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「遠野さんも、本好きだよね」
落ち着いた声音で東山くんが言った。
「え?」
雨は言う。
「よく図書室にいるでしょ? 遠野さん」
見られていたのか、と雨は思った。
「僕も知っている。よく、同じ本、読んでるよね」
隣から水瀬くんが言う。
本好きの人は本好きの人によく気がつくものなのか(雨の場合は動機が不純だったので、そうではなかったのだろう。雨は同じ図書室にいたであろう、東山くんに全然気がつかなかった)、東山くんも水瀬くんも、雨のことに気がついていたようだった。
「うん。まあ」
顔を真っ赤にして雨は言う。
すると、隣にいる愛の体が小さく震えた。どうやら、愛は笑いをこらえているようだった。
「遠野さんは作家だと誰が好きなの?」
東山くんが言う。
「えっと……、私は……」
それから雨は今まで読んできた水瀬くんと同じ本の知識を総動員して、なんとか東山くんと、それから水瀬くんとも、会話を続けた。
実は雨は、本が大好きというわけでもなかった。
雨が本を読んでいたのは、もちろん、水瀬くんが大好きだったからだった。
朝見先生の運転する車は順調に山を上って、走って行った。
朝見先生の運転は、生徒たちを乗せているということもあるのだろうけど、とても慎重な、山道を走るお手本のような安全運転だった。
「ついたよ」
それから約三十分後。
車を山の中にある駐車場のようなスペースに止めて、朝見先生はそう言った。
「ありがとうございました」
雨たちは朝見先生にお礼を言って、それぞれの荷物を持って車から降りた。
雨たちの住む田舎の街は自然の豊かさと、それから空に輝く星々の美しさが日本でも(あるいは世界でも)有名な土地だった。
なので観光にやってくる人たちのために星を見るための専用の施設のようなものも、近くの山にはいくつか建設されて(反対意見もあった)、存在していた。
でも、今、雨たちがいるのはそう言った近代的な施設の中ではなかった。
ここは地元の人たちしか知らない、いわゆる秘密の場所であり、穴場と呼ばれる場所だった。
雨たち、この街で生まれた子供たちはほとんどみんなが、この場所で、星を見て子供時代を過ごしていた。
『あなたたちは星の子であり、山の子なのよ』
雨はそんな、もういなくなってしまったお母さんの言葉を思い出した。
それは雨のお母さんの生前の口癖のようなものだった。
そのことを思い出して、雨はなんだか、……ちょっとだけ泣きそうになった。
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