第344話 鉱山でお手伝い
鉱山で働く人の集落で、宝石の加工場や運搬する荷馬車の止める場所、宝石を展示した施設などがある。入り口は鉄の柵があり、兵が見張りをしていた。高価な宝石が産出するとあって、結構な数の兵が常駐している。
「こっちです~」
集落の外れにある、倉庫。ここに魔石が仕舞ってある。
隣にはアイテム作製施設が併設されていて、現在は職人が回復アイテムを中心に作製中だ。
倉庫の鍵を開けると、薄暗い倉庫内に木箱入れた魔石が山積みにされていた。
魔石とは、主に鉱山で採掘される、魔力を帯びたクズ石のこと。
これに属性を付与して、灯りや熱、氷の代わりとして日常的に使用する。灯りとして使うなら、蝋燭よりも安全で長持ちする。ただし、属性を籠める人の能力によって使用時間や効力に、かなりバラつきが出やすい。
「たくさんありますね。何処で作業をしたら良いでしょう」
「考えてなかったわ。作業所は空いてないから、外かどこかの建物に運んでもらおう」
まさかの作業スペースがない。
属性を入れるだけなので、集中さえできれば特別な施設はいらない。ただ、この魔石だらけの倉庫でやるのは少し危ないわね。
ペリエルが石を運び出す為に兵を呼び、ついでに作業場所の相談をした。
「……じゃあ、休憩室でやってもらおう」
「作業中は誰か立たせて、立ち入りを禁止しましょう」
場所はすぐに決まった。早速、魔石の運び出しが開始される。
魔石を運び入れて、休憩室のテーブルの上にあったカップやお菓子などを、片付けた。キレイになったテーブルに適当な布を敷き、その上に魔石を並べていく。
「これで作業できそうですか?」
「はい、十分です」
全部で木箱が二つ。セビリノと一つずつだな。
「ベリアルの契約者さん。光属性の付与は繊細だから、無理しないでね」
「このくらいなら問題ないですよ」
ペリエルが心配してくれる。倉庫内の石を全部かと思ったけど、違うのね。
片付けと準備が終わったら、兵達はすぐに休憩室の外へでた。ペリエルは作業の確認をするので、残っている。
「イリヤ、お手伝いできることがあったら、言ってね」
リニが力一杯、両手を握った。やたらと気合いが入っているわ。
「イリヤ嬢、雑用でも何でも、リニにやらせてあげて。戦闘で力になれなかったし、宿の宿泊予約も上手くいかなかったでしょ。リニは成功して役に立ちたいんだよ」
エクヴァルが小声で教えてくれた。さすが真面目なリニだわ。
「そういうことね。じゃあリニちゃんにも、手伝ってもらうわね」
「うん! 私、頑張るから」
とはいえ、現時点で頼めるお仕事はない。まずは属性の付与をしてしまわないと。
「陽光の欠片よ宿れ、
「光よ灯れ、導きの白き翼となれ。照り返しの輝きをもたらせ」
魔石に光の属性が入る。ほんのり縁取るように光を帯びてから、元の色に戻った。全部に属性を付与できたわね、いい出来だわ。
「机の上全部を一度で……、しかも均等に入ってる。さすがルシフェル様が推薦されただけあるわ! ルシフェル様の見る目は確かね、素晴らしい!」
作業をしたのは私達で、褒められるのはルシフェル。まさに信者の姿勢だよね。
「ちゃんと属性が入っているか確認しながら、この箱に移します」
ペリエルは平たい箱を取り出し、蓋を開けた。仕切りで小さな正方形をたくさん作ってあり、ここに魔石を一つ一つ詰めるのだ。
「リニちゃん、手伝ってくれる?」
「これならできそう……っ!」
リニが魔石を手に取り、じっと眺めた。そして丁寧に箱に納める。エクヴァルは属性がちゃんと入っているかは分からないので、リニの仕事を見守るだけ。
「それで、他に手伝うことはあるのかね。これだけではつまらぬ」
大した仕事ではないので、ベリアルが退屈している。
高価な宝石を採掘している鉱山じゃ、他国の人間やその関係者なんて、深い場所に入れたくないんじゃないかな。だからといって、彼は雑用とかは手伝わないだろう。
「えーとベリアルはね、さっき行った宿舎の裏手に、建物に使った木材の残骸とかがまとめてあるから、燃やし尽くして。それと、崩れた魔石から属性を抜いておいて~。粉にして形成し直してから、また属性を入れるわ」
ペリエルは魔石を一つずつ確認して箱に仕舞いながら、ベリアルに適当に指示を出す。
ドラゴンに壊されて、細かくなって使いにくくなった魔石を、使いやすいように直すらしい。その場合、属性が入ったままだと暴発の恐れがあって危険なのだ。だから、いったん属性を抜く。ただし、入れるよりも難しい。
糊でくっつけるのはすぐだけど、キレイに剥がすのは難しい、こんな感じかな。
「それが我にものを頼む態度かね!!!」
「ルシフェル様がベリアルに手伝わせろって仰いました~。何をしてもらったらいいか尋ねたら、面倒なことをやらせるといいって言ってくれました~」
「ぐぬぬ!」
子供の言い合いみたい。ベリアルの目付きが更に険しくなる。
天使ってベリアルを恐れたり、逆に雑に扱ったりするけど、高圧的なのはかなり上位の天使だけ。ペリエルはそこまでの位じゃないし、戦闘もあまりできないみたいなのに、大丈夫なんだろうか。
「ベリアル殿、こちらの片付けは任せて次の仕事に向かいましょう!」
外にいる兵に案内をお願いして、ベリアルと一緒に休憩室を後にした。
ペリエルはリニ達と残って片付けをしてもらおう、ベリアルがそのうち爆発しそう。ルシフェルはベリアルがどこまで我慢できるかな、とか楽しんでいるんだろうか。
魔王の遊びに巻き込まれるのは危険だわ。
まずは集められた木材のクズを焼き払う。ベリアルは必要以上に魔力を使い、屋根や木よりも高い火の柱を作った。煙がもくもくと流れる。
「ふははは、燃えよ!」
「すごい火だ……、銀の髪の悪魔もすごかったけど、彼もすごい……」
案内してくれた兵が目を見張っている。
折れた柱などの木材が黒く染まり、火が火を誘うように燃え続けた。
次は魔石から属性を抜き出す作業。光の属性なら火ほどは危険はない。火属性が入っていて暴発すると、火事になってしまう。
魔石が収納してある倉庫には鍵が掛かっていて、備品の管理をする人に開けてもらった。運び出して、外で作業をするよ。
まずは私が発動させる。発動してからの方が、剥がしやすい。
「光の花よ、咲き乱れよ」
魔石から淡い黄色の光が溢れ、地面を染めた。
「ふむ、しっかりと定着しておるわ」
ベリアルが闇属性の魔力を放出して中和させ、グイッと引っ張るようにして強引に属性を剥がす。辺りを照らしていた光が消え、魔石を中心に伸びていた影がなくなった。
「え、もう終わりですか……?」
駆け付けた魔法使いが驚いている。作業の確認に来たのかしら。
「はい、全部終わりましたよ」
「ありがとうございます、壊れているので下手に手を出せず、後回しになっていました。これで安心できます」
魔法使いは魔石を確認して、再び倉庫へ戻しておくように指示をした。この魔石は坑道の通路の明かりとして使うもので、壁に備え付けられたケースに入れて、光を発動させる。定期的に魔力を注げば、数年は使用できる。
形成し直したものだと長持ちはしないが、それでも無駄にするよりいいわよね。
魔石を粉にして固め直すのは、鍛冶職人がやってくれる。樹脂で固め直すから、表面がつるつるになるよ。細かすぎて使えない魔石なんかも、こういう作業をする。
本物の魔石と区別する為に、練り魔石と呼ばれたりして、比較的安価で取引される。
ここでの役目は終了、集落にある休憩所に戻った。
「師匠、お疲れさまです。こちらも終了しました」
ペリエルの契約者も到着していて、セビリノと会話中だった。セビリノは私がいない間に、指輪に回復魔法を付与したと報告してきた。
「アーレンス様に付与して頂けるなんて……、自慢できます!」
指輪を大事そうに見つめる、ペリエルの契約者。魔法そのものを付与できる魔導師は少ないらしい。
「夕方になりますから、麓で泊まってはどうかと提案されました。ルシフェル様が宿泊された宿です」
「そうよね、もう移動するような時間でもないわね。泊まりましょ」
既に手配は済んでいるとか。ペリエルの契約者が、ここへ来る前に準備しておいてくれたのだ。手際がいいな。
「私も終わったから、すぐに行かれるよ」
リニは私が属性を付与した分の魔石を、一人で全部箱に詰めた。仕事ができて、誇らしげな表情をしている。
「リニも頑張ってくれたからね、美味しいものを食べよう」
「美味しいもの、何かなあ。楽しみ」
エクヴァルに褒められるのが、一番嬉しそう。
私達はペリエルに案内されて、麓の大きな町にある宿を目指した。
キュイを町の入り口に止めて、門から歩いて入る。門番はペリエルを見たら、すぐに通してくれた。
ベリアルが途中で、宝石を買いにお店に入った。上質なサファイヤと、ほどほどの石がごっそり売り切れて、空の棚が三つもある。ルシフェルがまとめて購入したのだ。彼は地獄にいる使用人や配下にも、お土産を買っている。
この辺がベリアルとの違いよね。なんだかんだで部下思いなんだよね、ルシフェルは。
「ここです~、ではまた明日!」
ペリエルとは宿の玄関口で別れた。
中に入ると、ベリアルの姿を確認した宿屋の従業員が、もしかしてベリアル様ですか、と尋ねてきた。ベリアルへ手紙を預かっているとか。
託したのはやはり、ルシフェルだった。
内容は、こうだ。
『やあベリアル、やはりこの宿に泊まったね。
この近辺で小国が制圧され、職を失った兵士崩れの賊が出没するらしい。小悪魔や魔物と契約もしているとか。
ちょうど宝石を積んだ馬車が南へ行くというので、私も乗ることにしたよ。君はゆっくりと来たまえ』
「これは、馬車の護衛をする、ということでしょうか」
「……そうであろうな。ルシフェル殿が同行すれば、襲いかかってくる小悪魔もおるまいて」
ふーむ、そうよね。ある程度魔力を抑えていても、近付けば分かる筈。
宝石を運搬する馬車に乗るといっても、討伐をするつもりではないらしい。わざわざ人間の為に、盗賊を倒そうとまでは考えないわね。
それにしても、これなら別にペリエルに伝言を残す必要なんてなかったのにね。
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