第32話 スキル → トレード

「確かに、それはいい案だが……大丈夫なのか?」


 僕は父さんとフレイムキマイラの正面を牽制しながら、考えた案を伝える。


「大丈夫かどうかは運と、僕の根性次第だと思うけど……あいつに殺された皆のためにも引けないよね」


 この村の人たちは皆家族みたいなものだった。全員が僕のことを可愛がってくれた。いつも僕たちの悪戯を笑って見逃してくれた。そんな人たちを理不尽に奪ったこいつは許せない。


「ああ、そうだな。村の皆を守れなかった守護者なんて不甲斐ないにもほどがある。せめて仇くらいはとってやらんとな。リュー頼めるか?」

「うん、やってみる。死角になりやすい後ろ足を狙うから」

「ああ、わかった。あいつの注意は引きつけておく」


 父さんの一撃でフレイムキマイラが怯んだところで正面を離脱すると一度距離をとって槍を置く。剣は抜かずに腰に差したままだ。どうせ今の僕の攻撃がフレイムキマイラに通用しないのはわかっているから武器は持っていても仕方がない。それに手が空いてないと触る時に困るし、身軽なほうが動きやすい。


 次は……水か。父さんにした時と同じように頭上に水を出して頭からかぶる。【中二の知識】の中に水をかぶって火事場に飛び込む人の情報があったからそれなりに効果があるはず。多少水で濡れた服が動きにくいけどそれはしょうがない。


 魔力のほうもちょっとは回復しているみたいだ。体感的に軽い魔法ならまだ何度か使っても問題なさそう。よし、今度はさっきとは【水術】のイメージを変えて魔法を使う……生み出した水を小さな球にして僕の両手の手首から先を水の球に包む。ちょっと維持には気を遣うけどこれでいくらかでもダメージを減らせればいい。


 よし! 準備はこれでいい。いこう!


「父さん!」


 父さんに一声かけて、行動に移ることを伝えるとフレイムキマイラの側面から後方の死角に回っていく。ガンツさんは詳しいことは聞いてこないがこっちがなにをしても指示がない限りはいままでと同じように動いてくれるみたいなのでありがたい。


 ガァ……


 僕の合図を受けた父さんが攻勢転じたらしく、フレイムキマイラが苛ついた咆哮を上げる。それに合わせてガンツさんが右の後ろ足を狙いに移動したので、当然僕は【隠蔽】を全開にして左の後ろ足を狙う。


 さすがは父さんでチャンスはすぐにきた。ガンツさんが後ろ足に一撃を加えたことで動きが鈍ったフレイムキマイラの顎を下から槍でかちあげたんだ。一瞬だけど脳が揺らされたらしいフレイムキマイラの動きがとまる。


 いまだ!


 一気に駆け寄って燃え盛るフレイムキマイラの左の後ろ足に左手を伸ばす。


「ぐあ!」


 う……近づいただけで濡らした服の水分があっという間に蒸発していく。このままじゃ手に纏わせた水も長くは保たない。躊躇わずに勢いでいくしかない! フレイムキマイラの炎の中に思い切って左手を突っ込む。


 ジュ……


 水が蒸発する音と、皮が焼ける臭い。熱いというよりは痛い! でも……いけ!


【技能交換】

 対象指定 「敏捷4」 

 交換指定 「解体3」

【成功】


 や、やった! もう一回……は駄目か、衝撃から回復したフレイムキマイラが怒りで暴れ出した。一旦引くしかない。

 左手を押さえながら地面を転がるようにして距離を取って乱れた息を整えながら、恐る恐る引き攣る左手を見る。


「く……痛い」


 トレードをするために頑張ってくれた左手は肘位まで真っ赤になっていてところどころに水ぶくれが出来ている。手の平については説明するのも躊躇われるほどだ。これ水で防御してなかったらヤバかった。

 でも……【敏捷4】のトレードに成功した。これで僕はいままでよりも早く動けるだろうし、あいつはいままで動けていたように動けなくなる。これなら間違いなく父さんたちの負担を減らすことができる。でも、トレードはこれからが本番だ。


 火傷した手を【水術】の水で覆い直して冷やしながら、再度機会を待つ。フレイムキマイラの動きが目に見えて悪くなっているのがわかる。これなら父さんが正面でタゲを取っていてくれるだけで近寄れそうだ。

 再度水を浴び直して今度は肘までを水で覆うとフレイムキマイラへと近づいていく。なんとか次で決めたい。


 【敏捷4】を失ったフレイムキマイラに【技能交換】を使うチャンスを作るのはもう難しくはない。すぐにまたガンツさんと父さんの連携でその機会が訪れた。よし!

 同じように【隠密】全開で後ろ足に近づいて左手を伸ばす。


「う! ……ぐ」


【技能交換】

 対象指定 「火無効5」 

 交換指定 「敏捷4」

【失敗】






今回のわらしべ

『 解体3 → 敏捷4 』

 

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