第97話:選択
バベルに到着してからも順調に階層を進んでいく二人。
紫の依頼書に緊張しすぎたのか、そんなことをアルストは思い始めていたのだが、アリーナの見解は違っていた。
「……どうも胡散臭いわね」
「何がですか?」
「モンスターが多すぎるのよ」
「多い、ですか?」
レアクエストの時には少な過ぎると言っていたのだが、今回は逆に多過ぎると言う。
これにも何か法則性があるのかと思って聞いていたアルストだが、アリーナはあまり見ないことだと口にした。
「下層だからザコばかりだけど、さすがに数が多過ぎる。普通ならこれの半分以下しかエンカウントしないわよ」
「紫の依頼書だからじゃないですか?」
「まあ、そう言われるとそうなんだけどね。……なーんか嫌な予感がするんだわ」
「今からでもクエストを止めましょうか?」
「ダメよ! もったいないじゃないの! 最悪、DPを喰らってでもまずは先に進まなきゃね!」
「いやいや、DPを喰らったら先に進めませんからね? それと、俺は痛いの嫌ですからね?」
結局のところ、選択肢は先に進むしかないのだと悟ったアルストはそのまま足を進め、四階層のボスフロアへ続く大扉に到着する。
今まで通りボスフロアを素通りしようと考えていたのだが、何故だか素通りすることができなくなっていた。
「……この先に、何かがあるってことね」
「五階層に到着する手前でこれですか」
「どう考えてもボスモンスター、いるわよねー。……ところでアルスト君」
「なんですか?」
「あなた、ステイタスの割振りは終わったの?」
「あっ! ……すみません、すっかり忘れてました」
「やっぱりね! 一緒にいる時にやらないからなんでかなー、とは思ってたのよ! 今すぐに、さっさとやりなさい!」
「は、はい!」
アリーナに怒鳴られて慌ててステイタス画面を開いたアルストは、振り分けられる数値が10も貯まっていた。
すぐにステイタスを割り振ろうと考えたのだが、
今は魔導師に職業を戻しているのだが、ボスモンスターによっては剣術士極に転職することも考えなければならない。
いや、レアクエストでは剣術士極でも苦戦したのだから、魔導師のままで行くべきではない、というのが普通の考えだろう。
「……よし、決めた」
アルストが考えた結果――
──────
アルスト:レベル36
腕力:77(0)
耐久力:73(0)
魔力:75(+20)
俊敏:70(0)
器用:60(+10)
魅了:45(0)
知恵:70(+18)
体力:55(0)
運:20(0)
DP:1
──────
魔導師に寄った振り分けにした。
レベル上げは魔導師も剣術士極も必要なのだが、下層にいる間に初期職のレベル上げを終えておきたかった。
理由は他にもあるが、今回は魔導師のままで行くことにした。
「それでいいのね?」
「はい。何かあれば、自分でなんとかします」
「その意気よ。まあ、私も上級者としてアルスト君を守るから安心して」
「ありがとうございます」
力こぶを作るジェスチャーを見せたアリーナに笑みを浮かべ、二人は大扉を開ける。
「……あ、あれ?」
しかし、そこにはボスモンスターの影も形もない。
顔だけをそろりと覗かせて周囲を見るが、どこにも見当たらなかった。
「アリーナさん、なんだと思いますか?」
アルストの疑問に対して、アリーナは答えることなく真剣な表情のままボスフロアを見つめている。
視線の先をアルストも見てみるが何もなく、さらに困惑するだけだった。
「……とりあえず、入ろうか」
「はい。……あの、大丈夫ですか?」
「……大丈夫に決まってるじゃないのよー。なーに、心配してくれたの?」
先程の表情とは打って変わり快活な表情を見せるアリーナ。
気になることはあったものの、ボスフロアに入ることでクエストが進展するのであれば、まずはそちらを優先すべきかと判断して足を進める。
二人でボスフロアに入るが──特に何かが起こるわけでもない。
「……本当に、いったい何が?」
「……どうやら違ったみたいね」
「えっ?」
「なんでもないわよー。何もないなら、さっさと先に進みましょう」
アリーナは何かを知っている。
そう感じたアルストだったが、話したくないことを追求するのも悪い気がしてそのまま先に進むことにした。
しかし、この選択が最悪の状況を作り出すことになるとは、二人とも思いもしなかった。
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