第18話:魔剣の勇者③
【sideカズマ】
悪魔染みた手際でミツルギを上手く乗せて不平等な賭けを受けさせ、そのまま圧倒的な実力差で捩じ伏せたみんちゃすは…
「ほーれ、遠慮せず飲め飲めー」
「がぼぼぼぼぼ!?」
何やら体に優しくない色をした液体を、気絶しているミツルギに無理矢理飲ませている。
「ちょ、ちょっとアンタ!キョウヤに何をやってるのよ!?」
「あー?合計二回、何でも俺達の言うことを聞くって決まっただろー?その内の1回分を消費しているだけだよ」
「そ、それにしたって……いったい何を飲ませたのよ!?」
「あー、これ?これはつい先日とある店で衝動買いしたポーションでな……何でも飲んだ奴のレベルを1までリセットする効果があるんだと」
「「えぇっ!?」」
絶句する二人を余所に、みんちゃすはミツルギの懐から冒険者カードを取り出し、ステータスを確認する。
「……勢いで買っただけで半信半疑だったが、本当にリセットされるんだなー。ま、もう一度最初から鍛え直すんだなー」
え、えげつねぇ……。
絶句したまま取り巻き二人を捨て置き、みんちゃすはミツルギに冒険者カードを返しつつ俺の方に視線を向ける。
「それでカズマ、オメーはどうするんだ?」
「え、俺?んー、そうだなー……」
おもむろに俺はミツルギに近づき、腰に差していた魔剣を剥ぎ取った。
「それじゃこの魔剣貰っていきますね」
その言葉に取り巻きの一人がいきり立つ。
「なっ!?ば、バカを言ってんじゃないわよ!そもそもその魔剣はキョウヤにしか使いこなせないんだから!」
自信たっぷりに言ってくる少女の言葉に、俺はアクアの方を振り向いた。
「……マジで?この戦利品、俺には使えないの?」
「あー、うん。魔剣グラムはその痛い人専用よ。装備すると身体能力が格段にブーストされ、石だろうが鉄だろうがばっさり斬れる魔剣だけれど、カズマが使ってもただのナマクラよ」
「ふーん……そだ、念のため試してみよーっと。カズマ、ちょっと魔剣貸して。ダクネスはそこ立ってて」
「え?ああ」
「……ん、わかった」
言われるがままに魔剣を渡すと、みんちゃすは上機嫌で二、三回素振りをしてから-
「てりゃっ!」
「あぁぁあぁあああんっ!」
「「「「「えぇっ!?」」」」」
ダクネス目掛けてフルスイングした。魔剣は鎧を断つこと叶わず、ダクネスは気色悪い喘ぎ声を上げながら遥か後方に吹っ飛ばされた。開いた口が塞がらない俺達をよそに、みんちゃすは魔剣に目を落として一言。
「……なるほど。重いくせに全然斬れやしねー。確かに全然ダメだな」
「ダメなのはあなたの頭ですよ!いきなり何してるんですか!?今のダメじゃなかったらもっとダメだったでしょうが!」
いち早く復活しためぐみんが、みんちゃすの頭を思いっきりひっぱたく。
「わりーわりー。ちょっと気になったもんで、ついやっちゃった♪」
「あれほどの暴挙をやっちゃったで済ませましたよこの男!?」
なんて後先考えない上に非道徳的な思いつきなんだ。普段はそうでもないが、このパーティーに入っただけあってこいつもやはりアレな思考回路してやがる。
「み、みんちゃす……いきなりこんな激しいのは、その……それもこんな公衆の面前で……」
そしてもじもじと赤面しながら戻ってきたダクネスはみんちゃす以上にダメだ。
……確かに使えなさそうだけど、せっかくだし記念に貰っとくか。
「じゃあな。そいつが起きたら、お前もこの勝負を引き受けたんだから恨みっこ無しだぞって言っといてくれ。……それじゃギルドに報告に行くか」
みんちゃすから魔剣を返してもらうと、そう言って俺は踵を返す。しかしミツルギの仲間の少女がそうはさせないと武器を構えた。
「ちょっとあんた待ちなさいよっ!」
「キョウヤの魔剣、返して貰うわよ!そっちの小さな子はともかく、アンタみたいな勝ち方私達は認められないわ!」
その二人の少女に、俺は手をワキワキさせて見せた。
「……真の男女平等主義者の俺は女の子相手でも、ドロップキックを食らわせられる男。手加減してもらえると思うなよ……公衆の面前で、俺のスティールが炸裂するぞぉ……っ!」
別の意味で身の危険を感じ取ったのか、二人は不安気な表情で後ずさった。
「「「「うわぁ…………」」」」
そんな俺に、軽く引いている仲間達の視線が痛いです。
邪魔が入ったものの、ようやくギルドへと帰還した俺達。
クエストの完了報告は報酬を全額受けとるアクアにでも任せ、俺は馬を返してからある所で戦利品の魔剣を用いて錬金術を行った後、皆より遅れて冒険者ギルドの前へとやってきた。
「な、何でよおおおおおっ!」
入る直前に聞きなれた喚き声。
……あいつはとにかく騒ぎを起こさないと気が済まないのだろうか。
中に入るとそこには、涙目になったアクアが職員に掴みかかっていた。
「借りたオリは私が壊したんじゃないって言ってるでしょ!?ミツロギって人がオリを捻じ曲げたんだってば!それを、なんで私が弁償しなきゃいけないのよ!」
そういえば勝手にオリを曲げて、アクアを助けようとしてたんだった。まあそれを証明する物は何もないだろうし、代わりにアクアが壊れたオリの請求を受けているってわけか。……あとアイツはミツラギだ、名前くらいちゃんと覚えてやれよ。
しばらく粘っていたアクアだったがやがて諦めたのか、沈んだ表情で報酬を受け取り俺達のテーブルへやって来る。
「……今回の報酬、壊したオリのお金を引いて、10万エリスだって……。あのオリ、特別な金属と製法で作られてるから20万もするんだって……私が壊したんじゃないのに……」
……流石にこれはちょっと同情するな。今回のムツルギに関しては、アクアはとんだとばっちりだ。
「あのカツラギとかいう男、今度会ったら絶対ゴッドブロー食らわせてやるわ……!」
席についたアクアが光を失った目で、メニューをギリギリと握り締めながら歯軋りする。
「んー…あんな目に遭って、アイツにまだ冒険者を続ける気概があるのかねー?」
『精霊の王アンサー・終章』を読みながら呟いたみんちゃすの言葉に俺も同意する。強力な装備は奪われ、こつこつ上げていたレベルをリセットされたんだ。俺だったらきっと、重課金していたソシャゲをアンインストールされたぐらいの無気力感に襲われることだろう。
……と、アクアが未だ悔しげに喚く中。
「ここに居たのかっ! 探したぞ、佐藤和真っ!」
ギルドの入り口にちょうど話題のバツルギが、取り巻きの少女二人を連れて立っていた。
教えてもいない俺のフルネームをいきなり叫んだクツロギは、俺達の居るテーブルをバンと手を叩きつけた。
「佐藤和真!君の事は、ある盗賊の女の子に聞いたらすぐに教えてくれたよ。パンツ脱がせ魔だってね。他にも、女の子を粘液まみれにするのが趣味な男だとか、色々な人の噂になっていたよ。鬼畜のカズマだってね」
「おい待て、誰がそれ広めてたのか詳しく」
盗賊には心当たりはあるが、他が問題だ。俺の知らない所でそんな根も葉もない噂が蔓延っているのか。
続いてガチルギは、未だに本を読み耽っているみんちゃすの方を振り向く。……あ、アクアが無言でゆらりと立ち上がりサツルギの方へ……。
「それに、君があの『赤碧の魔闘士』だったとは……。実力は確かだが性格は極めて粗暴で凶暴だって聞いていたから、まさか君のような幼い子がそうだとは思わなかったよ。……レベルもリセットされたようだし、現時点では君には到底及ばないだろうが、僕はいずれ君よりも強くなり、そして魔王を-」
「ゴッドブロー!」
「ぐぶぇえらっ!?」
「「ああっ!?キョウヤ!」」
格好良さげな台詞の途中でアクアにぶん殴られ、イツルギが吹っ飛んだ。
床に転がるゴツレギに、慌てて仲間の少女達が駆け寄る。あまりに突然のことに何が起きたか分からないといった表情のペツルギに、アクアがツカツカと詰め寄りそのネツルギの胸ぐらを掴み上げる。
「ちょっとあんた!壊したオリ弁償しなさいよ!30万よ30万、あのオリ、特別な金属と製法で出来てるから高いんだってさ!ほらとっとと払いなさいよっ!」
さっき、あのオリ20万って言ってなかったか?
デツルギは殴られた所を押さえ、尻餅をついたまま素直にサイフから金を出す。
ピツルギから金を受け取り、アクアはホクホクしながら再びメニューを手に取った。
気を取り直したナフルギが、上機嫌でメニューを片手に店員を呼ぶアクアを気にしながら、俺に悔しそうに言ってくる。
「手も足も出なかったみんちゃす君は当然として君にも……あんなやり方でも負けは負けだ。負けておいてこんな事を頼むのは虫がいいと言うのも理解している。……だが、頼む!魔剣を、返してはくれないか?あれは君が持っていても役には立たない物なんだ-」
「もしもし、ちょっといいですか?」
ドツルギの言葉を途中で遮り、めぐみんがクイクイとヤツルギの袖を引く。
「……?なにかな、お嬢さん……?」
ククロギの注意を引いためぐみんは、そのまま俺の腰辺りを指で差す。
「……まず、この男が既に魔剣を持っていない件について」
「!?」
言われて気づいたビツルギが、
「さ、佐藤和馬!魔剣は!?ぼぼぼ、僕の魔剣はどこへやった!?」
顔中に脂汗を浮かべて俺にすがりつくセプルギに、俺は金貨がパンパンに入った袋を見せながら、
「売った」
「ちっくしょおおおおおお!」
乙ルギは、泣きながらギルドを飛び出していった。
「あーあ、凄まじい転落っぷりだなー……まあアイツが真の勇者なら、これぐらいの逆境乗り越えて行けるだろ多分」
視線は本に向けたまま、みんちゃすはそんな適当な一言で締めくくった。
「……もしアイツが立ち直れなかったら?」
「知らん」
なげやりにも程がある。
「はぁ……どうなっても知りませんよ?資質は本物なようですし、もしかしたら凄い実力をつけてリベンジに来るかも-」
「こいつを抜いてもいいくらいに強くなったんなら、そのときは……」
めぐみんの台詞を遮り、みんちゃすは明いている手で『九蓮宝燈』を弄りながら、
「真正面から相手してやろうじゃねーか」
本から顔を上げ不敵に笑いながら言い切った。
……そういやこいつ、戦闘狂だったな。
「しかし、何だったのだあいつは?アクアが女神だとか何とか言っていたが……」
先ほどの騒ぎで冒険者達の好奇の視線を浴びながら、ダクネスがそんなことを言ってきた。
……まあ、ゲツルギあれだけ女神がどうたらと言いまくってりゃ疑問に思うわな。
……この際だ。今後隠すのも面倒だし、こいつらにはもう言ってしまうか。
俺がアクアに視線をやると、分かったとばかりにアクアはこくりと頷く。
そしてアクアは珍しく……本当に珍しく真剣な表情で、ダクネスとめぐみんに向き直る。
その雰囲気を察し、二人は真剣に聞く姿勢に入った……。
「今まで黙っていたけれど、あなた達には言っておくわ。……私はアクア。アクシズ教団が崇拝する、水を司る女神。……そう、私こそがあの、女神アクアなのよ……」
「「っていう、夢を見たのか」」
「違うわよ!何で二人ともハモってんのよ!」
……まあ、こうなるよな……。
「ね、ねえみんちゃす……私が女神だって、みんちゃすは信じてくれるわよね?」
「あー信じる信じる。信じるから今ちょっと話しかけてくんな、ちょうどアンサーが魔王を倒すクライマックスシーンなんだよ」
信じると口では言いつつも、その視線は本に完全集中していて、アクアの方を見向きもしない。あまりにぞんざいな対応にアクアは涙目になり、その場に体育座りで落ち込む。
「しかし随分熱心に読んでるな。あの本、そんなに面白いのか?」
「……え?カズマ、『精霊の王アンサー』を知らないんですか?ごく普通の少年だったアンサーが魔王に拐われた姫を助けようと、親代わりであり親友の獣人、大剣士ポチと共に旅立ち、精霊達と心を通わせ幾多の困難を潜り抜け、ついには人類で初めて魔王を打倒するという、超王道の物語ですよ。何を隠そうこのアクセルの街は以前、王となったアンサーが収めたアクセル王国という名の小国だったらしく、街の中心地には今でもアンサー王の銅像が建っていますよ」
めぐみんの話を聞いていると、何だか俺も読みたくなってきた。読み終わったらみんちゃすに貸してもらおうかな……。
と、そんなことを思っていると……。
『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘体勢で街の正門に集まってくださいっっ!』
毎度恒例の、緊急を告げるアナウンスが辺りに響き渡った。
「またかよ……?最近多いな、緊急の呼び出し」
行かなきゃ駄目か?……駄目だろうなあ。ヴァトゥルギとひと悶着あった後だし、正直今日はもう働きたくないんだが……。
『緊急!緊急!……特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』
「…………え?」
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