スキルトレーダー【技能交換】 ～辺境でわらしべ長者やってます～

第15話 タツマ → 同盟

　それからしばらく僕は、タツマといろいろと話をした。タツマはこの世界のことをなにも知らないのでこの世界の文明の度合いを知りたかったらしい。

　剣と魔法、冒険者、魔物……厨二を刺激する言葉が並ぶこの世界にスライムの身体を激しく震わせていた。ちなみにまだ瓶からは出していない。

『なるほど……だいたいわかった。まあ、ここが田舎過ぎて本当のところの文化レベルはよくわからんけど基本的には異世界転移もののテンプレに近い。獣人とかエルフとかドワーフもいるんだろ？』

「うん、いるよ。幼馴染のリミも猫人族だし、ポルック村の半分くらいがなんかしらの獣人の人たちだからね」

『やば！　猫耳の幼馴染とか超ヤバい！　くそぉぉぉ！　転生さえうまくいってれば俺がその幼馴染ポジだったのに！』

「あれ？　タツマはもうこの世界に満足したってことでいいのかな？」

『いや！　待て待て！　これは言葉のアヤってやつだろうが！　今までで一番の殺気出しやがって、めちゃめちゃ幼馴染との間にラブなフラグ立ってんじゃねぇか』

　ちょ、なに言ってるのこの人。ぼ、僕はリミのことは妹みたいなものでラブとかは全然ない……たぶん。

『それにしても、リューマはそんなチートスキル持ってるくせになんで活用してないんだ？　冒険者になりたいんだったらいまのうちから力を蓄えなきゃ俺TUEEEEE出来ないぜ』

「う～ん。確かにいまならこのスキルトレーダーがチートっぽいてわかるけど、よくある【強奪】なんかと違って使い勝手はあんまりよくないんだよ。相手に触ってないと使えないし、しかも同意がないと１００％にはならないしね。称号の効果から見ると『熟練度が同じスキルのトレード率が八十五％。以降対象レベルが一上がるごとに成功率二分の一』なんだ」

　それに、どうやら同じ相手にこちらのスキルで同じものを二回指定することもできないらしい。

　例えば相手の【A】というスキルに僕の【B】というスキルを指定して失敗してしまったら、その相手との交換に【B】というスキルは仮に【A】じゃない【C】というスキル相手でも、もう使えない。そういう説明もタツマにはしておく。

『なるほどな……だけど、リューマには【早熟】があってレベルは上がりにくいがスキルは取得しやすい、と』

　瓶の中のスライムは酸素すら必要としないのか、結構長いこと密閉空間にいるのにまったく苦しむ素振りがない。タツマが考え込んでいる間に外を確認すると、時間的には朝の練習の時間帯になろうかというところだった。

　最近は僕の訓練と言うよりもリミの訓練になりつつあって、たまにしか直接指導は受けてないからこのまま朝食の時間までは部屋にいても大丈夫だろう。

『……たぶん、いけるな。リューマ！強くなりたいか？』

「え？　それはもちろんなりたいよ。だから毎日一生懸命訓練とかしてるんだし」

『よし。じゃあ俺がお前が強くなるためになにをすればいいか教えてやる。だからお前は俺がこの世界の常識を学ぶ手伝いと生活を面倒見てくれ。いわば同盟の契約だな、期間は一応リューマが冒険者になるまで位にしておくか。必要なら延長すればいいしな』

　本当に強くなれるなら、僕のほうからお願いしたいくらいだけど……スライムの指導で本当に強くなれるのかと言われると……どうなんだろう。

『ああ、言っとくがもちろん俺が武器を持って教える訳じゃないぜ。リューマが今あるスキルを使って効率よく強くなれるだろう方法を教えるだけだ。だから実際に努力して苦労するのはリューマだけだな。お前が嫌なら仕方ないが、同じような知識を持っていてもこういう≪気づき≫みたいなもんは気づかない奴は一生気づかないもんだぜ。どうする？』

「……確認するけど、隙を突いてまた僕を乗っ取ろうとかはないんだよね」

『ない……というか正直いえばやりたくてもできない、だな。もともと自分で転生しようと思ってきたわけじゃないから、どうやってそうなったのかもまったくわからないしな』

「正直だね。やりたいなんて言ったら僕が拒否する可能性が上がるんじゃない？」

『まぁな。だが、信じてもらうなら正直に話したほうがいいだろ』

　ぷるぷると体を震わせるタツマを見て僕は考える。確かにタツマは僕に無理矢理転生しようとした。でも、それがタツマの意思じゃないことはたぶん間違いないと思う……勘だけどね。

　それに僕が逆の立場だったとしても、やっぱりスライムよりは人に転生したい。機会があれば人への転生を試みたいと思ってしまうのは仕方ないんだろうな。

「わかった、いいよ。僕が強くなることに協力してくれるなら、タツマがひとりで生きていけるようにできるだけ協力する」

『そうこなくっちゃ！　じゃあ、同盟成立ってことで！…………そろそろ瓶から出してください』

　やっぱり瓶の中は窮屈だったっらしい。