第70話 アムリタ作製
今日はついにアムリタを作ろう。
念願の素材を入手したしね。防衛都市でシーブ・イッサヒル・アメルの採取依頼を出してもらったけど、ひとまずエルフの村で貰ったものを使い、届いたらまた作ればいいわ。
前回エリクサーの作製を商業ギルドのギルド長が見学したので、今回も誘ってみると、二つ返事で私の家へやって来た。あとはエクヴァルも見学する。この二人は初顔合わせだったかな。
エクヴァルには、ベリアルの助言でギルド長に私の素性を教えてあると伝えた。そのベリアルは、今日は一人で何処かへ出掛けている。
なら私も自己紹介をしておこうと、エクヴァルがエグドアルムの皇太子殿下の親衛隊に所属していて、今は私の護衛をしていることを明かしていた。ギルド長はとても恐縮して、返事がちょっとぎこちない。
「あ、Dランク冒険者として登録してますから、予定がなければ依頼を受けますよ。よろしく」
「Dランク……? あ、ああ、なるほど。そういうことですか」
少し思案して、すぐに事情を察したよう。
一国の親衛隊に所属する人間をDランク冒険者レベルの報酬で雇えるなら、かなりお得! 彼はドラゴンにも
……とはいえ、エクヴァルが積極的に動く時は、情報が欲しいとか何か他にも目的がある時だ。私も覚えてきたぞ。ギルド長を情報源として認定したんでしょ。
「エグドアルムの情報が入りましたら、些細なことでも一報ください」
「ああ、最近は特にないが。ただ、取り引きのある国の人の話によると、最近は返事が遅くて商談がまとまりにくいそうだよ。エリクサーが買えないと、困っていたよ」
「……なるほど、ね……」
悪そうな笑顔でエクヴァルが頷いた。
エグドアルムで、魔導師長の不正調査に動きでもあるのかな。
マンドラゴラ、シーブ・イッサヒル・アメル、羽衣草、竜のしっぽ。これらをキレイに洗ってひたひたの海水につけて、十分ほど置いてから火にかける。
「大海を
ドロドロになるまで一時間程かき混ぜつつ煮る。竜の素材は変わらないよ。
そして注意すべきが、アムリタ作製中に未解明の作用で生まれる毒。コレを完全に排除しないと、アムリタとしては失敗になる。毒が染みだしたのを確認して、解毒の呪文を唱える。
「毒よ、
「……あれ? イリヤ嬢。その魔法、なに?」
「これ? 昔の強力な解毒の魔法を解読してカスタマイズして、復活させたの。効果あるわよ。覚えておけば?」
「……エグドアルムの宮廷魔導師とは、本当にすごいね……」
ギルド長がほお、と感心してため息をつく。
毒消しは、ハイランの地下茎やランヨウの葉のしぼり汁を一緒に入れるやり方もある。全異常に効果のある魔法を使っちゃう、大味な人もいる。
「ギルド長、彼女は特別ですから……」
普通に真面目に研究していただけですよ!
それを布で
これで完成!
材料が手に入りにくい以外は、焦がさないよう注意しつつ毒を排除し、しっかりかき混ぜ続ければ難しくは無い、それがアムリタ軟膏!
そして白い容器に入れるのが決まり。
ちなみに内服薬にしたければ、粉薬にすれば良い。
これで完成です! 十個のアムリタ軟膏。あとはシーブ・イッサヒル・アメルが届いたらまた作れるね。このうちの二個をギルド長に差し上げたら、また恐縮された。
「あ、そだ。鱗の加工を頼みたいから、ついでにギルド長を送ってくるよ」
エクヴァルがそう提案して、この前お土産にあげたティアマトの鱗を持ってきた。ドワーフのティモの工房に頼むらしい。鱗の素材を扱った後だし、扱いに慣れたかな。
親衛隊に護衛されるなんて王侯貴族になった気分だとギルド長が喜びながら、二人で家を出て肩を並べて歩いた。普段は軽い話し方をしているエクヴァルの立ち居振る舞いは、見ていれば単なる冒険者とは思えないし、立派な護衛に守られている感じがするよね。
私は地下の仕事場の片づけをする。ついでにソーマの状態を確かめた。
経過は順調で、もうすぐ仕上がるよ。
一通り終わってリビングでくつろいでいると、ただいまと玄関の扉が開く。
「ティアマトの鱗、加工できないって断られたよ……。硬すぎるって」
エクヴァルが珍しく落ち込んでいるよ。鱗は使わないと困っていたのに、どうやらお土産の鱗は使うつもりになっていたらしい。
「ヨルムンガンドは大丈夫だったのかしら?」
「アレでギリギリだったみたいだね。工具が壊れる、これは何なんだって詰め寄られた。ティアマトとは言えないよねえ……」
まあそうだよね。どこでどうやって手に入れたって話になる。
「工具が不足であるならば、それから作れば良いではないか」
先に戻っていたベリアルが提案をすると、暗くなっていたエクヴァルの表情が晴れやかになる。
「あ! その手がありましたな! 早速相談してみます!」
「ティモ様の工房でしょ? 私も行こうかな」
というわけで、私達三人でティモの工房を訪れた。商店街から少し外れた場所にある工房からは、
「こんにっちわ~」
「おう、さっきの兄ちゃん。それに嬢ちゃん達まで」
ちょうど区切りが良かったようで、薄汚れた作業着姿で、汗をかいたティモが顔を出す。作業の途中だと絶対に手を止めないよ。
工房には鎧がいくつか展示してあり、売り物の剣が台に並べてあったり、壁にも飾られていた。
額に入れて誇らしげに掲げられている認定証。
「先ほどの鱗の話なんですがね、工具を新調すればいいんじゃないかと思いまして! どうです、必要な鉱石があったら私が探してきます!」
やたら乗り気だ。やっぱりティアマトの鱗は魅力があるらしい。
「ヒヒイロカネなど、どうかね? どこか、採掘できる鉱山を知らんかね?」
今日のベリアルはやたら親切だぞ。これは絶対、裏がある。
「ああ、それな。欲しいんだよな。だがなあ、今ヒヒイロカネを探せる職人が身内の不幸で、仕事を放棄しちまったんだよ。採掘は止まりっぱなしだ」
「それは大変ですね。他に見える方はいらっしゃらないんですか? あの赤いオーラ」
私は集中すれば普通に映るんだけど、アレは誰にでも分かるわけじゃないと教えられた時は衝撃だったな。
「そうだよ、アレは普通のヤツには区別つかね……、て。嬢ちゃんまさか、見えんのかい!? あ、魔法アイテム職人か! そういうのは敏感なんだな!」
「薄い赤い色をした魔力が流れる鉱石、ですよね」
その言葉に、ティモは破顔して膝をパンと手で打った。
「おおっ! そうそうソレ!! ここから東の山脈の、ちっとだけ南に行くと、でっかい鉱山の町がある。馬車の通る広い街道があるし、看板も出てるから迷わんだろ。そこに行って、俺の依頼で来たっつえば、鉱山に入らせてもらえるハズだ」
鉱山の町。それはちょっと面白そう。採掘してる鉱山に入るなんて、滅多にない機会だし行ってみよう。困っている人の為にもなるし!?
出発は明日。三人で出掛けることにした。ベリアルもヒヒイロカネが欲しいらしい。単に新しい装飾品を作りたいようだ。
そういえばブローチを換金してガオケレナにさせてもらったから、その分かも。ヒヒイロカネで作る気なのね、炎の属性でもつけるのかな。
ヒヒイロカネは赤い火のオーラが出ている鉱石で、通常はわりと柔らかく、合金にすることでかなりの硬度を持つという特徴がある。しかし合金にした時に火の属性は大抵失われる。再び足すことが一番簡単かな。火とは相性がいいよ。
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