第71話 評価 → 作戦

「りゅーちゃん、リミたち強くなれたかな?」

「うん、たぶんだけど今の僕たちなら先輩冒険者たちに絡まれても、なんとかなると思う。僕もどのくらい他の人が強いのかはわからないけど、昔冒険者として有名だった父さんのレベルが三十台中盤から後半だったからね」

「そうかぁ、おじさんとおばさんのレベルにいつの間にか近づいていたんだね! 師匠たち喜んでくれるかな?」


 猫耳をぴこぴこと動かしながら嬉しそうなリミ。うん、僕も父さんのレベルに近づけて嬉しいから気持ちはわかるかな。でも、父さんたちは訓練はしていたけど村づくりに大変だったし、たまにしか魔物退治もしてなかった。街の冒険者たちはいつもダンジョンとかで戦ったり、いろんな依頼を受けて経験を積んでいるはずだから……きっとレベルも高いはずだから油断はしちゃだめだよね。


『……本当にそうかね?』


 どういうこと? 


『いや、お前たちはよく頑張ったんじゃないかと思っただけさ。まあ、街に行ってみればわかることだろうしな、俺もこの世界の知識はお前と大差ない。適当なことは言えないさ』


 ええぇ、いつも散々適当なこと言ってるのに今さら? 別にいいけどさ。


「それではリューマ様、明日は予定通りですか?」

「あ、うん。予定通りに明日、九階層を突破して十階層にいこう。それで、十階層を探索したらここを出て山を越えよう。道とかはシルフィに任せるから」

「はい、お任せください。精霊たちに助けてもらえば、迷ったりすることはありません」

「うん、ありがとう」


 特に交換しておいたほうがいいスキルもないみたいだし、武器や防具の手入れも入浴前に終わっている。明日のボス戦での作戦もだいたい話し合って決めているので、ボス前ミーティングはこれで終了かな。


「よし、じゃあ今日はゆっくりと休んで、明日のボス戦に備えよう」

「うん! わかったよ、りゅーちゃん。おやすみなさい」

「お疲れ様でした、リューマ様」

「うん、ふたりともおやすみ」


 あいさつを交わした女性陣が各々の部屋に消えていくのを見送る。明日九階層のボスを倒せば十階層は探索だけだからあと1週間はかからないかな。僕は三カ月ちょっとの間住んできた家の中を見回す。

本当になんにもないところから、よくこんな居心地のいい家を造れたな……でも、家としてはいろいろ足りないはずなんだよね。それなのになんだか離れがたいのは、たぶんリミとシルフィとモフとタツマが一緒だったからだと思う。

 毎日ダンジョンに入って、出会った魔物とどうやって戦うのか相談して、スキルの構成をいろいろ考えたり、食べるものを探したり狩ったり、皆で料理して食べてお風呂を楽しんだり、夜更かししていろんなことを話し込んで昼まで寝過ごしたこともあったっけ。


「凄い楽しかったな……」

『……だな。冒険者登録して冒険者になったわけじゃねぇけど、毎日立派に冒険者してたぜ』

「うん……僕もそう思う」


 でも、いつまでもここにいるわけにはいかないよね。やっぱり正式な冒険者には憧れるし、街でお金を稼いで父さんたちがいつかまた村を造るのを助けたい。


『だからこそ、最後をビシッと決めようぜ。最後の確認だ。九階層のボスの情報をもう一度頼む』

「うん、九階層のボスは九階層の魔物であるバーバリアンの上位種、バーバリアンキング。偵察時にのぞいたときにはレベルは三十七、強敵だよ」

『だな、スキルはどうする』

「持っていたうち【豪腕2】【格闘2】【威圧2】【物理耐性1】は僕たちには必要ないから、無理に交換する必要はないけど【狂人3】のスキルは早めに交換しておきたいかな」


 僕が扉の隙間から【鑑定】して、これは危ないと思ったのはこの【狂人】のスキルだった。これは交換しても活用できるかどうかは微妙なスキルだけど、相手に持たせておくのは怖いスキルだ。


『一時的に全能力を跳ね上げるんだっけか?』

「うん、その代わり判断力は低下しちゃうから……狂戦士バーサーカーになるスキルかな。一応自分で解除できるみたいだけど、判断力が下がっているからちょっと使ってすぐ解除とかも難しいんじゃないかな」

『たしかに自分じゃ使いづらいスキルだな』

「でも、使われるのは怖いよ」

『だな、だが交換に使えるようなスキルはあるのか? レベル3なんだろ?』

「生活スキルのレベル1ならキープしているから、それでなんとかならないかなって思ってるんだけど」


 タツマはモフの頭の上でむにょむにょと形を変えながら、なにやら考えている。


『……レベル差がふたつあるから成功率は五割か?』

「そうだね……二回に一回は成功する予定だし、交換してもいい生活スキルは五つあるから大丈夫だと思う」

『……だな。リューマ【盾術3】を使うつもりはないのか?』

「騎士の指輪がいい感じだから、できれば残したいかな」

『そうか……そうだな。まあ、大丈夫か。あとは称号か?』

「うん、そう。今回のボスは初めて称号があるんだよね、【疲れ知らず】。体力の回復速度が上がるらしいから、長引くとこっちが不利になると思う。なるべく早く倒すようにしないと」

『あとは取り巻きのレッドショットか』

「その辺はさっきの打ち合わせ通りかな。ボスの相手を僕がして、シルフィに防御、リミにレッドショットを倒してもらうつもり」

『作戦としては問題なさそうだな。最後とか、区切りなんてときにはいろいろイレギュラーが起こるのがテンプレだ。油断はするなよ』

「了解」


 改めてタツマと話してよかった。どうやらリミやシルフィといると、僕がリーダーなんだからって気持ちがあって力が入っちゃうみたい。タツマと話をしてるといい具合に力が抜けてリラックスできる。タツマには感謝だね。

 さ、リラックスできたところで僕も早く寝て明日に備えよう。

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