From BEAT CRUSADERS

 カトー先生を探していたケータは、先生の部屋を覗き込んだ。中には誰もいない。ラジオから軽やかなメロディーが流れているだけだった。

 一体、どこへ行ったのだろう。辺りをキョロキョロと見回していると、ラジオから『ピンポンパンポーン』と音がした。


『政府からのお知らせです。本日午後九時より、配給が行われます。葉書が届いた方は、必ず指定のホテルへ行きましょう。繁殖は国民の義務です』

 ケータはしばし、それに耳を傾けていたが、さっぱり分からなかった。


 部屋に戻ったケータは、トールにそのことを話した。ここにいる子供たちの中で、一番年上のトールは何でも知っている。するとやはり彼は「あぁ」と、うなずいた。

「愛のプログラムだろ?」

「何それ?」

 ケータは、またしても首を傾げる。

「えぇっとな、赤ん坊って言うのは、男と女がエッチなことをしてできるわけだ。分かるか?」

「交尾でしょ」

 ケータが答えると、トールは「まぁ、そうだ」と苦笑いでうなずく。


「でもな、誰も、その交尾をしたくならなくなった。いや、交尾をするのが嫌になったんだ。交尾をしなくなると子供が生まれない。子供が生まれないと、この国の人間はどんどんと減っていく。そして最後には誰もいなくなる」

 ケータはうなずく。

「だから、政府は男も女も無理矢理、発情させるプログラムを作ったんだよ。適当に選んだ奴らを発情させて、交尾をさせて、子供を作る。そうしないと、この国はやっていけないんだ」


「ふぅん……」

 分かるような。分からないような。トールはケータよりもずっと大人だから、時折、話すことが難しい。ケータはあいまいにうなずいた。

「大昔は、お父さんとお母さんって、人がいたんだって。お父さんとお母さんは、愛し合って子供を作る。それで子供は、こんななんかじゃなくて、家って場所で、お父さんとお母さんと一緒に暮らしてたんだってさ。お父さんとお母さんが子供を育ててたんだ」


 やっぱりケータには、分からなかった。

 ここには、お父さんとかお母さんとか言う人はいないけど、先生がいっぱいいる。おまけに、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、弟も妹もいっぱいいる。つい先日も、新しい赤ん坊が園に入って来た。ほっぺたがぷにぷにしていて、かわいい。毎日見に行くのがケータの日課となっていた。

「僕は楽しいよ」

 ケータが言うと、トールは「そうか」と笑ってケータの頭をなでた。

「でもきっと、愛なき『愛のプログラム』が、愛なき人間を作ってるんだ」

 ポツリとトールはつぶやいた。

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短編小説 星日生 @HOSHI-hinase

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