第17話:魔剣の勇者②

【sideみんちゃす】


単刀直入に言うと、俺はこのミツルギとかいう勘違いナルシストが気に入らないので、とてつもなく痛い目に遭わせてやることに決めた。

「……なんだよみんちゃす?この魔剣の人に何か用事でもあるのか?」

「確かに俺達はこいつのパーティーに行くのは御免被る。が、この正義感の強そうな兄ちゃんも、ハイそうですかと引き下がりそうにはねー。……だろ?」

「勿論だ。少なくとも僕に魔剣という力を与えてくれたアクア様を、こんな境遇の中に放ってはおけない。アクア様は僕と一緒に来た方が絶対にいい」

完全に自分に酔っている独善的な言い分に、俺は内心虫酸が走りながらも表面上は納得したように頷く。

「ふーん、まあ一理あるかもな。だがアクアは俺達のパーティーの優秀な……優秀……?まあ能力は優秀か……優秀なアークプリーストだ。おいそれと引き渡す訳にはいかないなー」

カズマが何か物申したそうにしているが、話が進まないので今はスルー。

「そこで提案なんだが……魔剣の兄ちゃん、ちょっと俺達と勝負しねーか?」

「勝負だって?」

「パーティーリーダーのカズマと、一応パーティーで一番レベルが高い俺とアンタが連戦し、両方ともオメーが勝ったらそっちの勝ち。何でも一つ言うことを聞いてやる。アクアを連れていきたきゃ好きにすればいい。……だが俺とカズマ、どちらかでもオメーに勝てたら、反対に何でも一つ言うことを聞いてもらうぜ。どう見てもフェアな条件とは言えねーが、高レベルの上級職だったらこのくらいのハンデは許容してくれるよな?」

カズマ、めぐみん、ダクネス、そして勝手に賭けの対象にされたアクアまでも俺にジト目を向けてくるが、嘘言ってないのだから気にしない。ちなみにカズマを巻き込んだのは、散々コケにされたカズマにも反撃する機会が与えられるべきだろうと思ったからだ。

ミツルギは大して悩みもせずに、爽やかな顔で了承し-


「……わかった、受けて立とうじゃないか-」

「よしじゃあ行くぞ!」


-た途端にカズマはミツルギに襲いかかった。どうやらカズマも我慢が限界にきていたらしい。カズマは左手をワキワキさせて、右手で小剣を鞘ごと引き抜き殴りかかる。

これを卑怯だと言う甘ちゃんもいるだろうが、俺はそうは思わない。これはスポーツでも騎士の決闘でもないただの喧嘩、そこに決められたルールなど存在しない。ましてや魔剣持ちの高レベル上級職を駆け出しレベルの最弱職が打倒しようと思えば、少なくとも相手の想定を越えた攻めが必要になるのだから、手段や勝ち方など選り好みしている余裕はない。

「えっ!?ちょっ!待っ……!?」

了承した途端に斬りかかられるとは思っても見なかったのか、慌てるミツルギだがレベルだけは俺に匹敵するだけあって、咄嗟に腰の魔剣を引き抜くと、それを横にしてカズマの小剣を受け止めに入る。

む……まずいなー、この奇襲を防がれたら勝ち目はほぼ無くなるなー。

カズマの右手の小剣が魔剣に当たる寸前、カズマは左手を突き出して……!


「『スティール』ッッッッ!」


……ほー、そう来たかー。

叫ぶと同時にカズマの左手には、小剣を受け止めようとしていたミツルギの魔剣が収まっていた。

「「「「「「はっ?」」」」」」

俺とカズマ以外の全員が、思わず間の抜けた声を漏らす。

窃盗スキルを組み込んだカズマの攻撃にミツルギは成すすべも無く、カズマが振り下ろした小剣で頭を思い切り強打された。

……方法はどうであれ、最弱職が高レベルの上級職に土をつけたか……めぐみんにせがまれて渋々このパーティーに入ったが、中々見所があるなー。

 





「卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!」

「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」

ミツルギの取り巻き共からの罵倒を、カズマは勝者の余裕で甘んじて聞いていた。

鞘越しにショートソードで頭を強打されたミツルギは、現在無様な体勢で白目を剥いて倒れている。……やっぱりこいつも期待外れだな、そもそも期待すらしてねーけど。

「……アクア、ちょっとこいつに用があるから、回復魔法かけてやってくれ」

「えー、私もうこの人に関わりたく無いんですけど」

「また酒奢ってやるから-」

「この私に任せなさい!『セイクリッド・ハイネス・ヒール』!」

渋っていたアクアは奢りと聞いて即座に最上級の回復魔法をミツルギにかけた。ここまで清々しいとむしろ美点だなー。

「……うっ、ここは……」

「よう、お目覚めかー?駆け出しの最弱職の搦め手にまんまとやられた勇者様よー」

特に理由もなく煽る俺の言葉に、ミツルギは全てを理解したのか顔を歪めて呻く。

「っ……そうか……僕は負けてしまったのか……」

「キョ、キョウヤは負けて無いわよ!あんなの無効よ無効よ!」

「そうよそうよ!やり直しなさいよ!」

ミツルギを庇うように、取り巻き二人が俺に詰め寄る。

「あのなー…魔剣なんて持ってる高レベル上級職相手に最弱職のカズマが、持てるスキルを巧みに扱い勝利をもぎ取ったんだ。それにいちゃもん付けるのは、ハッキリ言って器が小さ過ぎるぞー?」

「「う、うぐぐ……!」」

完全に言い負かされ、悔しそうに歯軋りする取り巻き達。負けは負けなのでミツルギも異を唱えることはできず、ただ呆然としている。 

「しかもカズマのことだから、その魔剣奪われちゃうかもなー」

「そ、そんな……!?」

悲痛そうに顔を蒼白させるミツルギ。

安心しろ、ちゃんと一縷の希望という名の新たな罠は残してやるからよ。

「……まあ文句を言いたい気持ちもわからんでもない」

わからねーけどな。

「加えて今の俺はとても機嫌が良い」

ムチャクチャ悪いけどな。

「そこで特別にチャンスをやるよ」

「……チャンス?」

「俺ら二人共に勝たなきゃオメーの負けってルールだったけどなー……もし俺に勝ったら引き分けってことにしてやる。そうなりゃ何でも言うことを聞くって話も白紙だ」

「ほ、本当かいっ!?」

俺の提案にミツルギは即座に活気を取り戻す。……カズマ達四人の同情するような視線には一切気づかない。

「その代わりに、俺が勝ったら約束は二つ聞いてもらうけどなー」

「……わかった、その提案を飲もう」

学習しねーなこいつ。……いや、ちゃんと不意打ちに備えて魔剣に手をかけてるからそうでもねーか。

「……すまねーなカズマ。せっかくのオメーの勝利を不意にしてしまうかもしれないなー」

「ああ、うん、なんでもいいよ」

一応カズマにも(棒読みで)断りを入れておくと、明らかに面倒臭そうな対応をされた。

「……さてと、それじゃあ始めるかー。……あ、大抵の怪我ならアクアが治してくれるから、心置きなく攻撃しても構わねーぞ」

「そ、そうかい?流石女神様だ……ん?」

ミツルギは、丸腰で構えを取る俺を不思議そうに見る。

「君はアークウィザードだろう?杖は使わないのかい?」

「生憎と、今日はもう魔力を使いきっていてなー……体術も一応得意だから、肉弾戦でいかせてもらうわ」

そもそも杖なんて使わねーけどな。

「そ、そうなのか……魔力の無いアークウィザードと戦うのは気が引けるが、僕も負けられない理由がある。この魔剣だけは渡すわけにはいかないからね。悪いけど全力でいかせてもらうよ!」

そう言うとミツルギは魔剣を抜き、俺に向かって真正面から斬りかかってきた。根は悪人でないため急所を外すように振るわれたそれを、俺は

「ほー、敏捷性も剣速も大したもんだなー。この分だと破壊力もスゲーのかー?」

「当然さ。このグラムは所有者の膂力を格段に引き上げ、あらゆる物を切断する魔剣だ。……君も中々の身のこなしだ。体術が得意というのは本当だったのか」

ミツルギはそう感心しつつも、さらに激しく俺に剣を振るう。……が、全て紙一重で俺にはかすりもしない。




俺がしばらくの間攻撃を躱し続けると、ミツルギの表情からはどんどん余裕が無くなっていき、取り巻きの二人も信じられないような表情になる。

「う、嘘……キョウヤの攻撃がまったく当たらない……!?」

「あの子何者……?アークウィザードなんじゃないの……?」

近接戦闘が得意なアークウィザードの何が悪い。

「くっ……どうなってるんだ……!?」

「んー……確かにパワーもスピードも大したモンだがよー……何だこの素人くせー太刀筋は?俺を馬鹿にしてんのかー?」

「な、なんだと……!?」

俺の言葉に動揺し、攻撃を中断してしまうミツルギ。

仮にも高レベルの上級職であるこいつに俺が何の関心も抱かなかったのは、紅魔の里を出てからこのパーティーに入るまでに、こいつのような輩と何度も戦い、そしてなんども肩透かしを食らったからだ。

こいつらが期待できない理由は主に二つ。

まず一つ目。こいつは違うが大抵が黒髪黒目で、全員何かしら強力な武器だの特殊能力だのを持っていて、さらにどこ出身かもわからない独特な名前の奴ら。世間一般ではチート持ちという呼び名で持て囃されているこいつらは総じて……

「《両手剣》スキルを取っているようだが、オメーの太刀筋には柔軟性がまるでー。一から十まで教科書通りの見え見えの剣だ。……どうやらオメーは修練スキルのことを、ただ手軽に武器が扱えるようになるスキルと履き違えてるみてーだなー」


アークウィザード故にスキルに頼らず自力で剣術を磨いた俺からすれば、虫酸が走るほど甘ったれた考えで日々を生きていることだ。


「いいかボンクラ、この手の修練スキルで身に付くのはあくまで基本の型だけだ。そこから日々の鍛練と実戦を積み重ねて、自分に適した型へと発展させていくものなんだがよー……オメーはもうレベル37になるってのに、基本型から一切進歩してやがらねー。どうやらオメーはよっぽどその魔剣グラムとやらの性能に甘えて、これまで楽をしてきたみてーだなー」

「そ、それは……!」

俺の指摘に心当たりがあるのか、ミツルギの魔剣を握る手が震える。

そう……この手の輩は総じて、そのチート能力とやらに頼りきった軟弱ヤロー共だ。

正攻法で戦ってくる格下相手なら無双するが、先ほどのカズマのように搦め手を使われたり、ご自慢のチート能力と相性の悪い相手や、自分と同格かそれ以上の相手と戦ったときは、大抵あっさりと敗北する。

強さに深みがまるで無いから、不足の事態に直面すると勝機を手繰り寄せることができない。おまけに挫折すると大抵はトラウマになるほどビビって、強敵には挑まなくなる。

そんな雑魚狩り専門の小物共ごときに、この俺を倒せる筈もない。

そして二つ目だが…

「ところでよ……さっきのオメーの話からして、その魔剣はアクアから貰った物なのか?」

「あ、ああ」

「魔王を倒そうとしてるのもアクアにそう頼まれたから、と」

「そ、そうだが……それがどうしたんだい?」

どうしたんだい?じゃねーよクソボケ。

「つくづく憐れな奴だなー」

「な、なんだと!?」

このパーティーに加入するまでは基本的にほとんどソロでやっていた訳だが、当然の如く俺を引き入れようとする勧誘は後を絶たなかった。そしてこのチート持ちの連中からも幾度となく勧誘を受けたのだが、そいつらが誇らしげに言う台詞は決まって-


『自分は女神から力を授かった選ばれし勇者だ』

『自分は女神から魔王を倒すことを命じられた』


この二つのどちらか、あるいは両方だ。

戦う力は女神とやらに恵んでもらったもので、魔王討伐は女神とやらに頼まれたから。どこにもそいつ自身は存在しない。フロンティアスピリッツの欠片も無い。

そんな空虚な奴等に、己の意思で覇道を突き進む俺が遅れを取る筈がない。

「力も、志も……オメーの誇るものは何から何まで全部借り物だなー。所詮お下がりでしかないものをご自慢にひけらかしてるような矮小なヤローが勇者を自称するなんざ、滑稽過ぎて笑えてくるんだよバーカ」

「だ…黙れえええええええええ!」

自分の誇り全てを侮辱されたことでミツルギは完全に冷静さを失い、魔剣を俺に向かって振り下ろすため大きく振りかぶ-

「所詮はこの程度かー……リュウガの足下にも及ばねーな」

ろうとした瞬間に急接近した俺に手首を強打され、ミツルギは思わず魔剣を取り落とす。

「あ、え……?」

「これで魔剣の加護は無くなっちまったなー。みんちゃす式殺法その3・鳩尾抉り」

呆然とするミツルギの鳩尾に、思いっきり蹴りを叩き込む。先ほどのカズマとの戦いでわかったが、魔剣の加護が無いこいつの耐久はレベルの割にあまり高くないため、ミツルギはあっさりと昏倒した。

……実に虚しい勝利だ。

ちなみにわざわざバカな格下処刑用の技で終わらせたのは、こんな情けねー奴に『ちゅーれんぽーと』は勿論、本気の格闘技すら勿体ねーからな。

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