第74話:四階層
──現在の階層は四階層。
アルストは
最初その姿を見た時には驚いたものの、元攻略組だと考えれば納得ができる職業だった。
アリーナの職業は複合職である
アリーナ自身のレベルは93もあり、現在34のアルストとは大きな開きがある。
ここまでの戦闘でアリーナは一回も攻撃をしておらず、レベル上げもかねてアルストが一人で戦闘をこなしていた。
「これで、終わりだ!」
『ゲヒアッ!』
フレイムで仕留めたのは、右手に剣を持って近接戦闘を仕掛けてくるリザードマン。
最初は炎木の杖で打ち合っていたものの、地形を利用するというアリーナのアドバイスを思い出し、地面を破壊したり、天井や壁を破壊して瓦礫を落としてみたり、色々なことを試していた。
最終的には壁際に追い詰めて仕留められたが、時間が掛かってしまった。
やりようによってはもっと早く倒すこともできたかもしれないと、アルストはこれからの戦い方についても考えなければならない。
「最初はどうなることかと思ったけど、案外慣れると簡単じゃない?」
「いやいや、頭の中はぐるぐる回ってて精神的に疲れますよ」
「最初にフロアを把握して、その中で何が使えそうか考えるのよ。これはエンカウントする前から考える必要がある。エンカウントしてからじゃ遅いからね」
いつでも戦闘を想定して注意を払えと、アリーナは言っている。
ここはモンスターが闊歩するバベルである。言っていることに間違いはないのだが、常に気を張るのもどうかとアルストは思ってしまう。
「それだと疲れませんか?」
「一回でも頭に入れたら、ずっと覚えていられるじゃないの。通路を曲がれば、そこでまた覚えればいいんだし、思っているよりも簡単だし疲れないわよ」
「……それを真似しろと?」
「えっ、できるでしょ」
「できませんよ!」
早く
魔導銃士がどのような戦闘を繰り広げるのか興味はあったが、たかだか四階層で武器を抜かせてはいけないと言い聞かせる。
アリーナが銃を抜けば、自動修復するとはいえ、フロアのほとんどが破壊されるかもしれない。
抜いてくれるならば、四階層のボスモンスター──いや、レアボスモンスターだった場合のみだろう。
都合よく現れてくれるのかは分からないが、しばらくはレアボスモンスターにもレアクエストにも遭遇していないので、出てきてほしいと願うばかりだ。
「ここが、四階層の大扉よ」
「意外と簡単に着きましたね」
「
「……そうは思いませんけど」
アリーナと比べるのは実力的にも記憶力的にも間違っているのだが、アルスト自身魔導師は通過点であり、さらに先には
というか、魔導師をカンストした後に魔導師極、そして
だが、今は目の前の大扉、その先にいるボスモンスターに集中するべきだと考え意識を切り替える。
この奥にいるのが通常のボスモンスターなのか、レアボスモンスターなのか。
せっかくアリーナと来ているのだから、レアボスモンスターが現れて欲しいと強く願うアルストが大扉を開く。
アリーナなら本来のボスモンスターを知っているはずなので、違うボスモンスターがいればすぐに気づくだろう。
そして、その結果はすぐに訪れた。
「…………おぉ……おおっ! これは見たことのないボスモンスターだわ!」
「ということは?」
「十中八九、レアボスモンスターだわね! 四階層は亀をモチーフにしたモンスターなんだけど、あれは
武神ゴルイドのように腕が多いわけではなく、後光神アシュラのように三面六臂でもなく、鎧を身につけた二本腕。
それでも、身にまとう覇気は見ているだけでもプレッシャーとなって押し寄せてくる。
大当たりだと、アルストは心の中で叫んでいた。
これでお世話になっているアリーナに少しでも恩返しができると踏んでいたのだが──そう簡単ではなかった。
『ギュオオオオオオオオォォォォッ!』
「うわあっ! ちょっと、まだボスフロアに入ってないんだけど!」
「いや、アリーナさん、見てください!」
先ほどまで二人が立っていた場所の風景が変化しており、いつの間にかボスフロアが広がりをみせている。
その結果、大扉の外に立っていた二人は自動的にボスフロアに足を踏み入れたことになってしまった。
「へぇー、こんなこともあるんだね」
「冷静に言っている場合じゃないですよ!」
「……それもそうみたいね。どうやら、私でも苦戦しそうなプレッシャーを感じるわ」
「ア、アリーナさんでもですか?」
レベル93のアリーナからの発言に、アルストはゴクリと唾を飲み込む。
ここは四階層である。本来ならばアリーナのような高レベルプレイヤーがいるのはおかしい階層であり、レアボスモンスターとはいえど四階層に出てくるモンスターであれば苦戦はしないだろうと、アルストは勝手に考えていた。
「……もしかして、私がレアボスモンスターのレベルを引き上げちゃったかも?」
そんな推測を口にした途端、レアボスモンスターの頭上に名前とHPが表示された。
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