第六話 自慢のライバル

 臨時陸上部員、朱里の活躍はすごかった。

 練習して挑んだとはいえ、秋の大会で走り高跳びを一六〇センチ飛び、準優勝してしまった。おまけに女子一五〇〇メートルの部にも参加し、みごと優勝という、恐ろしいことをやってのけたのだ。ほかのバスケ部員の活躍も目を見張る結果を出し、陸上部員のメンツがなかった。さすが女子の部活で一番きびしい、といわれる部だけのことはある。

 この大会の結果をみて、正式に陸上部に入部してくれ、と顧問と部長に頭を下げられていた。困った顔で断っていたけど、彼女が褒められるたびに、友達として悪い気はしなかった。むしろ、誇らしく感じる。

 ちなみにわたしは、一〇〇メートル走に出場した。

 まず予選。一組目の三レーンのスタート。出だしは、まあそこそこ。中間地点も、まあそこそこ。最終地点は、足がついてこなくなり、後ろに反り返りながら走って、三位でゴール。自己新記録を出し、なんとか準決勝進出。準決勝は四位で、かろうじて拾われて決勝に残れた。決勝の走りは、予選のときと同じ、後半で足が遅れて反り返りながらゴール。結果、五位だった。

 一〇〇メートルハードルにも参加し、三組目の一レーンでスタート。途中、足がよれそうになったけど予選を一位で通過。準決勝も同じ感じで走り、決勝に進出。先頭グループについていこうとがんばったけど、あまりついていけず、四位でゴール。自己新記録よりも遅かった。

 大会が終わり、成績一覧をみながら彼はうなった。


「それにしても、すごいな」

「うん。小学校からの友達なの」


 でも、彼の方が何倍もすごかった。一〇〇メートルハードルで準優勝、しかも自己新記録を出したじゃない。あのときの勇姿はしっかり目に焼き付いている。


「へえ、そうなんだ。小学校のときから、走るの速かった?」


 えっと、どうだったかな。

 都合の悪いことは忘れることにしているから、思い出すのに時間がかかる。


「長距離の順位は、いつもひと桁だったかな。けど、五〇メートル走のタイムは、わたしの方が速かった。瞬発力だけは自信あるからね」

「長距離ランナー向きかもしれない」


 眼鏡をさわりながら口元をゆがませる彼をみて、なにか嫌な気配がする。


「あ、朱里さん。おめでとう」


 彼女の姿をみつけると、彼は親しげに声をかけて近づいていった。

 笑いあう二人に、まるで以前から知ってるような感じをうける。

 まさか朱里のこと、気になりだしてる? いけない! どんなことがあっても、これは阻止せねば。いくら親友は大事だからといっても、恋の上ではライバルなのだ。

 親しげに話す二人をみながら大会への闘志、ではなく、嫉妬の炎が燃えさかる。

 今度はわたしが助っ人として、バスケの試合に参加することになった。

 というのは聞こえがいいけど、むしろ朱里に頼み込んで、経験者なのでお役に立てるかもしれないのでお願いします、と部長に話をつけてもらったのだ。とにかく、試合で活躍し、朱里よりもわたしの方がすごいってこと、わかってもらわなくては!


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