第361話 お留守番小悪魔2(リニ視点)
私はリニ。エクヴァルと契約して、人間の世界にいる。
エクヴァルは今、イリヤ達とドラゴンを退治に出掛けている。地獄の王様が、三人も一緒に。
私は小悪魔だから、地獄にいる時に王様と会うことなんて、全然ない。まさかこの世界で、しかもこんなにたくさんの王様に会うと思わなかった。とっても緊張する。
ベリアル様とイリヤが契約をしているから、ベリアル様はいつも一緒にいるよ。
普段は私に見向きもしないのに、ちょっとした時に気に掛けてくれたりする。冷たそうだけど、ちょっと優しい王様だった。
現在、私はお留守番中。
ドラゴン退治では役に立たないし、危険だから。
イリヤは立派な魔法アイテム職人で、難しい依頼を受けたり、研究をしたりしているよ。でもドラゴン退治って、職人の仕事じゃないと思うの。王様の契約者なのに危険なこともするから、心配になっちゃう。
ベリアル様にお願いしたら、何でも叶えてくれるんじゃないかしら。
「リニ、始めるぜ」
「う、うん。……すぐ行く」
玄関をお掃除していたら、男の子の小悪魔に呼ばれた。鍵を締めて、一緒に裏の小さなお城へ行く。
ここは地獄の王様、ルシフェル様の別荘なんだって。王様ってスケールが違うね。どれだけお金があるのかしら。
王様にも序列があって、どんな王様も、むしろ天使だってルシフェル様には丁寧にするの。イリヤといると、ものすごいものを
玄関を挟むように両脇にある像が、こちらを見ている。
この像は少し怖い。地獄の王様が魔法を掛けた像で、侵入者を攻撃するの。この像に言葉やお仕事を覚えさせるのが、彼のお仕事。今日は私もお手伝いするんだ。
「ガルグイユ、起動」
男の子が言葉を放つと、ガルグイユの目がキラッと光った。
『ガガガ……』
首を動かすガルグイユ。やっぱり怖い。
言葉を覚えさせていけば、ちょっとした会話をできるようになるらしいよ。
「じゃあ、おさらいからな。王様が不在の時に、誰かが扉を開けようとしたら?」
『第一ノ勧告。コノ先、許可ナキ者入レジ』
左側のガルグイユが喋った。意外と高い声をしている。
「それでも扉を開けようとしたら?」
『
今度は右側のガルグイユ。いきなり殺しちゃうの!?
「早すぎ!!! もう一度警告するんだって!」
『ガガ……。第二ノ勧告。侵入者ニハ死ヲ与エル』
扉を開けようとしているだけなのになあ……。私は男の子の顔を見た。
口を結んで、眉を寄せている。これでいいのか考えているみたい。
「攻撃するのは、足を踏み入れたり、家を破壊しようとしたりするまで待つんだ。まずは言葉で追い返して」
『ググ……。家屋ノ破壊行為ヲ確認シタ場合、敵トミナシ破壊スル。インプット』
「……まあ、こんなもんか……? なんか攻撃的なんだよな、このガルグイユ達。リニ、お前っておっとりしてるじゃん。ガルグイユも、もっと穏やかにできないかなぁ」
男の子がガルグイユ像に触れようとしたら、ガルグイユは前足で威嚇して触らせなかった。発言も行動も、好戦的みたい。穏やかにって言われても、どうしたらいいかしら……。
でも確かに、このままだと絶対すぐに犠牲者が出そう。尋ねた人が少ししつこくしただけで、敵認定されちゃう。
「うーん……。攻撃するまでの、段階を覚えさせた方がいいの……かな。……ノックをたくさんしても、敵だと思われちゃうかな?」
「確認してないな、試してみよ」
男の子がドンドンドンと、乱暴に扉をノックした。ガルグイユの目が赤く輝く。
『敵対行動ヲ確認! 三秒以内ニ中止シナケレバ、排除スル!!!』
「これはノック! 家にいるか確かめる時に、こうやって扉を叩くんだよ! 破壊しようとしてない、覚えて!!!」
すぐに手を止め、二つの像に必死で説明する。敵じゃないって記憶している筈なのに、今にも攻撃してきそう。この像に攻撃されたら、私達じゃひとたまりもないよ。
それから私達は、どういうのが敵対行動かというのを説明した。窓から覗くだけなら様子を見るように、とか、配達の人かも知れないから、荷物を持っていても危険物とは限らない、とか。
室内のもう一体のガルグイユは魔力を注いだのがルシフェル様だけだからか、もっと冷静なんだって。人と接することが多いだろうこの二体から、教えていかなきゃ。
「うわー、これが噂の王様の別荘! ほとんど城じゃん」
門の外から、聞き覚えのある女の子の声がする。振り向くと、黄緑の髪で角が生え、褐色の肌に明るい緑色をした瞳の小悪魔が家を眺めていた。
地獄のお友達の、ニナだ!
「ニナ、王様の別荘を見に来たの?」
「おー、リニ! 家に誰もいないから、留守かと思った」
私が声を掛けると、ニナが庭に入ってきた。登録されていない人物なので、ガルグイユが自分の台の上から目を光らせて、警戒を始める。
「おい、ニナっての。このガルグイユはまだ学習中で、家人の留守に人が来ると、過剰な反応をするんだよ。門の外にいろ」
「ちょうどいいじゃん、私がテストをしてあげるよ! よっと」
ニナはわざと、窓を開けようとしてみた。
鍵が掛かっているから、動かない。王様の家だし、勿論、本当に壊したり侵入したりするつもりはない……筈よね。
『警告! 警告! 窓カラ離レルベシ!』
『警告! 警告! 窓ニ触レルナカレ!』
二体の石像が瞳を赤く点滅させて、ニナを注意する。ニナは笑って、窓に手をベタッと付けた。面白い道具とか、好きだから……!
でもこれは、本当に危険なの!
「ニナ、とにかく道まで……」
ガルグイユの瞳の色が黄色に変わり、口を開いた。口から雷が吐き出される。
「えええ、なんでガルグイユが雷を使うのよ!??」
ニナが慌てて避けると、雷が壁にぶつかった。ビリビリと窓が揺れる。割れなくて良かった……!
避けたニナにもう一体のガルグイユが近付き、クワッと口を大きく開いた。
『強制排除!』
今度は火を放つ。
「ぎゃ~! あっち、あっちっち!!!」
ニナは攻撃が得意で、防御は張れないの……! 小悪魔には多いタイプだよ。
すんでのところで躱したものの、避けきれなかった服の裾が燃える。バンバンと叩いて、すぐに消火できた。その間に、ニナがガルグイユに挟まれちゃった!
「やっべ、おいガルグイユ! 止まれ、そいつは悪人じゃないぞ!」
「そうそう、テストしただけだから!」
両手を挙げて戦意がないと示すニナ。
ガルグイユは二秒だけ動きを止め、再び行動を開始する。
『テスト、理解不能。侵入者ガ敷地内ニ留マッテイル』
『滅殺!』
「めっさつ~!?? 壊すわけにはいかないし……、リニ、どうにかして~!!!」
ニナが逃げようとするけど、ガルグイユがまた火を吹いて退路を断った。
敷地内から追い払えばいいのに、絶対に倒そうとしているよ!??
「ええと、ええと……」
焦って言葉が出てこない。
空の低いところに雲が集まり、唐突にこの辺りだけ暗くなった。
「げ……雷がくる!!! ガルグイユがヤバすぎる!」
雷を使うガルグイユが予備動作で動けない間に、火のガルグイユがニナに襲いかかる。
わあ、わあ、わああ! ニナが大変!!!
「リニッ、お前の命令に従うように設定されてるんだろ!? 命令するんだよ!」
「あ、えと……! ガルグイユ、止まれ! 動いちゃだめっ……!!!」
私は両手を合わせて、必死に叫んだ。
防御するニナの手にガルグイユの前足が当たり、そのまま動かなくなる。
止まったあぁ……!!!
「さすが石だから、痛いわ~!」
ガルグイユが地面に着地し、元の体勢になった。あとで台座に戻ってもらわないと。
ニナは攻撃で赤くなった腕を
「もう、王様のガルグイユで遊ぶからだよ……」
「本当に……、うわああぁ、上!!!」
男の子の叫び声につられて顔を上げると、上空から雷が落ちてきていた。止めるのが遅かった、ニナに直撃しちゃう!
「うきゃー!!!」
思わず目を閉じて、立ち尽くすニナ。
落雷の轟音と激しい光で、私もぎゅっと目を閉じた。
……静か。ニナは大丈夫だったかしら。
恐る恐る、ゆっくりと瞼を上げる。ニナの後ろに立った大柄の男性が、ニナの頭の上に手を出していた。
「……何やってんだ、お前ら」
緑の髪が揺れる。ば、バアル様って王様だ……!
雷を使えるようにした本人なので、効果がないみたい。ニナも変わらない姿で、不思議そうにまばたきをした。
「バアル様、すんません! ガルグイユのテストをしていたら、暴走しちゃいまして……」
男の子が
「このガルグイユ、攻撃に移るの早いですよ。遅からず人死にが出ます!」
珍しくニナが私にしがみつきながら、バアル様に訴える。ニナだからともかく、普通の人間だと最低でも大怪我していたと思う。
「あー、ちと危険だな。お前ら、攻撃されない限りは、基本的に攻撃するな」
『ガガガ……緊急時以外ハ反撃ノミ』
『グググ……ブレスハ攻撃ニ入リマスカ』
「入るだろ」
ガルグイユはまだ不安があるものの、なんとかマシになってきた。ところで、王様が帰ってきたならエクヴァルもいるのかな?
私がソワソワしながら見上げて、どう聞こうかしらと考えていたら、王様と目が合った。
「俺はこのまま契約者の元へ戻るからな、荷物を取りに寄っただけだ。ルシフェル様達は、まだだぜ」
「……はい」
なあんだ、エクヴァルはまだなんだ……。
ちょっとしょんぼりするけど、お留守番のお仕事を続けないとね。今日中に来るかな? 明日になるかな?
「よし。おい、工事に関わったヤツらで、まだここに残ってるのを集めろ。今晩は宴会だ!」
「やったあぁ! 声を掛けまくってきます。場所はどうしますかね?」
「え~、私は手伝ってないから参加できませんか!?」
男の子が大喜びで、拳を握った片手を挙げた。ニナも参加したいのね、よく王様に言えるなぁ……。
「いいぜ、来い。宴会は多い方がいい! 場所はどこか貸し切りにできる、都合が付きそうな店を押さえられるか?」
「知っている店に相談してきます」
軽くお辞儀をして、男の子は走り去った。よっぽどウキウキしているのね、途中で飛び跳ねている。
「……あ、あの……。私……は、おうちの、お留守番を……任されて、いま、す」
工事に参加していないけど、これは私もメンバーに含まれちゃってるよね。宴会を断わったら、怒られないかしら。しどろもどろで、小さな声になってしまった。
チラッと見上げると、王様の表情は変わっていなかった。
「そんならガルグイユに、そっちの留守番をさせっか。メッセージを吹き込め」
「え、はい……!」
「やったじゃん。一緒に飲もうよ、リニ!」
ガルグイユが私の代わりに、お留守番をするの?
ニナが楽しそうだよ。懲りないんだから。
火のガルグイユがおうちの留守番をしてくれるので、こちらに性能テストも含めてメッセージを吹き込んだ。
宴会には関係ない小悪魔や契約者、ドワーフや冒険者まで集まっちゃって、最後には満席で、席が足りなくなるくらいになったよ。関係ない人は、芸を披露したら参加できるの。
よく分からないお笑いのネタをしたり、冒険の話を皆に語ったり、とにかくバアル様を楽しませればいいの。お酒が入っているからか、皆がよく笑う。
朝になっても続いて、最後はお店の人まで参加しちゃった。小悪魔がお酒を運んで、おつまみを作っていたよ。私もニナと一緒に、プリンを作ったの。楽しかった……!
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