第39話 王国ではなく国王崩壊(三)
全閣僚が顔を見合わせる中、椿は閣議室を出た。
伽具夜が怒りの表情で詰問してきた。
「なによ、ちょっと土下座してくるって。まさか、私も土下座に付き合わせる気。土下座ってどういうつもりなの! こんな国にしてしまいましたって、責任を国民に詫びるの。だったらごめんよ、そんなデート」
「違うよ、ただ、伽具夜には見ていて欲しいんだ」
椿が向った先は各指導者と会談をする通信部屋だった。椿は伽具夜を壁に寄りかからせて、イヤホンのみを付けて、バルタニアに直接会談を持ちかけた。
バルタニアでは外務大臣が出たので「直接、指導者に緊急のお願いがあるので、会談を申し込みたいんです」と伝えた。
バルタニアの外務大臣は「少々お待ちを」と答えた。
しばらく待たされて、豹柄のネクタイ付きの赤いシャツにシルバー・ビックベルト・パンツといった服装をした、髪の短い、椿と同じくらいの女子高生らしき人物が現れた。
女子高生は胸を張って、椿をしっかりと見据えて、きつい口調で尋ねて来た。
「私がバルタニアの独裁者。
椿はじっと大桜を見据えた。
しばらく、大桜と無言の時間が続いた。
椿は時間の流れる傍ら、じっと大桜桃なる人物を観察した。
大桜がテレジアやソノワより信頼できる人物かどうか。リードのような危険性はないか。鳥兜のような猟奇的なところはないか。
椿は勘でしかないが、テレジアやソノワより信頼でき、リードより常識的で、鳥兜のような異常性はないと見た。ひょっとして、出口は大桜にあるのではないかと感じた。
「月帝国の国王・椿幸一です。俺にはこれしかやり方を知りませんので、こうさせてもらいます」
椿はその場で土下座の姿勢を取ると、話題を切り出した。
「同盟を結んでください。五分五分の同盟でなくていいんです。月帝がバルタニアに従う同盟です。同盟の証を必要というなら、俺と伽具夜の首以外で欲しい物があれば、何んでも仰ってください」
大桜は下手に出る椿を胡散臭そうに見据えて上から目線で発言した。
「じゃあ、東京が欲しいわ。首都を差し出しなさい」
椿は即座に返答した
「わかりました。欲しいのは、首都でいいのですね。では、さっそく首都を引きわたしましょう」
大桜の顔が怪訝に歪んだ。
「椿って言ったわよね。あんた、何を口にしているのかわかっているの? 首都を渡したら、もう貴方の勝ちは、なくなるわよ?」
「首都を渡した勝ち目がなくなるくらい。わかっていますよ。でも、大桜さんは同盟の条件に首都の引渡しが必要だと仰った。違いますか?」
大桜が真剣な顔を確認してきた。
「本気なの?」
「本気も何も、ふざけて首都を渡せるわけがありません」
大桜は本気で国を運営する気がないと椿を見たのか、見下したように腐した。
「貴方、このゲーム、勝つ気ないのね」
「勝つ気がないのではなく、勝てる気がしません。俺は少しだけ長く、大桜さんより、この世界にいる。だから、わかったんです。どのみち俺の実力じゃあ、普通にやっても消滅するしかないって」
大桜が呆れたように椿を評した。
「なるほど、自殺志願者だから、勝ちを捨てたのね」
「いえ、それは違います。普通にやっていたら、いずれコルキストに陸奥と東京が落され、堺、大阪もなくなる。だから、奇策に走るんです。これが、普通にやらないで唯一、勝てる方法と見たんです」
大桜が椿の言葉にどこか納得したような表情を見せ、即断した。
「なるほど、死んだような目をしているけど。死んじゃいない。押し寄せるゾンビの大軍のように、勝ちに行くのね。わかったわ。同盟を受け入れましょう。でも、同盟の条件を再提示させてもらうわ。首都は要らないから、月帝はカイエロを発掘し、速やかにバルタニアに引き渡すこと。その代わり、バルタニアは他国から月帝が攻められた場合、軍事支援を行うわ」
「それだけでは、不十分です」
大桜の顔が怒りでひくつくのがわかった。
「なんですって? 何か、もっと援助でも寄こせっていうの」
椿は丁寧に誤解を解くように発言した。
「援助していただければ助かります。もし、援助の結果、資源が産出したら、援助の額に応じて、資源をその分だけ輸出しましょう。やりたいのは、科学技術の共同開発です。もちろん、こちら側の成果は全て開示しますが、バルタニア側からは提供できるものだけ、提供していただければ充分です」
大桜の決断は早かった。
「いいわ、それなら、その条件も飲みましょう」
椿は立ち上がり、礼を述べた。
「では、のちほど詳細な条件を纏めた文書を外務大臣より送らせます。大桜さんから見て、不都合な部分があれば、仰ってください。大桜さんのいいように改めます」
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