第66話 三か月 → 第九階層
「リミ! その壁の陰にバーバリアンがもう一体! 左の壁には罠があるから触らないで! シルフィ! 壁上部の穴にレッドショットがいるから風で通路に落として!」
「こっちのバーバリアンは任せて、りゅーちゃん」
「お任せくださいリューマ様」
僕は目の前の通路を塞ぎそうな大きさの巨人の魔物バーバリアンを『龍貫の槍』で牽制しながら、発動したままの【音波探知】で得た情報からリミとシルフィに【指揮】で指示を送る。
『暗殺者の短靴』を履いたリミが素早い動きで音も立てずに曲がり角へと向かう。角の先で待ち伏せているつもりのバーバリアンはまさか自分が不意打ちを受けるとは思ってもいないだろう。不意打ちを受けたらリミの『暴嵐の双剣』の圧倒的な連撃を防ぐ術はないだろうな。
淡い緑色の『精霊の祝衣』を身に纏ったシルフィは精霊たちとの親和性が上がっていて、いまやほとんど手指の指示だけで精霊たちの助力をある程度得られるようになっている。今も右手の指で軽く印のようなものを切ると風が巻き起こり、通路の上部の窪みから短弓で僕たちを狙っていた子供のようなサイズの小鬼を次々と通路に落としている。ダンジョンの中は風の精霊の力は弱いのに凄いよね。外だったらわざわざ落とさなくても倒せちゃうくらいの威力があると思う。
さらにシルフィは『万矢の弓』という、なんでも矢にできる魔弓で落ちてきたレッドショットを次々に射抜いている。
「モフ! 落ちたレッドショットを逃がさないで!」
『きゅきゅん!』
頼もしい鳴き声と同時に発達した後ろ足で地を蹴ったモフはあっという間に逃げ出そうとするレッドショットを追い抜いて後ろ足でレッドショットの頭を爆散させると、次の獲物には角耳を槍のようにして背後から刺し貫く。絶命したレッドショットを角耳に刺したまま持ち上げると頭に乗っていたタツマが死体を包み込んで捕食。
最後は僕が貫通属性の付いたこの槍で三連突きを放てば戦闘は終了だ。
五階層を突破してから約三ヵ月、毎日のようにダンジョンにもぐり続けて積み上げてきた僕たちの戦闘経験と連携は九階層でも十分通用するほどになった。その間にいろいろスキルも増えたし、宝箱からダンジョン産の装備品をいくつもみつけることができた。
三人ともだいぶレベルも上がったし、早く冒険者になりたいのを我慢してダンジョンにもぐり続けた成果はあったと思う。
ただ、さすがに四か月近く人里を離れていると、いくら不自由ない暮らしをしているとはいっても人恋しくなっちゃうんだ。ベッドも毛皮や干し草でそれなりに立派なんだけどそろそろちゃんとしたお布団で寝たいなぁとか思うし。男の僕でさえそう思うんだからリミやシルフィはもっとストレスを抱えていると考えるべきだよね。
だから、僕たちは十階層までを探索し終えたら山を越えると決めた。そして九階層もここでマッピングが終わる。これまではレベルあげとかを考えてゆっくり探索を進めてきたけど、修行はおしまいにすると決めて探索に集中すれば十階層の探索には、そんなに日数はかからないと思う。。
六階層くらいからはシルフィの特殊技能【精霊の道】を設置するようにしたから往復の時間も短いしね。
パチン
最後にもう一度指を鳴らして、周囲に魔物がいないのを確認。僕が緊張を解いたのを合図にリミとシルフィもふうっと可愛らしい吐息を漏らす。
「お疲れ様、りゅーちゃん。はい、これ魔晶」
「うん、ありがとうリミ」
にこにこと魔晶を持ってきてくれたリミも、このダンジョン攻略中に無事成人を迎えた。なんか毎日見ていたはずなのに成人したっていうだけで、なんとなく女性らしい丸みを帯びてきたような気がしてどんどん魅力的になっていく。仮家では櫛やブラシを手作りしてあげたから、耳や尻尾の毛並みもふかふかつやつやでつい触りたくなってしまう。
「リューマ様、こちらで魔晶をお預かりします」
「そうだね、よろしく」
リミから預かった魔晶をシルフィに渡すと、その魔晶をシルフィが肩掛け鞄の中へとしまう。
そうなんだ! 実はここの八階層であれだけ欲しかったアイテムバッグを手に入れたんだ。しかも肩掛け鞄型の大容量版!
父さんから借りているポーチ型のアイテムバッグが結構早い段階でぱんぱんになっちゃってたから、たぶん誰も来ないだろうという予測の下に、しかたなく仮家に結構な量の魔晶や素材を置きっぱなしにしてたんだけど、このバッグを手に入れてからは無事に全部を持って歩けるようになったんだ。本当なら父さんにこのポーチを返しにいかなきゃいけないんだけど……まだ冒険者にもなっていないのに帰れないよね。だから、もうしばらく借りておく予定。
魔晶をしまったシルフィが僕の視線を感じたのか、こっちを見てにこりと微笑んでくれる。シルフィは一緒にダンジョン攻略を続けていくうちに、ほんの少しだけど僕たちと打ち解けてくれたと思う。前よりもよく笑うようになったし、前はどこか思いつめた表情をすることが多かったけど最近は顔色もいい。まだほんの少し遠慮みたいなものがあるような気がするけど……形の上だけでも隷属化しちゃってるんだからそれは仕方ないのかも知れない。
「さて、これで九階層もあらかた探索完了だね。ボス部屋は入口のほうだったっけ?」
「そうですね。このままの流れでいくよりは、今日は部屋の前まで行って終わりにするのがいいと思います」
「リミもシルフィに賛成!」
ぴこぴこと耳を動かしながらリミが手を上げる。確かにふたりのいうとおりかな? 普通に勝てるようになったとはいってもやっぱり九階層の敵は手ごわいから、長くいれば確実に疲労が溜まっていくんだよね。ボス戦ともなればさらにだから、ここはシルフィとリミの意見が正解だよね。
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