第102話:モンスターパーティー③
しかし、何故かフロアにはモンスターの姿はなくなっていた。
「……ス、ステルス能力か?」
「たぶん違うわね」
「どうして分かるんですか?」
アリーナの言葉に首を傾げていると、その答えを指差しながら歩きだす。その先にあったのは──宝箱だ。
「宝箱がどうしたんですか?」
「中を見てみなさい」
「中を? ……こ、これって」
宝箱の中には、地下へと伸びる階段が続いていた。
「でも、ここって一応バベルですよね? 上に上ってきたのに、また下がるなんてありなんですか?」
「ありなんじゃないの? ゲームなんだから」
あっけらかんと言い放つアリーナに苦笑しながら、アルストはほぼ決定事項である内容を確認する。
「行きますか?」
「行かないとクリアできないしね」
「やっぱりクリア前提なんですね」
「当然! まあ、厳しい状況には代わりないけどね」
現在、二人のHPはヒールサークルの効果で全快しており、アリーナのMPは賢者の魔銃の効果で五割まで回復している。
アルストのMPはほぼなくなっているのでグランド・エアは使えないのは痛いが、それでも残り一匹ならば一角獣の銀角の能力で戦える。
厳しい状況だが、最悪ではない。
二人の思考が一致したところで、階段を下りていった。
数十段の階段を降りた先に広がっていたのは、広大なフロアだった。
宝箱が置かれていた上のフロアよりも二倍近くはあるフロアの中央には、いかにもボスモンスターだといわんばかりに一匹のモンスターがこちらを見据えている。
見た目はゴーレムと言えばいいだろうか、四角い茶色の物質が幾重にもくっついて形を作り出しているモンスター。
眼球はなく、目に当たる部分は単なる窪みにも見えるが、確かな視線を二人は感じていた。
「でかいわねー。三メートルはあるかしら?」
「それに堅そうです。こいつを見た後なら魔導師でよかったって思えますね」
耐久力の高そうなモンスターを見て、接近戦は危険だろうと判断する。
「魔法耐性が低いかは分からないけど、やってみて色々と考えましょうか」
見た目で判断してはいけないと暗に伝えるアリーナ。
アルストもすぐに気持ちを切り替えてしっかりと頷いた。
「それじゃあ──先手必勝で突っ込むわよ!」
「はい!」
同時にフロアへ足を踏み入れた二人は、ボスモンスター──守護神へヴィゴーレムへ銃口と杖先を向けた。
「メテオバレット!」
「フレイム!」
燃える巨岩と三筋の炎。
へヴィゴーレムの名前とHPが表示されたのとほぼ同時に着弾すると、初手でHPを八割まで削ることに成功した。
「見た目に反して耐久力はそこまで高くない?」
「そんなこと気にしない! 一匹だけなら集中砲火で一気に仕留めるわよ!」
「ご、五割の変化は?」
「それも見てからのお楽しみよ! 分からないなら考えても意味がないもんね!」
アリーナは笑みを浮かべながらそのように口にすると、真っ直ぐにへヴィゴーレムへと迫っていく。
「ちょっとアリーナさん!」
「さっきは数の暴力で面白くなったんだから、ここでは楽しませなさいよね!」
戦闘狂ではないかと思ってしまう発言に苦笑しながら、アルストはアリーナを援護するために魔法を発動する。
「サンダーボルト!」
落雷を落として様子を見ようと考えたのだが、フレイムに比べてダメージの減り方が芳しくない。
「ゴーレムは岩か土かな? 雷には耐性でもあるかもしれないな」
それならと、アルストはフレイムを三発放つ。
その間にもアリーナはメテオバレットを撃ち出してダメージを与えていく。
しかし、へヴィゴーレムは見た目に似合わず機敏に動きメテオバレットを回避し始める。
さらに地面を殴り付けると土の刺が飛び出してアリーナに襲い掛かった。
「あはは! 遅い遅い! これくらいじゃあ当たらないわよ!」
ブリザードバレットをぶつけて刺を相殺すると、さらに肉薄していくアリーナ。
賢者の魔銃と暁の魔銃に握りしめ、至近距離からメテオバレットをぶっ放す。今のアリーナの思考はそれだけで埋め尽くされていた。
「こんのやろう! 宝箱に階段とか──私の期待を返しなさいよおおおおぉぉっ!」
「そっちですか!?」
レア素材を求めて受けた今回の依頼。
もちろんアサドが攻略を失敗したことへと憂さ晴らしもあるのだが、それ以上にレア素材への期待の方が勝っていた。
そんなアリーナの思いを、上に設置されていた宝箱は裏切ったのだ。
「あんたは絶対に、レア素材を出しなさいよねええええぇぇっ!」
アルストは注意することにした。
今回のボスモンスター、ラストアタック賞を奪わないようにと。
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