第15話:魔法使い達の交流会①

【sideカズマ】


屋敷を手に入れた。

それはつまり一番懸念されていた、冬越しという案件が解決された訳だ。

早速パーティーメンバー四人でここに移り住むことになり、内心ワクワクしていた訳なのだが……。

「いいからさっさと退けや駄女神!寒いなら自分の部屋で布団にでもくるまってろ!」

新生活初日にして早速揉め事発生。

冬は強いモンスターしか活動していないので、みんちゃすみたいなバグキャラはともかく、駆け出し冒険者の俺達四人は街に篭るしか無い。

厄介な借金を早く返したいので内職を貰ってきたのだが、この寒さでは手がかじかんで作業が上手く捗らない。

なので屋敷の一階にある広間の暖炉を使いたいのだが、自分の特等席だと勝手に主張しているアクアがソファーにしがみつき、現在激しい抵抗を見せていた。

「嫌よ、お布団なんて一度外に出ちゃったら冷えちゃうじゃない!私に再び布団で寝て欲しいのなら、お布団をレンジでチンして頂戴!」

「異世界にそんな文明の利器があるかァァァ!わがまま言ってないでとっとと退けよ!誰の借金の為に働いてると思ってんだ!……これ以上邪魔するなら、俺にも考えがあるからな」

「なによ、やる気?お互い素手の状態なら、ステータスが超高い私の方に分があるわよ。暖炉の前は私の聖域。これを侵す者には天罰があああああああああーっ!?」

言う事聞かないアクアの首筋と背中にフリーズと言う名の天罰をくれてやると、アクアは悲鳴を上げてしがみついていたソファーから転がり落ちる。

空いた暖炉の前のソファーに座り、抱えていた材料をテーブルに置く。

「フッ、完全勝利……という訳で、この場所は晴れて俺の物になったようだな。ほら、手伝う気が無いなら向こうの二人に遊んで貰ってこい。……あ、みんちゃすは刀の手入れで忙しそうだから邪魔してやるなよ?」

首筋を押さえて絨毯の上でプルプルしているアクアにしっしと手をやる。

「~♪」

広間の端ではみんちゃすが上機嫌で、『九蓮宝燈』と『雪月華』の刀身を磨いている。

自分の魂とまで評していた『九蓮宝燈』はともかく、アレだけ名前が変だのとボロクソにこき下ろしてた『雪月華』もしっかり気に入ってるようだ。……まああのデザインは中二病でなくても格好いいと感じるが。

広間の中央ではダクネスとめぐみんが、この世界のチェスにも将棋にも似たボードゲームに興じている。

「フフ、我が軍勢の力を見るがよいです。このマスにオーク兵をテレポート」

「めぐみん、ウィザードの使い方がイヤらしいぞ。……ここにクルセイダーを移動、そして王手だ!」

「かかりましたね!ここでアークウィザードがテレポート発動!クルセイダーはいしのなかにいる!」

「ええっ!?」

魔法の概念があるこの世界では、チェスみたいな遊びのルールも若干違う。

あのボードゲームはめぐみんと一回やってみたが、敵の王様に盤外へテレポートされた時点でもう二度とやらないと心に決めた。

……と、首を押さえて震えていたアクアが、何を思ったかバッと立ち上がり、懐から自分の冒険者カードを取り出し、俺に向けて突きつける。

「ちょっとカズマ!これを見なさいな、レベルの欄を!私はこのパーティーでみんちゃすに次いで高レベルなのよ?そろそろ中級冒険者と呼ばれてもおかしくないレベルなのよ?レベル15にも満たないひよっ子の分際でおこがましいわよ!ほら、分かったら格上の私に暖炉の前を譲りなさいな!」

突き出してきたカードを見ると、確かにアクアのレベルが跳ね上がっていた。

表示レベルは17。

考えてみれば、ベルディアは浄化し損なったものの、先日の屋敷騒動での幽霊の浄化や、その前のダンジョンでの大量のアンデッド……更にはリッチーまで浄化したのだ。

アクアの成長を喜ぶと同時に、レベルを追い抜かれた事でちょっと悔しさも…………あれ?

「……なあアクア。お前、レベルは上がってるんだけども。ステータスが最初見た時から一切伸びてないのはなぜ?」

「はー?バカねカズマ、この私を誰だと思っているのよ。ステータスなんて最初からカンストしてるに決まってるじゃない。この私をそこらの一般冒険者と一緒にする事が間違ってるわ」

俺は思わずアクアのカードを取り落とし、そのままガクリと絨毯に膝をつく。


つまりこいつは、どれだけレベルを上げても……もうこれ以上知力は上がらない訳だ。


深い悲しみに包まれた俺はカードを拾い上げ、アクアに返すと暖炉の前を譲ってやった。

「あら?なによ、随分素直じゃないの。……ねえ、なんで泣いてるの? そんなにレベル抜かれたのがショックだったの?……ね、ねえ、なんでそんな肩ぽんぽんして私に優しくするの?なんでそんな可哀想な人を見る目で私を見るの?ねえってば!」

俺は暖炉の前にアクアを座らせると、今日はもうとても仕事をする気分では無くなってしまった為、気分転換に街にでも繰り出す事にした。






【sideめぐみん】


ボードゲームで無事ダクネスに勝利したので、日課の爆裂散歩に出かけることに。

私としては付き添いには爆裂ソムリエたるカズマがベターだったのだが、何やらアクアとのやり取りでショックなことがあったらしく、ダクネスとの決着が着いた頃には既に屋敷にいなかった。

「で、代わりとして俺に白羽の矢が立ったって訳ね……。今日はブリザードドラゴンでも狩りに逝こうと思ってたんだがな」

「そんな買い物に行くみたいな感覚で討伐するモンスターじゃないですよねブリザードドラゴン……。というか別にいいですよ行っても、むしろ行こうではないですか!フッ……我が究極の魔法で跡形も無く消し飛ばし、ドラゴンスレイヤーの称号を我が物にしてみせよう!」

「却下。おいしい所全部譲った挙げ句、動けなくなったオメーを担いで街まで帰るなんてただの罰ゲームだろーが」

せっかくの素晴らしい提案だと言うのに、ノリの悪いみんちゃすに一蹴されてしまった。下手に食い下がれば彼は躊躇無く帰るだろうし、ここは大人の余裕で譲歩してあげようではないか。

外へ向かうため二人で雪が積もる街を歩いているが、寒さのためか人もあまり出歩いてはいない。この時期には駆け出しがどうこうできるモンスターは活動していないので、大抵の冒険者達は屋内に引き篭るぐらいしかすることがない。

例外は隣の男のような絶対的な強者。先ほどブリザードドラゴンがどうとか言っていたが、みんちゃすは私達が屋敷でゴロゴロしているときもしょっちゅう難関クエストを受けており、報酬の一部を借金返済に当てている(本人は全額借金返済に補填しても構わないと言っていたが、意外とそういうのを気にするカズマが断固として遠慮したことで、最終的に報酬の一割に留まった)。私やダクネスもついていこうとしたのだが、足手まといにしかならないとみんちゃす……ではなくカズマに却下された。当然私達は激しく抗議したのだが、「最近覚えたリッチースキルで魔力吸うぞ」と手をわきわきしながら脅されたので引き下がらざるを得なかった。まったく、我が爆裂魔法のための魔力を奪おうとするとは……あの男は正真正銘アクセル随一の鬼畜だ。

……まあ私はマシな方か、ダクネスはみんちゃす本人に拒否されていたし。

「……おや?」 

「んー?」

「え?……あっ、君達はこの間の」

と、もうすぐ街の門に着くという頃に、つい最近知り合った魔法使いと遭遇した。以前カズマに絡んできたチンピラが所属しているパーティーの魔法使い、リーンだ。

緑色のパーカーの上に青いマントを羽織り、赤みがかった茶色の長い髪を後ろで束ねた女性だ。おそらく私達より年上なのだろうが、同年代と言われてもあまり違和感が無いくらいの幼い顔立ちだ。……いや私はロリっ子などでは断じてないが。 

トマトが敷き詰められた袋を抱えている所を見るに、買い物帰りだろうか?

しかしみんちゃすは首を傾げて一言。

「……誰だっけオメー?」

「もう忘れられてる!?ほ、ほらっ、先日ウチのチンピラがカズマに絡んで、1日だけパーティーを交換したじゃない?」

「チンピラ?チンピラチンピラチンピラ……あー、あのゴミだかクズだかって名前の三下かー」

「いや、ダストだよ……確かにゴミクズみたいな性格してるけど」

仲間に対して酷い言い草だ。確かにカズマに対してひどいいちゃもんをつけてきたが、爆裂魔法の良さがわかるあたり根は悪い人ではないと思う。

「あーそっかそっか、思い出した思い出した。確かあのチンピラの取り巻きその1だっけ?」

「あのねみんちゃす君、言って良いことと悪いことの区別もつかないのかな?」

余程お気に召さなかったらしくリーンは瞳から光を消しながら、懐からダガーを取り出し、脅すようにみんちゃすに突きつけた-



瞬間にそのダガーの刀身が真ん中で真っ二つに叩き折られた。


「…………え?」

「テメーこそ俺に刃物を向けたからには、死ぬ覚悟はできてんだろうなー?」

何が起こったかわからず呆然とするリーンの首筋に、いつの間にか鞘から抜かれた『雪月華』の刃が添えられる。

どうやら冬将軍顔負けのIAIGIRIでダガーをぶった切ったらしい。相変わらず魔法使いらしくない理不尽な強さだ。

「え?あっ……ひっ……!」

ようやく現状を把握したリーンの顔が、それこそ冬将軍のように蒼白に染まり、その場にへたり込む。

人が少ないとは言え街中でこの光景は洒落にならないので、私は慌ててみんちゃすを止めに入る。

「街中で何してるのですかあなたは!?売られた喧嘩は買うのが紅魔族とはいえやり過ぎですよ! 上級冒険者ならもう少し大人な対応をしてください!」

「俺はまだ13だから大人な対応をする義務はねーし。……まあ流石に命まで取る気はねーけどな」

そう言ってみんちゃすは『雪月華』を鞘にしまうと、座り込んだリーンに手を貸して立たせた。

「何が気に触ったのかは知らねーが、今後は考えなしに格上に武器を向けねーことだな」

「あっ、うん、あの……ごめんなさい……そ、それじゃあたしはこの辺で……」

みんちゃすのことが完全に恐怖対象になったらしく、リーンはそう言ってそそくさと立ち去ろうとする……が、みんちゃすはリーンの肩をがっしり掴んで逃がさない。

「まあ待てやパーカー女。確かにめぐみんの言う通り、ペーペー魔法使い相手に大人げなかったかもなー。それにダガーもぶっ壊しちまったし」

「パーカー女!?ペーペー魔法使い!?……い、いや気にしなくてもいいよ。先に武器を向けたのはあたしなんだし-」

「ちょうど俺達も暇してるし……詫び代わりに一つ、魔法のレクチャーでもしてやるよ」

「いやいやいや、ペーペー魔法使いのあたしじゃ恐れ多い-」

「まあその前にめぐみんの爆裂散歩が先だけどな。それじゃさっさと行くぞ、善は急げだ」

「お願いだから話を聞いてえええええええ!?」

諦めてくださいリーン。みんちゃすはあなたの話をちゃんと聞いています、聞いた上で無視してるのです。

涙目になりながらみんちゃすに引きずられていくリーン。誰がどう見ても拉致現場だが、街の住人は関わりたくないとばかりに目を逸らす。圧倒的な力の前では正義など無力に等しいのだ。

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