第100話:モンスターパーティー①
先ほど通路の先で見かけたモンスターがフロアを埋め尽くさんとする中で、アリーナは素早く賢者の魔銃を引き抜いてサウザンドバレットを放つ。
次いでアルストもフレイムを放ち牽制するものの、ここでもアルストの魔法は効果的なダメージを与えることができない。
通路から溢れるだろうモンスターを強力な魔弾で一掃しながら数を減らす予定だったアリーナにとって、周囲を囲まれた状況というのは予想外であった。
「アルスト君! 地面を攻撃して少しでも進行を遅らせて!」
「はい! でも、この数は無理ですよ!」
フロアの大きさは五〇メートル四方となっており、比較的大きなフロアなのだが数が数である。アリーナの攻撃も手が足りずに包囲網はどんどんと狭まっていく。
さらにモンスターは途切れることなく壁から溢れだしているので終わりが見えない。
「……くっ、これがモンスターパーティー!」
自分が戦力になったとしても、この数を二人で乗り切れるのかと考えても答えが出ないアルスト。
その答えが出ないという事実が、アリーナ一人では倒しきれないと思ってしまっている証拠でもあった。
「メテオバレット!」
だが、アリーナは諦めていなかった。
サウザンドバレットでは倒しきれないとモンスターも混ざっていると知るや、一撃が重く当たり判定の広いメテオバレットに切り替えて連射していく。
先頭だけではなく後続までも巻き添えにして爆発するメテオバレット。
だが、それでもまだ足りない。
「ダメだ──来ます!」
「接近戦は好きじゃないのよね!」
そう言いながらもマッスルベアーの剛腕を回避しながら、その脳天を爆砕させている。
対してアルストは防戦一方であり、回避も
時折アリーナの援護射撃はあるものの、それでも苦戦は必死だった。
「しゃーない、もう一丁!」
「に、二丁!」
アリーナは右手に賢者の魔銃、左手に新たな装備である【暁の魔銃】を握り魔弾を撃ち出した。
前後左右、あらゆる方向へ放たれる魔弾はモンスターの数を一気に減らし、アルストにもわずかだが余裕が生まれる。
乱戦になり、自分に何ができるのかをもう一度考えようとした──その時だ。
──ボンッ!
「ぐあっ!」
「アルスト君!」
何故見落としていたのか。明らかな自分のミスに愕然とするアルスト。
近くのモンスターがいなくなったからなんだというのだ。相手にもいるのだ──魔導師が。
「メイジシャン!」
「あっちね! ──くっ!」
アリーナが暁の魔銃を向けようとした瞬間、アルストに向いていた別の魔獣までもがアリーナ目掛けて駆け出してきた。
まるで助けさせないと言わんばかりの行動に、アリーナは目を見開いた。
「こいつら、戦略を持ってるの!」
左腕にフレイムを浴びたアルストは、肌が焼けるような感覚になりながら、それでも自分にできることを考えていた。
今のままではダメ。転職もできない。今変えられるものはなんなのかと考えたときに目に入ったもの――
「……
手に持つのは炎木の杖。
火属性の威力補正中の特殊効果が付いているのだが、今はその効果をもってしても目の前のモンスターには通じない。
魔女の手袋や七色の指輪を装備してなお、通じない。
ならば何を変えるべきだろうか。変えられるものなど一つしかない。
アルストはステイタス画面を素早く開きとある装備アイテムを選択、変更を行うと炎木の杖が手の中から無くなり別の杖が手の中に現れた。
それは銀色に輝く高レアリティの魔導師専用の装備。
「これしかない――
強く握りしめた一角獣の銀角を杖代わりに立ち上がったアルストは、先端をモンスターの群れに向けてフレイムを放つ。
――ゴウッ!
炎木の杖で放つフレイムと比べて二回り以上も大きなフレイムが先頭のモンスターを焼き払い光の粒子へと変わっていく。
あまりの威力にモンスターが立っていた地面が焦げ付き、周囲のモンスターにも飛び火している。
「これなら、いける! ……あれ?」
さらに気づいたことがある。
残り四割まで減少していたHPが少しずつではあるが回復しているのだ。
これは一角獣の銀角がもつ特殊効果——ヒールサークル。
装備者と装備者の半径三メートル以内にいるパーティメンバーのHPが自動回復するのだ。
特殊効果にも目を通したアルストはフレイムを放ちながら後退してアリーナの近くへ移動する。
「アルスト君! それすごいじゃないの!」
「パッシブで自動回復も付いてますよ!」
「そうなんだ! うわっ、私まで? 本当にすごいわね」
「これで俺も戦えます! でも……」
アルストも戦える。モンスターの数を減らすことはできる。
だが、それでも手があまりにも足りなすぎる。
アリーナも必死に二丁銃を撃ちまくっているが包囲網は再び狭まってきており、さらにMPも半分を切っていた。
賢者の魔銃だけならMP消費をカバーできるものの、暁の魔銃も撃つとなればMP回復が間に合わない。
ピンチは、いまだに続いていた。
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