第86話:レアクエスト①

 前回のレアクエストでは後光神アシュラと戦い、最後に残っていた初心者救済処置を使ってなんとか倒すことができた。

 今回もアシュラと同等、もしくはそれ以上のボスモンスターが現れる可能性が高い。

 気を付けながら通路を進んでいたのだが──


「……何も、出てきませんね」

「……まあ、そんなすぐに出てきたらつまらないわよね」

「……でも、かれこれ三〇分くらいはうろうろしてますよ?」

「……マッピングは?」

「……完全に終わってます」


 アルストの答えを聞いて、アリーナはくるりと振り替える。


「ってことはだ、目的地はやっぱりボスフロアってことだね」

「やっぱりってことは、アリーナさんが受けたレアクエストもボスフロアから先に進めたんですか?」

「アルスト君もなのね。それじゃあ、ほぼ確実かなぁ」


 それならば話は早く、ボスモンスターがレアクエスト専用のモンスターに変わっているのだろう。何とも面白みのないクエストだとアルストは思ったのだが、アリーナの見解は異なっていた。


「それにしても、モンスターが少なかったわね」

「……そういえば、そうですね」

「これはたぶん、ボスフロアに他のモンスターも現れる可能性が高いわよ」

「えっ! ……レアクエストのボスモンスターを相手にしながら、他のモンスターとも戦うんですか?」

「たぶんだよ。そうなると、アルスト君には申し訳ないけどまた私がボスモンスターを相手にすることになるかもだなぁ」

「それは全然構いませんよ。実力的に、俺はサポートに回る方が効率がいいですからね」


 魔導師マジシャンの戦い方を教えてもらっている時に言われたことを思い出していた。ボスフロアではボスモンスターだけではなく、他のモンスターが現れる階層もあると。

 それは上層での話だと思っていたアルストは、レアクエストで同じ体験ができること、そしてその場にアリーナがいてくれることに感謝していた。


「一人でその場に遭遇したら、絶対にDPを喰らいそうですから」

「私も最初はいっちゃったからね。魔導師のアルスト君なら、申し訳ないけどほぼ確実だわね」


 アリーナの言葉にアルストは苦笑する。そこまではっきり言ってもらえると、よりパーティで来れたことに感謝するしかない。


「ボスフロアに他のモンスターが現れる時って、何か決まっていることとかあるんですか?」

「ほとんどがボスモンスターに似たモンスターが現れることが多いわね」

「同じ種族ってことですか?」

「そうそう! スライムのボスがいたら、周囲に色々なスライムが現れるみたいな、そんな感じ」


 アリーナからの助言は今のアルストにとって金言になり得る。頭の中で情報を整理しながら歩いていると、二人はボスフロアの前に到着した。


「ただ、今回はレアクエストだからね。今言ったこととは異なる可能性も大いにある。そこだけは注意することだよ」

「分かりました」


 お互いに顔を見合わせて頷くと、左右の大扉を押し開ける。

 目の前に広がる光景に、アルストは驚いていた。

 ボスフロアには当然ながらボスモンスターがおり、アリーナの見解では他のモンスターが現れるかもしれないと聞いていたのだが、その予想は半分当たりという状況だったのだ。


「……ボスモンスターが、二匹?」


 驚きの正体は、ボスモンスターが二匹存在していたこと。

 並んで立っている人形ひとがたのボスモンスター。

 左には全身緑色の肌で青の甲冑を身に纏い双剣を携えるモンスター。

 右には全身赤色の肌で黄の甲冑を身に纏い長槍を携えるモンスター。

 当初の予定ではアリーナがボスモンスターと対峙し、アルストはサポートに回る予定だったのだが、これではお互いがボスモンスターと対峙することになる。

 そして、ボスモンスターの武器から相手が近接戦闘を得意とするだろうことは明白であり、アリーナならばやり合えるだろうがアルストでは力不足かもしれない。


「アルスト君、どうしよっか」

「……一つ考えがあるんですが、いいですか?」


 アリーナの言葉にはこのまま行くのか、という意味が含まれていた。

 そしてアルストもその意味を理解し、一つの提案を口にする。


「——剣術士極ソードマスターに転職して戦いたいと思います」


 魔導師のレベル上げも大事なのだが、魔導剣術士マジックソードになるには剣術士極のレベル上げも必要なのだ。

 ならば、モンスターに合わせて転職するのもありではないかと考えた。


「よろしい。私が言う前に気づいたみたいね」

「装備は剣術士ソードメイトの物を利用できましたよね?」

「発展職の場合は大丈夫だよ。複合職は専用の武器が必要だけどね」


 武器以外の前衛職、後衛職専用や、全職業装備可能などの装備は問題ないが、武器だけはそうもいかない。複合職の武器は、特別な形状の物が多いのだ。


「私の魔導銃士は良い例かもね。銃士なのに槌を振るうのは変だし、杖を持つのも職業と噛み合わないでしょ? だから、武器だけは専用装備になっちゃうのよね」

「俺の場合はルイドソードがあるから問題ないですけどね……よし、転職と装備の確認も終わりました」


 久しぶりに手にするスレイフニルの感触を確かめながら、アルストは顔を上げてアリーナに告げる。


「よーし、それじゃあ行きますか!」

「はい!」


 気合を入れ直した二人は、意を決してボスフロアへ足を踏み入れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る