第13話 龍馬 → タツマ

『きゅ~ん……きゅ~ん』


 う……ん


「モフ……くすぐったい……」

『きゅん! きゅん! きゅん!』


 どうしたんだろう、珍しくモフが興奮しているような気がする……今日は何かあったっけ? ……い、や……違う! 今日じゃなくて昨日だ!

 意識がはっきりと覚醒した俺はがばっと飛び起きると自分の体をべたべたと触る。


「特におかしなところは……ない、か」


俺は身体の確認が済むと軽く頭を振って目を閉じる。


「俺はポルック村で生まれたリューマ。父親はガードン。母親はマリシャ。幼馴染はリミナルゼ。夢は冒険者」


『きゅ~ん』

「おまえはモフ」

『きゅん♪』


 嬉しそうに鳴くモフをしばし撫でまわして自分を落ち着かせてみる。ゆっくり息を吸って、吐く。


 うん。大丈夫、ちゃんと記憶もあるし、俺は俺だと言い切れる。

 ……だとすると、昨日のは夢だったのかもしれないな。一応ステータスも確認しておこう。


名前: リューマ

状態: やや疲労

LV: 8  

称号: わらしべ初心者

年齢: 10歳

種族: 人族

技能: 剣術2/槍術2/統率1/隠密2/木工2/料理1/手当1/解体1/調教2/掃除2/採取1/裁縫1/再生1(New)

特殊技能: 鑑定/中二の知識(New)

固有技能: 技能交換

才覚: 早熟/目利き



 ……やっぱり夢じゃなかった。俺のスライムが持っていたはずの【再生】を持っているし、特殊スキルに見慣れないスキルが増えている。詳細を調べてみると『異世界において中二(もしくは厨二)と呼ばれる者が持っている基礎知識』とある。


 ……確かに、昨日までは知らなかった不思議な国の光景が頭に浮かぶ。リューマとしての人生がラノベの世界と重なる。いろいろ知識を引き出そうとすると次から次へといろんな知識が出てきて頭がおかしくなりそうになる。


 くっ……とりあえず今は、その辺りのことは考えないことにしよう。問題は……あった。


 俺はいつの間にか床に転がっていた瓶を拾うと、蓋は開けずにこんこんと瓶を叩いてみる。中では薄緑色のスライムがぷるぷると震えている。いつも通りのスライムの姿だが、俺のところに【再生】スキルがきている以上昨日までのスライムであるはずがない。


名前: ――

LV: 1

称号: 異世界の転生者(スキル熟練度上昇率大、異世界言語修得、****)

     へたれ転生者(悪運にボーナス補正、生存率上昇)

年齢: ―

種族: スライム

技能: ―   

特殊技能: ―

才覚:  ―


 間違いない。やっぱり昨日の夜、俺に転生しようとしてきていた誰かがこのスライムの中にいる。


「……聞こえているよね。わかる範囲で構わないから説明してもらいたいんだけど」

『……』

「ちなみに、俺は【鑑定】スキル持ちだから。このスライムに変わった称号がふたつも付いているのは知っている。あくまでしらを切りとおすつもりならスライムごと処分するからそのつもりで」

『だぁ! 待て待て! わかった。わかったよ……別にシカトしようとしたわけじゃねぇ。こっちだっていろいろ混乱しているんだってことはわかるだろ』


 ぶるぶるとスライムの蠕動(ぜんどう)が激しくなる。その様子から焦っているのはわかるが、どうやって俺と意思疎通しているのかはわからない。どうも声によるものではないみたいだ。


「そっちの都合とか関係ないから。昨日乗っ取られかけた事実がある以上、そんな危険生物殺しておいたほうがいいというのが今の方針だからそのつもりで対応して」


 いまはっきりと思い出した昨日の夜のことは、トラウマになりかねないほどの恐怖として今も俺の中にある。自分が上書きされて消えていくというあの体験は今でも震えがくるほどに怖かった。


『わ、わかった。俺にはもうお前をどうこうするつもりはねぇ。そもそも狙ってお前のところにきたわけでもないし、こうしてスライムに定着してしまった以上はどうしようもねぇ。だが、俺だってこうしてここで生きているんだ。例えスライムだとしても死にたくはない』


 確かに、スライムのスキル欄からは昨日見たなんとかの魂というスキルは消えている。こいつがいう通りに転生が完了してしまったのかもしれない。


「まず、名前を聞かせろ」

『ああ、わかった。俺は須崎龍馬(すざきりょうま)。転生前は一応十七歳だった』

「りょうま? 紛らわしいな……」

『紛らわしい?』

「ああ、俺の名前がリューマだからね」

『なるほど……じゃあ、俺はタツマでいいや。別にこだわりねぇし』

「わかった。じゃあこれからはタツマと呼ぶ」


 自分の名前のくせに軽いな……今のやり取りのせいだと思うが、ステータスも正式にタツマで名前が登録されてしまっている。


『じゃあ俺は普通にリューマって呼ぶぜ。俺より年下だろ?』


 ぶるぶると震えながら馴れ馴れしく接してくるスライムに大きく溜息をつく。


「誰もお前の面倒をみるとはいってない」

『まあ、そういうなって。【鑑定】があるならわかるだろ。俺も鑑定系の力があるからお前のステータスが見える』


 え? ちょっと待って。こいつのステータスの中に鑑定ができるようなものはひとつもない。唯一わからない部分があるとすれば称号の異世界の転生者の中に含まれる****の部分だけだ。


「それは称号に関する能力か?」

『ん? ……あぁ、なるほど。俺のと、お前のじゃちょっと違うのかもな。どこまで見えてる?』


 仮に、こいつの****が鑑定系の能力に関するものだったとしても【鑑定】+【目利き】でより広く鑑定できる俺には敵わないはずだ。こいつが変な考えを持たないように釘をさしておいた方がいいかも知れない。


「名前、状態、LV、称号、年齢、種族、技能、特殊技能、固有技能、才覚。それぞれの詳細情報も見ることができる。俺の【鑑定】はこの世界で一般的に使われているものよりも情報量が多い。誤魔化そうとしても無駄だぞ」

『え? …………へぇ、そりゃスゲェな。俺のよりも随分優秀みたいだな。ま、どっちにしろ俺にしてみればお前の協力なしじゃ生き残れそうもないからな。誤魔化すつもりはねぇよ』

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