ】
「………………」
ここ最近ルーチンワークとなっている墓掃除をする俺に対して、ずっとダクネスが後ろから無言の圧力をかけてくるのが気になって仕方がない。
「言いたいことがあるならさっさと言えよ。ていうか、あんな状況で雰囲気に流されるお前にだって問題があると思うんだ」
夢と思い込んでいたとはいえ堂々とセクハラかました俺が言うのも何だがな。
「……ッ!…………」
一瞬俺に何かを言いかけるも黙り込んむダクネス。
いやほんと、後ろでそんなハッサンの如く腕を組んで仁王立ちされると凄く作業がやりずらいんだが。
あの後多勢に無勢でしばかれた(遅れた合流しためぐみんには特に入念にボコられた。あれはまるで何か、やり場の無い怒りをぶつけるような鬼気迫るものだった……みんちゃすに相当煮え湯を飲まされたらしい)俺だったが、あのサキュバスの女の子だけは逃がす事に成功した。
そしてダクネスはあの時の俺がサキュバスに操られていた(みんちゃす?あいつは「みんちゃすだから」で納得された)と、都合の良い解釈をしてくれている。……のだが、
「………本当に、昨日の夜の事は覚えていないんだな?お前はあのサキュバスに操られていたせいで、記憶が無いのだな?」
「ああ、残念ながら覚えていないよ。良い夢を見ていたとしか覚えていない」
やっと口を開いたか。せっかく都合良い解釈をしてくれてるので、お互いのためにもここは便乗しておこう。
「そ、そうか。なら良いんだ。……うん、まあしょうがない。事故みたいなものだ、私も忘れるとしようか。……しかしあの時のお前は、何だか強引で、ちょっと怖かったが悪くは無かったな。ものを知らない純真無垢な私に、好き勝手吹き込んでくれたのは頂けなかったが」
誰かに聞かれたら確実に誤解されるような、やたらといかがわしい言い方をしているが、ただ風呂場で背中流して貰っただけだからな?……お互い全裸だったことはさておき。
「純真無垢?……ハンッ」
「っ!?き、貴様……今私のことを鼻で笑ったか!?」
「ノーコメントで。というか本気で世間知らずの箱入りお嬢様でもあるまいし、もうちょっと常識を勉強しろよ。大体、どう考えても今回の事は俺ちっとも悪くないだろ。ランタンに火だって灯しておいたし、入浴中の札も掛けていたし。まったく、どこの誰がいたずらをしたのやら……」
「……お、おい、お前はやっぱり昨夜のことを覚えているんじゃあないのか?あれは本当に、サキュバスに操られての行動だったのか!?」
後ろから肩を掴んで揺さぶってくるがアーア-キコエナイ、ハカソウジヲシナクチャ。
まあ何にせよ、これてようやく生活基盤が出来上がった訳だ。衣食住さえ揃ってくれればこっちのもんだ、後はどうとでもやっていける。
この世界でようやく安らげる場所を得られたことで、今夜はとてもよく眠れそうだった。
『デトロイヤー警報!デトロイヤー警報!機動要塞デストロイヤーが突如として進路を変更!、現在この街へ接近中です!冒険者の皆様は、装備を整えて冒険者ギルドへ!そして街の住人の皆様は、ただちに避難してくださーいっ!!』
……街中に轟いた全てをぶち壊そうとするアナウンスさえ流れてこなければ。
「逃げるのよ!どこか遠くへ逃げるの!」
屋敷に戻るとアクアが、「私今テンパッてます」と顔に書かれているかのような慌てっぷりで色んな物をひっくり返していた。
そんなアクアとは対照的に、その隣では既に荷造りを終えためぐみんが、小さな鞄を一つだけ横に置きつつ達観した様にお茶を飲んでいる。
「もうジタバタしたって始まりませんよ。住む所も全て失うなら、もういっそ魔王の城にカチコミにでも行きましょうか」
部屋で装備を整えてギルドに向かおうとした俺は、その二人を見て唖然としていた。
「……えっと。どうしたお前ら。何だこの状態は?緊急の呼び出し受けてるんだぞ、装備整えてとっとと行こうぜ」
俺のその言葉に、二人は俺に気づいた様だ。
「カズマったら何言ってるの?ひょっとしてみんちゃすだけでなくアンタまで、機動要塞デストロイヤーと戦う気?」
枕を脇に抱えながらアクアが呆れた様に言った。というか緊急の呼び出しを受けただけで、まだ状況が分かっていないんだが。相当ヤバイ物が接近中と言う事だけは分かるが。
「カズマ。今この街には、通った後はアクシズ教徒以外は草も残らないとまで言われる最悪の大物賞金首、機動要塞デストロイヤーが向かって来ています。デストロイヤーと戦うなんて、自殺しに行くようなものですよ?みんちゃすのお母さんくらい強いなら話は別ですが」
毎回思うがみんちゃすのお母さん、人間辞めてる指標に使われ過ぎじゃね?
「ねえ、私の可愛い信者達がなぜそんな風に言われてるの?こないだウィズにも言われたんだけど、どうしてウチの子達ってそんなに怯えられているのかしら。みんな普通のいい子達ばかりなのよ!?」
アクアが何かを喚いているが、今はそれどころじゃないので無視。
前からちょこちょこ聞くが、機動要塞って何だ。名前からしてデカそうだが。
「なあ、それはめぐみんの爆裂魔法でどうにかならないのか?名前からして大きそうし、遠くから丸分かりだろ?魔法で一撃じゃダメなのか?」
「無理ですね。デストロイヤーには強力な魔力結界が張られています。爆裂魔法の一発や二発、簡単に防がれてしまうでしょう。……みんちゃすのお母さんの究極剣技『ストレート・フラッシュ』でと魔力結界に防がれて傷一つつけられないので、撃退するにはもう一つの究極剣技を使う必要があるそうです」
何者なんだよデストロイヤー。そしていくつあるんだよみんちゃすのお母さんの究極剣技。
「ねえ、ウチの信者はいい子達よ!めぐみん聞いてよ、巷で悪い噂が流れてるのは、心無いエリス教徒の仕業なのよ!みんなエリスの事を美化してるけど、あの子、アレで結構やんちゃな所があるのよ!?ああ見えて意外と武闘派だし、悪魔相手だと私以上に容赦がないし、ケイオス先輩に影響されたのか結構自由奔放だし!案外暇な時とか地上に遊びに来てたりしてるかもしれないわ!そんな訳でアクシズ教を!アクシズ教をよろしくお願いします!」
「アクア、日頃神の名を自称しているだけじゃ飽き足らず、更にはエリス様の悪口まで言うなんてバチが当たりますよ?」
「自称じゃないわよ!信じてよー!!」
俺は辺りを見回し、そこにダクネスやみんちゃすの姿がない事に気が付く。
「なあ、ダクネスは?」
半泣きのアクアにガクガク揺さぶられているめぐみんに尋ねると。
「みんちゃすはもうギルドに行きましたよ。ダクネスは部屋に駆け込んで行きましたが」
まともなのは
デストロイヤーだかオキシジェンだか知らないが、この街にはせっかく手に入れた屋敷があるんだ。行き付けの店だって増えており、それになにより、俺にはまだやり残したことがこの街にある。昨日は
とりあえず武装を整え、俺もみんちゃすに続いてギルドへと向かわないと。
「……遅くなってすまない!……ん、どうしたカズマ。早く支度をして来い。みんちゃすには別に逃げても別に構わないと言われたが、やはり私にはこの町を見捨てることはできん。……お前も、きっとギルドに行くんだろう?」
屋敷の二階から降りてきたダクネスが、見た事も無い重武装に身を包み、俺を見るなり言ってきた。
逃げる為に部屋に荷物をまとめに行ったのではなく、装備を取りに戻っていたらしい。
腐っても聖騎士か、こういうときの責任感は人一倍強い。街の住人を放って逃げると言う選択肢など、最初から存在しないらしい。
それにみんちゃすも、普段は暢気だったり暴力的だったり気まぐれだったり横柄たったり横暴だったりサディストだったりド外道だったりするが、こういう緊急時にこそ誰よりも頼りになる。そして意外なほど情に厚い、心の優しい魔法使いだ。
それに比べてこいつらときたら……
「おいお前ら、みんちゃすやダクネスを見習え!長く過ごしたこの屋敷とこの街に、愛着は無いのか!ほら、ギルドに行くぞ!」
「……ねえカズマ、今日はなぜそんなに燃えているの? なんか、目の奥が凄くキラキラしてるんですけど。ていうかこの屋敷に住んで、まだちょっとしか経ってないから、愛着も湧きようが無いんですけど……」
薄情な意見は一切聞き入れません。
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