恋の魔法

 魔女は、とある男に恋をした。


 彼はイケメンで、頭が良くて、誰にでも優しくて、とにかくモテる。ともに王様に仕えていたが、魔女にとっては遠い存在だ。


 魔女は彼のことが、好きで好きでたまらなかった。

 あぁ、彼が自分のことを見てくれたら、どれほど嬉しいだろう。彼が愛してくれたのなら……


 ある時、魔女は木陰でうたた寝をしている男を見つけた。周りには誰もいない。自分以外には誰も。


 ──魔が差した。


 自分のものにしてしまおう。魔女は男が自分を好きになるよう恋の魔法をかけた。


 その日から魔女は幸せだった。

 男は毎日愛をささやいてくれる。魔女に優しくしてくれる。自分だけを見てくれる。

 毎日が天にも昇るような心地だった。


 だが、それも数日。

 魔女は次第に罪悪感にかられるようになった。男から逃げ回るようになった。


 ある時、男が言った。どうして僕から逃げるのか。僕のことが嫌いになったのか、と。


 とうとう魔女は正直に話した。私を好きになるよう魔法をかけたのだと。


 男は言った。

「あぁ、あのへっぽこ魔法」

 男は魔女よりも強い魔法力の持ち主で、魔法への耐性も強い。そのため、魔女の魔法にかかってなどいなかったのだ。


 男はあの時、起きていた。そして魔法にかかったふりをして、自分をもてあそんでいた。内実、あざ笑っていたのだ。

 魔女は男をなじった。


 男はそれを認め、

「君に近づくために、利用したんだ」

 と、笑った。

「これでやっと、君のことが好きだと言えると思って」

「え?」

 魔女はその場にへなへなとへたり込んだ。

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