第12話:首無し騎士①

【sideみんちゃす】


「カズマ、早速討伐に行きましょう!それも沢山の雑魚モンスターがいるヤツです!新調した杖の威力を試すのです!」

「いや、ここは強敵を狙うべきだ!一撃が重くて気持ちいい、凄く強力なモンスターを……!」

「いいえ、お金になるクエストをやりましょう!ツケを払ったから、今日のご飯代も無いの!」

相も変わらずまるでまとまりが無いパーティー。こいつら清々しいまでに自分の欲望に忠実だなー……俺としては魔王軍幹部とやらに喧嘩売りに行きたいが、流石にこいつら連れていくのは危険だしなー……。

「とりあえず、掲示板の依頼を見てから決めようぜ」

カズマの意見に倣い、皆で掲示板まで移動すると……。 

「……あれ?何だこれ、依頼が殆ど無いじゃないか」

普段は大量に貼られている依頼の紙が、今は数枚しか貼られていない。……そういや幹部が近くにいるんだったな……。

「カズマ!これだ、これにしようではないか!山に出没するブラックファングと呼ばれる巨大熊を……」

「却下だ却下!……おい、何だよこれ!?高難易度クエストしか残ってないじゃないか!」

んー……どれもこれも危険だなー……。俺一人なら問題ねーが、ハプニング製造機を三人も抱えたパーティーで受けるにはリスキー過ぎる。

二の足を踏む俺達のもとに、ギルド職員がやって来た。

「ええと……申し訳ありません。最近魔王の幹部らしき者が、街の近くの小城に住み着きまして……。その影響でこの近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しております。来月には国の首都から騎士団が派遣されるので、それまではそこに残っている高難易度のお仕事しか……」

申し訳無さそうな職員の言葉に、文無しのアクアが悲鳴を上げた。

「な、なんでよおおおおおっ!?」

流石に可哀想だから、飯ぐらいは奢ってやるか……。

……にしても、騎士団を派遣?母ちゃんが所属してた頃ならまだしも今の腑抜けきった軟弱者共に、魔王軍の幹部をどうこうできるとはとても思えねーなー……。

そんな風に内心で王国騎士団をこれでもかと言うほどこき下ろしてると、ギルド職員が俺に一枚の紙を渡してきた。

「あの、みんちゃすさん。騎士団の方々が到着する前に、城に住み着いた幹部及びその配下の戦力を把握しておきたいのですが、偵察のクエストを引き受けてくれませんか?」

「ん、おっけー」

頼まれなくてもいずれちょっかいかけにいくつもりだったので、俺は二つ返事で偵察クエストを引き受けた。

……仮にクエスト中にその幹部と戦う羽目になったとしても、それは不可抗力だから仕方ないよな?そうだよな?そうって今決めた。






さっそく小城に乗り込んだ俺を出迎えたのは、ゾンビの上位種アンデットナイト達。素の戦闘力も中々な上、物理的な攻撃だけではトドメを刺せないので、神聖魔法が使えなければ討伐が難しい厄介なモンスターだが……


「紅魔撃滅拳・清水しみず!」


水のエレメントを纏った拳による高速の乱打が、アンデッドナイト達を蹴散らしていく。

この程度のモンスター、ハッキリ言って俺の敵ではない。アークウィザードの俺は神聖魔法なんざ使えねーが、魔導を極めたリッチーを除くアンデットは大抵水に弱い。流石に水をかけただけでは浄化できねーが、水の属性付与エンチャント魔法「ウォーター・ウエポン」を纏った攻撃で、原形を留めなくなるまでぶっ壊せば倒せるのだ。

向かってくるアンデットナイト達を蹂躙しつつ、俺は城の最上階を目指す。人間にしろモンスターにしろ、城に住む偉い奴ってのは大抵が最上階にいるものだ。

「それにしてもアンデットナイトってことは、ここにいる幹部はアイツか……」

以前リュウガと共闘してどうにか迎え撃ち、ケティの予期せぬ助太刀もあって撃退できたが、あれから大分強くなったとはいえ俺一人で挑むには、ちとばかし荷が重い相手ではある。……まあ引き際をどうするかは戦いながら考えるか。


「さてと…………オラァァアアアッ!とっとと出てこいや首無し野郎!」


俺は方針を決めると、怒号と共に最上階の部屋の戸を蹴破って突入した。

「ほわぁああっ!?な、何事だ!?……お、お前は『赤碧の魔闘士』!?我が配下達の反応が次々途絶えていったのはお前の仕業か!?」

俺のヤクザ式入室に慌てた様子でこちらにかけ寄ってきたのは、デュラハンのベルディア。この城に住み着いた魔王軍幹部にして、死の宣告で生きとし生きる者に絶望を与える不死身の首無し騎士、通称『チート殺しのベルディア』だ。……「ほわぁああっ!?」とかダッセ。魔王軍幹部だとか威張ってるくせに超ダッセ。

「ぎゃーぎゃーやかましいんだよこのド腐れ騎士が。魔王軍幹部のくせにこの駆け出し冒険者の街まで、わざわざ弱い者苛めしに来やがったクズ野郎め」

「人聞きの悪いこと言うな!?この街の周辺に強大な光が落ちてきたとあのイカれ研究者がやたらとうるさいから、魔王様の命を受けてわざわざ調べに来たんだよ俺は!」

……俺と同じような理由ってわけかい。

「要はパシリか。はっ、頭の足りない腐れ騎士にはお似合いの扱いだな」

「パシリ言うな!あと誰が頭の足りない腐れ騎士だ!?人の身体的特徴を上手いことディスりやがって!」

ベルディアは手に持った頭を傾けて、ガックリと項垂れることを表現すると……

「……それで赤碧の魔闘士よ、貴様はいったいここまで何をしに来た?」

その直後に俺に向かって獄大の殺気をぶつけた。

ふむ……生半可な冒険者ならこれだけで意識を失いそうな濃密さだ。……以前俺が母ちゃんのプリン勝手に食べた時、シバき倒される前に母ちゃんから受けたヤツには及ばねーがな。

「あー?物わかりが悪いなオメー。冒険者が幹部の住む居城の最奥部まで乗り込んできたからには、そいつを討伐しにきた以外の理由があるとでも?」

そう言って俺は左足を軽く引きつつ半身に体を置き、僅かに腰を落としながら両腕を静かに構えた。そんな俺を見たベルディアは感心しつつも呆れたような声で、

「ほう、以前よりも格段に強くなったようだな。……だからと言って、たった一人でこの俺に挑むのは無謀ではないか?あのソードマスターのヤクザ者や、色んな意味で無茶苦茶なアークプリーストは連れて来なかったのか?」

「リュウガは若頭の仕事で忙しいし、ケティは音信不通でどこにいるのかも知らねーよ。それに駆け出しの街の冒険者じゃこのクエストにはレベル制限で参加てきねーし、よしんばできたとしてもただ足手まといになるだけだ。……ま、何も問題ねー。以前無様に尻尾を巻いて逃げ出したテメーなんざ、俺一人で十分事足りるぜ」

実際にはケティ抜きだと俺達が敗色濃厚、良くて相討ちだったし、そもそも俺が引き受けたクエストは偵察なのだが、そんなことはおくびにも出さずひたすら腐れ騎士をコケにする。

俺はこんな見た目小柄な体格だから初見なら足を掬い易いが、既にこちら側の強さが割れている状態で格上を打倒するには、それ相応の戦術と工夫が必要不可欠。安い挑発だが、冷静さの一つでも奪えれば儲けものだ。

「……良かろう。魔王様に仕える騎士として、いずれ魔王軍の脅威となるであろうお前を……我が全力を以て摘むとしよう」

しかし文字通り腐っても騎士と言うべきか、ベルディアは重厚な大剣を構え、驕りも油断も見受けられない目でこちらを睨む。

チッ、そうそう上手くは乗って来ねーか……こうなったら腹括るしかねーな。

「『パワード』、『プロテクション』、『ラピッドリィ』、『マジックゲイン』!いくぜオラァッ!修羅滅砕拳!」

強化魔法でドーピングした俺は、すかさずベルディアの懐に潜り込み拳を打ち込むが、ベルディアも即座に反応し大剣で拳を受け止める。拳の勢いを完全に殺しきれずベルディアは幾ばくか後退するが、ダメージを与えるには至っていない。

「ぬぅっ!…確かに恐るべき力だが、不用意に俺の間合いに入ったのは迂闊だったな!」

返す刀でベルディアは体験を横一文字に薙ぎ払うが、

虎狼輪廻流ころうりんねながし!…っ…からの『エア・ウォーク』!」

俺も利き脚を軸に円の動きでそれを受け流してダメージを軽減させ、回転の勢いのまま空中を蹴り出しベルディアの背後に回る。

「悪鬼羅刹掌-っ!?」

「かかったな!」

そのまま背中目掛けて全力の掌底を放つが、いつの間にか頭を空中に投げていたベルディアは、上空から俺の攻撃を見極めひらりと躱した。そして隙が生じた俺目掛けて再び大剣を薙ぐ。今からでは回避も受け流しも間に合わないため、俺は体と大剣の間に腕を割り込ませガード体勢に入った。

「無駄だ!その細腕ごと両断してやる!」 

ベルディアは構わず剣を振り抜き、俺の腕に大剣が触れる瞬間、

「『へヴィ・メタル』!」

俺の唱えた土の上位属性付与スペシャルエンチャント魔法によって部屋中に重厚な金属音が鳴り響く。流石に威力を殺しきれず俺も刃を受け止めた箇所から少なくない血が流れ出すが、死んでねーならこの程度必要経費だ。

「何っ!?……くっしまった、高密度の土のエレメントで肉体を鋼のように硬化させる魔法か……!」

「その様子だとすっかり頭から抜けていたようだな。まあ無理もねーか……攻防ともに優秀な魔法だが、わざわざ魔力を消費してそんなことするくらいなら、強力な剣なり頑丈な防具なりに頼った方がいいからな」

上位属性付与魔法がマイナーなのは、大抵が強力な装備なり上級魔法なりで代えが効くからだ。

「紅魔撃滅拳・金剛!」

「ぐぉぉおおおっ!?」

隙を逃さず俺はベルディアの懐に入り、がら空きのボディ目掛けて鋼の如き拳を連続で叩き込む。先程の激突で剣を握る手に痺れが伝わっていたのか、ベルディアはガードが間に合わず幾度も鈍い音を響かせ、そのまま後方に撥ね飛ばされた。

……ここだ、ここで畳み掛けるぞ!


「『フレイム・ウエポン』、からの……喰らえ、火焔竜演舞!」


立ち直りの暇を与えず、俺は炎を纏った『ちゅーれんぽーと』で、炎の斬撃を四発ほぼ同時に繰り出した。

「ば、バカな!?それはティアマットの-ぎゃあああああ!?」

四つの斬撃は一つの巨大な炎となり、四倍の火力となってベルディアを容赦なく包み込んだ。

しかしこの程度で魔王軍幹部が倒せたと思うほど、俺は楽観的な思考回路をしていない。

残存魔力量に注意しつつ、俺は切り札である紅魔爆焔覇の構えを取ろうとしたその瞬間、


城全体をとてつもない衝撃と轟音が襲った。


「ーーーッッッ!?これは……!?」

部屋全体が激しく揺れ、天井や壁からばらばらと破片がこぼれ落ちる。そんな不安定な状況ではエレメントの合成なんて繊細極まりねー作業なんてできる訳がなく、暴発を防ぐため俺は属性付与魔法の発動を中断する。それは結果としてベルディアに立て直しのチャンスを与えてしまう。立て続けに俺の連続攻撃を受けたものの、そこまで大したダメージを負った訳では無さそうだ。

「ぐっ……なんだ?貴様の増援か……?」

「……いや、俺の加勢にこれるような奴は、少なくとも今はあの街にいねーよ」

「そうか……理由は不明だが、どうやら運は俺に味方をしたようだな」

理由はわかりきっている。あんな芸当、あの街ではめぐみんしかできやしねーからな。

あんのネタ魔法使いめ、帰ったらまた大般若鬼哭爪の刑だな。


…………いやまてよ?これはもしかしたら……


「流石に驚いたぞ赤碧の魔闘士よ。劣化コピーとは言え、よもや人の身で竜帝の技を身に付けるとはな……さて、それでは仕切り直しといこうか。少々遅れを取ったが、ここからは魔王軍幹部の力を思い知らせて-」

「『テレポート』」

「…………ファッ?」


こっそり詠唱を済ませていた俺は転移魔法を唱え、呆けるベルディアを捨て置きアクセルへと帰還した。


偵察クエスト、達成。






偵察の結果をギルドに報告し、受け取った報酬でその辺の飲んだくれ共に奢ってやりながら、頭の中で今後の方針をまとめる。

交戦の結果、今の俺なら持てる魔法をフル動員すれば、ベルディアと互角以上に渡り合えるとわかった。

……が、どうしても決定打が足りない。身に付けている鎧に何か加護でもかかっているのか、以前よりも格段に頑丈になってやがる。紅魔撃滅拳・金剛と火焔竜演舞であの程度のダメージしか負わないのであれば、仮に紅魔爆焔覇を直撃させてもおそらく倒し切れないだろう。アンデットの弱点である水をぶっかけて抵抗力を下げようにも、そんな弱点は本人が一番理解している筈。故に大袈裟にでも回避しようとするに違いない。

それにアイツを圧倒できたのはこちらが魔法でガチガチに強化していたからだ。そのアトバンテージが無くなれば、間違いなく形勢はたちまち逆転する。俺の大して多くねー魔力じゃ、間違いなくアイツを倒すより先にガス欠するだろうしな。魔力消費を肩代わりできるマナタイトを大量に持ち込むのも一つの手だが、マナタイトから魔力を取り出す際の隙をベルディアほどの相手が見逃すとは到底思えない。

総じて、今の俺では単独でアイツを討伐するのは限り無く不可能だと結論付ける。しかしこのまま奴を生きて帰すつもりはない。『ちゅーれんぽーと』まで抜いたのに結果的に敗走させられたのだ、正直内心腸が煮えくり返っている。この代償はアイツの命で払わせるしか俺の溜飲は下がらない。……とは言え、どうにかアイツを倒すには、少なくとも高レベルのアークプリーストが必要だ。

そこで白羽の矢が立ったのがアクアだ。色々と頭が足らねーようだが、浄化魔法がウィズにすら通用していたことからも、アークプリーストとしての力はケティと同等以上だろう。だがアクアのレベルでは魔王軍幹部の討伐なんて難関クエストなど、危険過ぎてギルドから許可が出る筈が無い。無視して参加させても良いが後からギルドにごちゃごちゃ文句言われるのも鬱陶しい。

……ならばベルディアをここに誘い出し、低レベルだろうと戦わなくてはいけない状況へと誘導すればいい。そのためにはめぐみんの活躍が重要になってくる。さっきの爆発はあの爆裂バカのことだから、クエストが受けられずに溜まった鬱憤をカズマにでもせがんで晴らそうとし、どこに撃とうか探していたらたまたまあの城が目に留まり、あれならぶっ壊しても良いだろうと決めつけてブチ込んだってところだろう。前世が破壊神のアイツはあの城を破壊しようと躍起になり、今後毎日のように爆裂魔法を撃ちに行くに違いない。

俺はベルディアがキレてこの街に殴り込んでくるまで、万全の状態を整えて待っていればいい。

頭の足りない腐れ騎士よ、真っ向勝負では敗走させられたが、我慢比べなら果たしてどうかな?


………つーか腕いてーな畜生!?あの腐れ騎士、何度も思いっきり斬りつけやがって!

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