リセット

 ある日、突然、トラックにひかれて、俺は死んでしまった。そこへ神様が現われた。俺の死は手違いで、その詫びに人生をリセットさせてやると言う。

 何歳に戻るかと聞かれて、俺は考えた。


 小さい頃から野球が好きで、地元のチームにも入っていた。将来の夢は、もちろんプロ野球選手。甲子園からのドラフト一位、そしてメジャー。小学校の卒業文集にもそう書いてある。


 けど、人生、そんなに甘くない。


 青春のすべてを野球に捧げた。でも、プロ野球選手にはなれなかった。甲子園の強豪校にすら入れなかった。そこそこの高校で、そこそこ強い野球部でそこそこ頑張った。それだって、充実した日々だったと思ってる。


 なので、野球はもう充分だ。充分やりつくした。だから今度は、野球とは関係のない人生を送ってみたい。


 そう、例えば、勉強とか。

 とにかく小中高と野球漬けだったので、勉強はからっきしだった。次は目指せ、東大なんてどうだ。

 そうなると、やっぱり小学生くらいからやり直した方がいいだろう。


 そう言えば、小学五年の時、同じチームのヤツとケンカをして、野球を辞めようとしたことがあった。結局、あの頃はプロ野球選手になると本気で思っていたから、辞めるのを辞めたのだ。


 俺は、あの時に戻してくれと神様に頼んだ。


 小学五年なら当分は勉強も楽勝だ。一応、大学だって出た。そこでふと気づく。俺はこのまま、姿は子供、中身は大人な感じで、やり直せるんだよな?

 そう思った時には、まばゆい光に包まれていた。


 …………


 気づけば、母さんが俺をにらみつけていた。

 あれ? えぇっと、何してたんだっけ?


「で、宿題はやったの?」

 あ、そうだ。野球の練習に行こうとしたら、母さんに止められたんだ。


「帰って来てからする!」

「あんた、タクト君とケンカして、チームを辞めるんじゃなかったの?」

「タクトなんて知らねぇ。俺はプロ野球選手になるの! 練習は一日だって休んじゃいけないんだよ!」

 俺は母さんの脇をすり抜けて、グラウンドに走った。

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