第12話:悪霊屋敷①
【sideみんちゃす】
「え、えっと。それでは、ひと通り私のスキルをお見せしますから覚えていって下さい。以前見逃してくれた事への、せめてもの恩返しですので……」
あのとき俺に爆発魔法相当の攻撃をぶち当てられてなおこう言えるとは、信じられないレベルの甘ちゃんだなこいつ……。
ふとウィズはハタと何かに気付いた様に、俺とアクアを交互に見て困った様に、俺達三人を交互に見ておどおどしだした。
「どうした?」
問いかけるカズマに、ウィズは怯えながら俺とアクアを見る。
「私のスキルは相手がいないと使えない物ばかりなんですが、つまりその……。誰かにスキルを試さないといけなくて……」
要するに実験台になれってか。
「なあみんちゃす-」
「却下」
「そんな食い気味に断らなくてもいいだろ!?」
「ついこないだ骸骨ヤローに勝ち逃げされてイライラさせられたんだ、リッチースキルなんて死んでも喰らってたまるかよ」
ああ思い出したら段々イライラしてきた。
「……じゃあアクア、悪いけど頼めないか?」
「ほー?アンデッドがこの私に何のスキル使おうっての?」
ウィズを威嚇するアクアに、ウィズが怯えたように身を引きながら。
「そ、その……。ドレインタッチなんてどうでしょ-」
「死ねぇぇぇえええええ!」
「痛あぁぁああっ!?」
怒りに任せてウィズの脳天に闘気を纏った手刀を叩き込んだ。
「ふう、すっとしたぜ」
「すっとしたぜ。……じゃねぇよ!」
「へぷっ!?」
その直後カズマに俺の後頭部にドロップキックを浴びせた。
「何しやがる!?痛……いや、そこまで痛くなかったわ。悲しいなカズマ」
「うるせーよ!?俺の攻撃力は放っとけ!……というか、いきなり何してんだよお前は!?」
「ドレインタッチと聞いてあのボンクラに苦渋を飲まされたことを鮮明に思い出しちまったから、怒りに任せて八つ当たりしただけだが?」
「そも当然のように淡々と言ってるけどかなりゲスなことしたからなお前。結構大事なやりとりしてるんだから邪魔すんなよ」
まあ確かにこれ以上はっちゃけるのはアレだし、ここはおとなしく引き下がっておこう。
「痛たたた……も、もちろんほんのちょっぴりしか吸いませんので!スキルを覚えてもらうだけなら、ほんのちょっとでも効果があれば覚えられると思いますので!」
慌てたように口早に言うウィズにアクアは、仮にも女神を名乗ってる奴の笑顔とは思えない凶悪な笑みを浮かべた。
「いいわよ?構わないわよ、幾らでも吸って頂戴。さあどうぞ?」
アクアが差し出した手を、ウィズが恐る恐る手に取る。が、
「で、では失礼します………………。…………? あれっ?あ、あれっ?」
何らかの不都合が起きたらしく、ウィズが露骨に慌て出した。
「ほらほらどうしたの?私から魔力や体力を吸うんじゃないの?あらあら、アンデッドの元締めみたいな存在のクセに、ドレインすらできないのかしら?」
余裕たっぷりのアクアに対し、ウィズがみるみる涙目になっていく。
「あ、あれえぇぇえええ!?」
どうやらアクアが、ドレインさせない様に抵抗しているらしい。ほう……女神を自称するだけあって、器用なことできるんだな。
業を煮やしたカズマは、無言でアクアの後ろ頭を引っぱたいた。
「痛いっ!?……ちょっとカズマ、邪魔しないでよ!これはリッチーと女神の戦いなのよ!そう易々と吸われたりしたら女神の名が泣くのよ!」
「そんなもん勝手に泣かしとけ。……悪いなウィズ。どうもこいつは職業柄、アンデッドが受け付けられないらしくてな」
代わりに謝るカズマに、ウィズがとんでもないとばかりに首を振った。
「い、いいえ!そ、その、私がリッチーなのが悪いんですから……」
つくづく思うが、なんでこいつはあんな強いのにこんな及び腰なんだ?
この世は弱肉強食。
強者は全てが肯定され、弱者は全てが否定される……すなわち弱者は悪で、強者こそが正義の筈だろうに。
「で、では失礼します」
気を取り直して、ウィズはアクアの手を握り、再びドレインタッチを行った。ドレインタッチはアンデッド特有のスキルで、相手の生命力や魔力を吸いとったり、逆に自らの生命力や魔力を相手に分け与えたりできるらしい。
おそらく骸骨ヤローが俺を倒したのもこのスキルだ。生命力を吸いとるスキル……生命力を体外に放出する闘気術にとってはまさに天敵のスキルだ。
しかし、リッチースキルか……
んー……
……まあ国家転覆罪クラスの不祥事を犯さない限り問題無いよな、うん。
「あ、あの、アクア様?もう大丈夫ですよ、手を離して頂いても……。というか、アクア様に触れていると何だか手がピリピリするので、そろそろ離して欲しいのですが……」
「…………」
カズマが冒険者カードを操作してドレインタッチを習得している最中、またアクアがウィズにちょっかいをかけていた。
「ア、アクア様?あの、手が熱くなってきたんですが……、というか、痛いです、あの、痛いんですが!アクア様、私の体がどんどんその、蒸発するみたいに浄化されていってるんですが、アクア様、消えちゃう消えちゃう、私、消えちゃいます!」
「どさまぎで何してんだお前は」
「痛い!」
ウィズの手をしっかり握り、嫌がらせしているアクアの頭をカズマがひっぱたいた。
なんかウィズ半透明になってるし、握ってるだけでリッチーを浄化できんのかよこいつ……スペック自体はえげつないほど高いのに、なぜこんなに残念なんだろうな。不思議だ。
「ごめんください、ウィズさんはいらっしゃいますか?」
そんな風にこの世のミステリーの一つにぼんやりと考察を巡らせていると、中年の男が店先の鐘を鳴らしながら入って来たのは。
「「「「悪霊?」」」」
話をまとめるとこの冴えない中年は不動産業を営んでいて、最近この街の空き家に様々な悪霊が住み着いて困ってるのだという。
冒険者ギルドにも相談したのだが、悪霊の討伐クエストを出して退治しても、またすぐに新しい悪霊が住み着いてしまうんだとさ。……そういや最近ギルドの掲示板でそんな依頼がしょっちゅうあったな。
前代未聞の悪霊騒ぎか……………まさか……………いや証拠がある訳じゃないし、仲間を疑うのは良くないよな。
「悪霊を祓っても祓っても、幾らでも新しいのが湧いて住み着いてしまうんですよ。今は物件を売るどころではなく、物件の除霊をするので精一杯でして」
男が疲れた表情でため息をついた。そもそとなんで魔道具店の店主にそんな相談を?……という疑問が顔に出ていたカズマに、中年は説明する。
「ウィズさんは店を持つ前は高名な魔法使いでしてね、商店街の者は困ったことがあるとウィズさんに頼むのですよ」
「かの有名な『氷の魔女』だもんなー」
「あ、あの、みんちゃすさん……できればその二つ名は持ち出さないで欲しいのですが……」
顔を真っ赤にして俯くウィズ。中々スタイリッシュで格好いいのに何が不満なんだよ?
「特にアンデッド絡みの問題に関しては、ウィズさんはエキスパートみたいなものでして……」
そりゃアンデッドの王だからな。
「それで、こうして相談に来た訳なんです」
アンデッドの王にゴーストバスターの相談か……事情を知ってる身からすればシュール極まりない光景だ。
だが中年はウィズを見ながら、困った様な表情を浮かべて言った。
「ですがその……ウィズさんは、今日は何だか具合が悪そうですね。いつも青白い顔をしていらっしゃいますが、今日は何だか半透明で特に酷いですよ?」
体が半透明な時点で具合が悪いとかそういうレベルじゃねーだろ……。
「…………」
カズマが無言で、先ほどウィズを浄化しようとしたアクアにジト目を向けると、気まずそうに目を逸らしてソワソワしだした。
ウィズは幾分辛そうに笑いながらも、頼り無さげにポンと自分の胸を叩く。
「大丈夫ですよ、任せてください。街の悪霊達をどうにかすればいいんですね?」
「ああ、いえ!全ての建物の悪霊をどうにかして欲しいという訳ではなくですね……。その、例の屋敷をどうにかして欲しいと思いまして……」
「ああ、あそこですか。なるほど……では任せてください。あの屋敷の中に迷い込んだ、悪霊だけをどうにかしますね?」
ウィズがそう言って立ち上がり、やがて力が抜けた様によろめいた。
「ああっ!ウ、ウィズさん、具合が悪いなら結構です、無理しないでください!」
中年に慌てて支えられる衰弱したウィズを見ていられないのか、アクアが更に目を逸らした。
「……流石に放っとけねーよな」
「ああ、そうだな」
俺の言葉に同意し、アクアの顔を無言でジッと凝視するカズマ。
「…………わ、私が、やります……」
耐え切れなくなったアクアが、やがて小さな声で呟いた。
しかし悪霊、か……。
「……この屋敷か」
街の郊外に佇む、一軒の屋敷。
中年の話では、部屋数は屋敷にしてはそれほど多くは無いと言っていたが……クリアカンにある俺の邸宅よりも広いな。
元はとある貴族の別荘だったらしいが、その貴族がこの別荘を手放したそうで、売りに出されようとしたところにこの悪霊騒ぎというわけだ。とんだ災難だなその貴族も。
「悪くないわね!ええ、悪くないわ!この私が住むのに相応しいんじゃないかしら!」
アクアが小さめの鞄を手に興奮したように叫び、同じく鞄を手にするめぐみんも心なしか顔が紅潮している。大貴族のララティーナや組の幹部待遇である俺は比較的淡白な反応だが、それでも仲間と共同生活に憧れてたであろうララティーナは嬉しそうだし、俺もいちいちクリアカンからアクセルまでテレポートで往復しなくて済むので内心喜んでいる。
……それにしても、デカいせいで悪霊集まり過ぎて幽霊屋敷のレッテルを張られたとは言え、除霊が済んだ暁には悪評が消えるまでタダで済んでいいとは……珍しくカズマの幸運値が仕事したんじゃねーか?
「しかし、本当に除霊ができるのか?聞けば、今この街では払っても払ってもすぐにまた霊が来ると言っていたが」
ララティーナが大きな荷物を背負いながらそう言う。
「それにこのお屋敷、長く人が住んでいない感じなのですが。悪霊騒ぎがあったのはここ最近ですよ?もしかして、今回の街中の悪霊騒動が起きる前から問題がある、訳有り物件だったりして………」
めぐみんまで不安そうにしている。
「オメーら心配性だなー……なんとかなるだろ、多分」
そんな俺の言葉に反応しら、何故かめぐみんがニヤニヤし始めた。
「相変わらず暢気なこと言ってますけど、みんちゃすこそ幽霊苦手なのに大丈夫なんですか?聞きましたよ?以前族長の家に泊まった際に、夜寝られなくなってゆんゆんに泣きついたとか痛だだだだだだだ!?」
イラっとさせられたお礼に大般若鬼哭爪でもプレゼントしてやろう。
「お望みなら今この場でオメーを幽霊にしてやろうか?んー?」
「ごめんなさい調子に乗ってからかおうとしました放してください!」
第632次紅魔大戦にも無事勝利したことで、めぐみんをこの悪魔の鉤爪から解放してやった。……にしてもあのぼっち、人の無かったことにしたい過去ペラペラと話しやがって。今度会ったら縛り上げて凹凸の激しい場所でひたすら引き摺り回してやる。
「つーか俺が幽霊苦手だったのなんざ、いつの話だと思ってんだ?闘気や水のエレメント纏わせれば普通にシバけるし、今の俺からしたらもはや悪霊なんざ恐るるに足らねーよ」
「あなたの苦手意識の規準は殴れるか殴れないかなんですか……」
そりゃそうだ、打つ手が無い相手ほど恐ろしいもんは無い。……例えば母ちゃんとかな。
「……ま、まあ何にしても。たとえそんな問題物件だったとしても、俺達にはアクアとみんちゃすがいる。だろ?大丈夫だよな、戦闘の達人と対アンデッドのエキスパートだし」
相変わらず清々しいほど他力本願だなこいつも……。
「任せなさいな!……ほうほう。見える、見えるわ!この私の霊視によると、この屋敷には貴族が遊び半分で手を出したメイドとの間に出来た子供、その貴族の隠し子が幽閉されていたようね!やがて元々身体の弱かった貴族の男は病死、隠し子の母親のメイドも行方知れず。この屋敷に残された少女は、やがて若くして父親と同じ病に伏して、両親の顔も知らずに一人で寂しく死んでいったのよ!名前はアンナ=フィランテ=エステロイド。好きな物はぬいぐるみや人形、そして冒険者達の冒険話!でも安心して、この霊は悪い子じゃないわ。私達に危害は加えないはずよ!おっと、でも子供ながらにちょっぴり大人ぶった事が好きな様ね。甘いお酒を飲んだりしてたみたいよ。という訳で、お供えはお酒を用意しておいてねカズマ!」
ペラペラとそんな事を語り始めたアクアだが、カズマはそんなアクアを胡散臭い似非霊媒師を見る視線で眺め、俺達に尋ねた。
「……なあ、どう思う?何でそんな余計な設定や名前まで分かるんだってツッコミたいんだが。……あいつ、本当に大丈夫なのか? 俺、もしかして安請け合いしちまったのか?」
「知らね。まあ大丈夫じゃね?多分」
「「……………………」」
我ながら適当に返事した俺に対し、二人はカズマと同じ不安を抱えていたのか質問には答えなかった。
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