第284話 お土産選び

 お土産といえば、私は食べ物や土地の名産品とか、雑貨がいいと思う。

 しかし相手はセビリノのご両親だ、常識人のように見えて奇怪な趣味があるのかも知れない。リサーチが必要ね。

「ご両親はどんなものがお好きなの?」

「……ふむ、母はお茶会などの交流はあまり好まない方でした。父は……仕事がいきがいのような」

 いくら生きがいでも、仕事はお土産にならない。

「食べ物とかは……」

「三食しっかり食事をされます」

 そういう意味じゃないのに、堂々と答えるので私が間違えた気がする。質問の仕方を変えなければ。


「お邪魔した時のお食事は、野菜中心だったわよね。野菜がお好き?」

「好き嫌いは特にないかと。魚料理も多いですし、……ああ砂糖が高いので、甘いものなどをティータイムに召し上がられていましたね」

「それそれ。ケーキとか、マカロンとか?」

「いえ、ドライフルーツを二つ三つや、他にはクッキーなどを摘まむ程度です」

 予想以上に質素なティータイムなのね。そういえばセビリノも、ドライフルーツは好きみたいだったな。

 ご両親の場合は、節約しているだけな気もする。領民を第一に考える人達なのだ。

「うん、甘くて美味しいものを買って行きましょ! リニちゃん、選ぶのを手伝ってね」

「わ、私……? 気に入ってもらえるかなあ……」

「リニちゃんが選ぶお菓子はいつも美味しいから、喜んでもらえるわ」

「本当? 頑張って選ぶね……!」

 

 リニが張り切ってくれている。皆でお菓子屋さんを回ることにした。

「我は付き合わんぞ」

 ベリアルはやはり宝石などを探すようだ。オークションだけでは物足りないのね。

「揉めたりしないでくださいね」

「すぐに騒動を起こすのは、そなたであろうが」

 むむ。しかし色々巻き込まれた後なので、反論しにくい。

 そんな私に構わず、ベリアルは高級品の店が並ぶ通りへと姿を消した。

 私達はお土産の食べ物を探す。日持ちして、数日たっても味が落ちないようなものがいいかな。焼き菓子とかかな。

「そうです師匠、甘いものが良いのでしたら砂糖はどうでしょう!」

 名案だとばかりに提案するセビリノ。本気だ。

「それはお土産というより、お使いね……」

 砂糖が無くて困っているならともかく、遠い国から帰ったお土産が砂糖というのは、いかがなものかと。


 セビリノから聴取していると、つんつんと服が引っ張られる。

「あの、あの、ステキなお店……」

 リニが可愛らしいお店があると教えてくれた。窓からはお客で賑わう店内に、レースのカーテンとお花、可愛い小物などが飾られているのが見える。

「入ってみましょうか」

「うん」

 扉を開けると、カラランとベルが鳴った。

「いらっしゃいませ」

 甘い匂いのする店内では、購入されたお菓子を店員が丁寧に包んでいた。慣れていようで、素早くリボンが掛けられる。


「小さくて可愛い。お、お土産にいいと思う……」

 リニが目を付けたのは、花の形をした小さなお菓子だ。エグドアルムでも見掛けたことがある。

「確かラクガンっていう、甘いお菓子だわ」

「はい、こちらは麦の粉に砂糖や水あめなどを入れて練り、木型に押して乾燥させたお菓子です。日持ちもするので、長距離を移動される方もお求めになりますよ」

 すかさず近くにいた店員が説明してくれた。

 ピンク、黄緑、水色など優しい色で、形は花や葉っぱ、鳥など色々なものがあり、箱に並べられている。春がきたように鮮やかだ。中央に蓮の花が開いたような形をした厚みのあるラクガンが入った箱など、贈答品にピッタリだろう。

「じゃあこれをください。セビリノも同じにしましょう」

「はっ」


 包んでもらう間に、他のお菓子も眺めた。

 透明感のある艶やかなお菓子も売っている。あたかも天然石のような色合いだ。

「こちらは食べる宝石と呼ばれる、琥珀糖です。砂糖と寒天で作り、乾燥させたお菓子です。シロップやリキュールなどで味や香りを付けております」

 そして一月近く保存できるとのこと。これも買うことにした。タイプの違う砂糖菓子で楽しんでもらうのだ。

 リニも気に入ったお菓子を買っていて、リボンと包装紙を選んでいる。

「……エクヴァルのお兄さんにも、あげるつもりなの。め、迷惑じゃないかなあ」

「きっと、とても喜ぶわ!」

 以前お菓子を貰っていたから、お礼がしたいのね。さすがリニ。私が応援すると、はにかんだ笑みを浮かべた。


 お土産の買い物が終わり、繁華街のお菓子以外のお店にも足を運ぶ。

 魔法関係のお店は少なく、あっても『魔法大国エグドアルムから直接輸入しました』とか、張り紙があったりする。これはエグドアルムで魔法アイテムショップへ行く方がいいのでは。魔導書店もあまり大きくない。

「あ、アーレンス様!」

 次はどこへ行こうかと考えながら通りを歩いていたら、誰かに声を掛けられた。

 人波の向こうから手を振るのは、エグドアルムの皇太子殿下の親衛隊の一人、エクヴァルの同僚でエンカルナだ。

「お久しぶりです」

「イリヤさん達ここまで来てたのね~、……ルシフェル様は?」


 三人で歩く私達の周囲にキョロキョロと視線を巡らせて、探している。彼女はののしられるのが好きな変な女性で、特にルシフェルから冷たくされると、とても喜ぶ。

「地獄にいらっしゃいます」

「ベリアル様は?」

「今は別行動です」

「えええええ~、せめて睨んで欲しいのに……」

 相変わらず謎の趣味をしている。本気で肩を落としていた。

「今は殿下の婚約披露の準備で忙しいのでは? 何故ここに?」

 相手の様子もおかまいなしに、セビリノが尋ねる。

 確かにパレードの予行演習とか、通る道の確認とか、色々と警備の都合もある筈。ただでさえエクヴァルがこっちにいて、一人足りないのに。


 エンカルナは私達に近付いて、背の高いセビリノに少しかがむようお願いした。内緒の話なようで、声を潜める。

「闇オークションの出品を確かめなきゃならないんです。国で女性が行方不明になる事件についてはご存知だと思いますが、その女性が売られていないかを前前回のオークションから確認していて」

 人身売買だったら、こういうところで売られちゃうのね。

 エグドアルムなら見知った人に見つかったら通報されちゃうから、国外に連れ出された可能性がある。他国まで探さなきゃならないんだ。

「ふむ、首尾は?」

「一人も見つかりません……、移送された気配すらありません。きっと今回も空振りだわ」

 ため息を落とすエンカルナ。忙しい中で無駄足だと、やるせないんだろう。

「私達はオークションに参加予定です。エクヴァルに託されては?」

「ほんっと!? そうするわ、忙しいのよ。それにこういうのは、ああいう血も涙も情けもない鬼にぴったりの仕事よね」


 エクヴァルが苦手なのも変わらないな。これで国に帰れると、晴れやかな表情になった。

「あ、あのね。鬼じゃないよ、エクヴァルは優しいよ」

 リニが懸命に否定している。

「情はあったっけ。きっと国ではどこかに置き忘れるのね。とにかくエクヴァルを探して、打ち合わせしてくるわ」

 まだ何か言いたげなリニの頭を軽く撫でて、エンカルナは手を振って去って行った。独特な感性の女性だけど、サッパリとしていて悪い人ではないのよね。

 悪いのは趣味?

「じゃあお店巡りの続きをしましょう。魔法アイテムショップには入る?」

「あまり期待できそうにありませんでしたな……」

 セビリノのお眼鏡にかなうアイテムって、そうそうないのでは。

 通りを走る馬車の窓に魔法使いっぽい人が張り付いて、こちらを凝視している。セビリノに気付いたんだろう、エグドアルムが近いから顔を知っている人も多いのかも。


 移動しようとしたら、今度はエクヴァルが細い路地から姿を現した。エンカルナとは入れ違いになってしまったわ。

「買い物はできた?」

「ええ、リニちゃんも買い物していたわ」

 リニは小走りですぐにエクヴァルの元へ行く。

「エクヴァルは終わった?」 

「終わったよ。宿で話そうか」

 非合法な闇オークションに参加する話なので、さすがに人に聞かれないようにしないと。ちなみに暗黙の了解というか、これで町が発展しているので役人からも見逃されている。


「さっきまでエンカルナ様がいらっしゃったの。エクヴァルを探しに行ったから、先に合流した方がいいかも」

「……ああ、あのことだな。後でいいよ、いったん宿へ戻ろう」

 すぐに見当が付いたみたい。

 とはいえ放っておいていいのかな、探しまわっているんじゃないかしら。そういう意地悪をするから、鬼って呼ばれちゃうのでは。エクヴァルは全く気にせず宿へ向けて歩き出しだ。私もその後に着いていく。

 ベリアルなら私の居場所は把握しているから、わざわざ戻ると伝えなくてもいいね。宝石店かどこかで選んでいるような感じだ。


 宿へ戻ると部屋に集まって、窓辺の椅子に座った。セビリノは立ったままだ。

「まずオークションは三日後に開催される。剣の持ち主も、それに合わせて来るだろう。次は来月だからね」

 開催は多くても月に一度、出品者が集まらなければ開催されない場合もある。エクヴァルが詳しく説明してくれた。

「すぐで良かったわ」

「そうだね。で、誰が行くかだね。私は会員だから参加できる。それと同行者一人と、護衛一人まで。ビップ会員になれば、あと二人ほど連れて行かれる」

 会員なの、それは話が早いわ。会員証を指で挟んで披露するエクヴァル。

「ベリアル殿は絶対に参加するつもりよ」

「あと一人はセビリノ君でいいかな。イリヤ嬢は、リニと待っていてくれる?」

「ちょっと楽しみだったのになあ。いいわ、終わったらどんなものが出品されたかとか、雰囲気とか教えてね」


 なんだ、私は参加できないんだ。でもリニと待つのも、交友を深めるチャンス。すぐにエクヴァルの後ろに隠れちゃうからね、私ももっと仲良くなるぞ!

「イリヤ、よろしくね」

「ええ、リニちゃん」

 窓の外はだんだんと暗くなり、夜の訪れを街灯が灯って歓迎する。

 人通りはまだ多く、馬車も行き交っていた。これからお酒を飲んだりするのかな、客引きが小悪魔を連れた通行人を足止めして、お店へ誘導しようとしていた。

「エクヴァル殿、私はオークションの作法など分かりませんが」

「大丈夫、ベリアル殿が無茶をしないよう接待する係だから」

 どんな人が来るか分からないし、エグドアルムから来る貴族って横柄な人がいるかも。ベリアルが怒るような事態になったら大変だ。

 そうなる前にアーレンス様ですよーって、やるのかな。エグドアルムの貴族なら宮廷魔導師を怒らせようなんて、そうそうしないだろう。

 

 あとは剣の持ち主が来るのを待つのみ!

 ドワーフのマシューはご飯とお酒を奢ってもらえたと、戻ったのは遅くなってからだった。工房を間借りして、仕事を開始すると張り切っている。

「オイラの時代は、もうすぐなんだなー! かんぱ~い!!」

 かなりご機嫌。一人でお水で乾杯していた。

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