第99話:謎のルーム

「アルスト君! 左任せたわよ!」

「は、はい!」

「今度は右!」

「はい!」


 アリーナの指示が五階層通路に響き渡る。

 モンスターの群れは幾度も二人に襲い掛かり、その都度アリーナがサウザンドバレットと他の弾を駆使して仕留めていく。

 一方のアルストは天井や壁を破壊しながらモンスターの進行を少しでも押し止めようと走り回っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「……うん、今回もなんとかなったわね」

「こ、これで何度目、ですか」

「九回目だね」

「……数えてたんですか?」


 必死に走り回っていたアルストとは対照的に、まだ余裕を見せているアリーナ。


「でもまあ、そろそろ攻略の糸口が見えないと精神的にきついかな。出口の見えないクエストほど、面倒臭いものはないからね」

「……そうですね」


 通ってきた通路はマッピングされているものの、群れに追いやられてしまい所々に穴が開いている。

 通り過ぎた場所にボスフロアがあるとすれば、エンカウント覚悟で引き返さなければならない。

 倒してきたからと言っても、モンスターは無限に出現するのだ。


「とりあえず、今は進んだ先を片っ端から探索することね」


 群れの切れ間で近くのルームに入っては出てを繰り返していく。

 気づけばアルストのレベルは37に上がっていたものの、ステイタスを割り振る時間ももったいないと探索を優先させている。


「ま、また群れですか!」

「本当にしつこいわね! サウザンドバレット!」


 ついに二桁に到達した群れとの戦闘に、アリーナも嫌気が差してきた。

 一分ほどで仕留めたものの、余裕を見せていた表情からは笑みが消えかかっている。


「……行きましょう」

「……はい」


 それでも先へと進み、ボスフロアを探していく。

 アサドやロキ達のやり取りを見て鬱憤を晴らすためだけのクエストのはずが、引き返すこともできず、ここまで苦労する羽目になろうとは思ってもいなかった。


 そんな中、通路の先に一つのルームがあり、突き当たりに何やら箱が置かれているのが目に留まった。


「あれは、宝箱ですね」

「ここまで宝箱すら出てこなかったんだから、一つくらいはあっても良いと思うわよ?」


 普通のバベルの下層にも宝箱は置かれている。

 一度開けると消えてしまい、時間が経つとランダムでまた現れる。

 紫の五階層では結構なルームを探索したが、宝箱を確認できたのは初めてだった。


「でも……」

「そうよねー。罠の可能性が高いわよねー」


 攻略組にいたアリーナには経験があり、アルストには予想をするくらいのゲーム知識があった。

 大抵の場合、高難易度の階層やクエストなどには罠が仕掛けられていることが多い。それも、宝箱などの飛び付きたくなるものに限って多くなる傾向が高い。

 初めて目にした宝箱は魅力的に見えながらも、その怪しさをいかんなく醸し出していた。


「罠にはどういったものがあるんですか?」

「ダメージ系だったり状態異常系の罠が多かったかな。中にはモンスターが大量に出現する罠とかもあるけど、私は見たことないかな」

「今以上に出現するんですかね?」

「どうかしら。まあ、どちらにしても目の前の宝箱を開けない理由にはならないわね」

「……開けるんですか?」

「当然じゃないの! こんな謎の階層の宝箱、レアアイテムかもしれないじゃないの!」


 罠の危険性よりも、レアアイテムの可能性の方が勝ったアリーナは意気揚々と宝箱が見えているルームへと向かう。

 その時、後ろの通路からモンスターの咆哮が聞こえてきた。


「まったく、こんな時にも出てくるわけ?」

「……ア、アリーナさん」

「どうしたの?」

「後ろだけじゃありません──左右の通路からも来ます!」


 アルストの叫びにも似た声に、アリーナも素早く首を左右に振る。

 咆哮は聞こえないものの、複数のモンスターからなる足音が左右の通路から近づいてくる。

 最初に姿を見せたのは、右の通路からだった。


「ボムバードとマッスルベアーの群れ!」

「上と下から、攻撃力の高いモンスターの組み合わせだわ」


 次に左の通路から。


「こっちはエアデビルにメイジシャン、それにトレント!」

「状態異常と遠距離攻撃特化のモンスターか」


 最後に後ろの通路から。


「……あれは、なんだ?」

「ゴブリンロードにヘヴィスライム、それとクイーンパンサー。どれも上位種のモンスターだわ」


 既存のモンスターが強化され、さらに上位種のモンスターが群れをなして三方向から押し寄せてくる。

 アルストが戦力にならない状況で、対応できる数ではなかった。

 そうなると、自ずと選択肢は限られてしまう。


「仕方ない。元々入るつもりだったわけだしね」

「……やっぱりそうなりますよね」

「その通り。宝箱のルームに入って、入口から顔を出すモンスターを片っ端から撃ち殺す!」


 予想していた分、アルストもすぐに行動へ移すことができた。

 まだ距離はあるものの、中に入って先手必勝をぶつける準備が必要だ。

 アリーナは何故か一目散に宝箱へ向かってしまったが、アルストは何も言わなかった。


「まずは回収しないとねー」


 ルンルン気分で宝箱を開けたアリーナ――直後だった。


 ――ガシャン!


「「えっ?」」


 ルームの入口になっていた場所に檻が落とされた。

 これではモンスターも入ってこられないのではないか、そう思っていたのだが――


「これってまさか――モンスターパーティ!」


 アリーナの声に合わせて、ルームの壁という壁からモンスターが溢れ出してきた。

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