第21話 行商人 →  エルフ

 あ、これは駄目なやつだ。その扉を叩く音を聞いて、今日の父さんとの訓練が流れるだろうことをほぼ確信する。


「ガードンさん! ガードンさん! すまないがちょっといいか!」


 扉の向こうの声は人族のヒュマスさんの声だ。今日は西の門の警護についていたはずなんだけど。声の感じからは切羽詰まったものは無いので魔物が出たとかでは無さそうでちょっと安心した。


「ヒュマスさん。いま開けますから中へどうぞ」


 僕は玄関の扉を開けてヒュマスさんを中へと招き入れる。


「おう、リューマ君ありがとう。すまないね騒がしくして」

「なにかあったんですか?」

「いや、別に危険なことがあったわけじゃないんだが、この村にいつものトマス爺さんじゃない行商人がやってきて、村での行商を希望していてね。危険はないとは思うんだが一応ガードンさんの指示を仰ごうと思ったんだ」


 村人以外の村への出入に関しての最終的な判断は村の守護者である父さんの仕事だ。こんな僻地の村に、いつも善意で来てくれているトマスさん以外の行商人が来るのは、ポルック村ができてから初めてのはずだから父さんに確認を求めるのは当然の処置だと思う。

 

「父さん! ヒュマスさんが来てるよ! ちょっと時間がかかりそうだから僕はいつも通り川で訓練してくるね!」


 父さんとの模擬戦は残念だけど仕方ない。また夕方には付き合って貰えるだろうし、それまではいつも通り訓練に勤しむとしよう。

 外に出ると最近独自に自主練をするようになったモフが気づいて近寄ってくる。すっかりモフの耳の間が定位置となっているタツマも一緒だ。


『きゅきゅ~ん』

「今日も精が出るねモフ。モフの成長具合はどう? タツマ」

『かなりいいぜ。もう角耳兎とはいえないくらい強い。たぶんウルフ系の上位種あたりとやってもなんとかなるんじゃないか』

 

 おお、さすがは僕の相棒だぜモフ。可愛くて手触りがいいだけの女じゃない。



名前: モフ(従魔)♀

状態: 健常

LV: 11  

称号: リューマのペット兼護衛(リューマの近くにいる時愛嬌+1、ステータス微上昇)

種族: 角耳兎

技能: 愛嬌4(+1補正)/跳躍4/毛艶4/蹴術2/槍術2/冷気耐性2/敏捷3

主人:  リューマ



 一緒に魔物を狩っているうちに、いつの間にかスキルが凄い増えたうえに、僕のペットなのになぜか護衛まで兼任してくれているらしく称号が変わっていた。


 見慣れないスキルとしては【蹴術】を覚えている。【蹴術】は【格闘】に統合される前の戦闘系スキルで蹴り技に補正が掛かるスキルなんだけど、このスキルを取得したモフの、発達した後ろ足での蹴りはかなりの威力がある。

 

 あとショックだったのが、モフが硬質化させたあとの耳攻撃が槍扱いされたみたいでモフが【槍術】を取得していたことだ。僕が長年頑張ってきて未だにレベル二の【槍術】にたった四年でモフは追いついてしまった。だけど、こればかりは仕方がない、モフの成長が早過ぎる。


「今日も川で訓練になるけど、モフとタツマも一緒に行く?」

『きゅん!』

『置いていかれても自分で動くのはめんどくさいしな。俺もいくよ』


 タツマはスライムの体だと、全身運動で移動するから結構疲れるらしい。だから基本的にモフの頭からは動かない。モフから離れるのは魔物の死体を処理するときか、食事の時……ていうかどっちも食べるときじゃん。


『それにしても、なんだか村が騒がしくないか?』

「うん、なんか西門の方に初顔の行商人がきたらしくてさ。ちょっと浮き足だってるみたい」

『ふ~ん、なるほどね』


 タツマが気のない返事をしたところで僕たちの後ろからふたりの男性が話しながら西門方向へ走っていった。あまりの勢いに顔すら確認できなかったけど、でも……


『おい! 聞いたかリューマ!』

「うん、聞こえた! 確かに美人のエルフがいるって!」


 なるほど! それは走って見にいきたくもなる。ポルック村はある意味人種の坩堝(るつぼ)だけど、エルフの人はひとりもいない。ドワーフなら鍛冶屋のガンツおじさんがひとりいるんだけどね。

 エルフは基本的にどっかの秘境に隠れ住んでいてあんまり世の中に出てこないらしい。辺境最大の都市フロンティスにいけば街中でもたまに見かけることもあるみたいだし、エルフの冒険者もいないわけじゃないってことだけど、街にいったことのない僕は勿論まだ見たことはない。


『やばい! ドワーフもマジすげぇけどやっぱエルフっしょ! スレンダー美女の代名詞エルフ! リューマ! リューマ! 訓練前に俺たちも見ていこうぜ!』


 厨二病が治らないタツマはエルフと聞いて完全に箍(たが)が外れたらしい。っていうかエルフの人は僕も見てみたい……男として、仕方ないよね。


「よし! じゃあ西門経由で行こう! モフ、行くよ」

『よし! 全力疾走だモフ!』

『きゅう、きゅう』


 ……モフの鳴き声がなんとなく『やれやれ』と聞こえた気がしたのは気のせいだということにしておこう。

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