第49話:合流と確認

 メールに返信したアルストはそのまま二人と合流した。


「アルストさんはどうしてすぐに連絡してくれないんですか!」


 アレッサから雷を落とされてしまい反省したアルストは、気を取り直してイベントについて確認することにした。


「メールは見ましたか?」

「はい。討伐イベントのようですね」

「だがミニマムキャットなんて見たこともないぞ?」

「俺もありませんよ。イベント専用マップがあるみたいですし、エンカウント率も補正されるみたいですから、案外遭遇するかもしれせんね」


 バベルでミニマムキャットとエンカウントする確率は3%と言われているが、そのエンカウント率がイベント専用マップでは7%に補正される。

 アルストは一日で数匹程度の討伐はできるのではないかと考えていた。


「それでは上位にいけないんじゃないか?」

「いや、このメンバーではいけませんから」

「ですがやるからには上を目指したいです!」

「……アレッサさんまで」


 ここでアルストは討伐イベントの難しさを説明した。

 最初は少し怒ったような表情を浮かべていたが、徐々に上位を目指すことが無謀なことだと理解できたのか落ち込んだ表情に変わっていく。

 最終的には大きな溜息までついてしまった。


「私達はそんなイベントに参加するんですか?」

「結構なハードルの高さだな」

「そうでしょ? なので上位を狙うとかは止めて、純粋にイベントを楽しみましょう」


 楽しみ方は色々あるのだと力説するアルストに、二人は泣く泣く頷いていた。


「だが、どうするのだ? 何時間も掛けて数匹しか討伐できないとなれば、正直時間の無駄になるのではないか?」

「気持ちの持ちようです。俺達は最初から参加賞もあるからっていう軽い気持ちで参加するつもりだったんです。それなら参加することに意義があると思って、俺達だけで楽しめばいいんですよ」

「例えば?」

「そうですねぇ……ミニマムキャット意外にもモンスターで出るみたいですし、レベル上げとエレナさんのゴールドを貯めるのにもいいんじゃないですか?」

「それは素晴らしいな!」

「……エレナちゃん」


 呆れ顔のアレッサだったが、アルストの言葉を聞いて何もミニマムキャットに固執することもないかと気持ちを切り替えた。

 イベントに参加するプレイヤーがそのような気持ちでいいのかと他の参加者は思うかもしれないが、初心者三人で組むパーティではそれも仕方がないのだ。

 イベントがあると毎回同じプレイヤーが上位を独占することが多いのだが、他のプレイヤーも長い期間プレイしている実力者揃いである。

 そんな相手に立ち向かえるほどの実力を持ち合わせているはずがなかった。


「本当に参加賞だけになるかもしれませんけど、得るものは多いと思いますよ」

「そうだな! 特にGが得られれば最高だな!」

「……もう、それでいいわよ」

「あはは」


 とりあえず参加することに決定した三人だったが、イベント開始は一二時からである。

 今の時刻は八時なので後四時間も間が空いてしまうこともあり、一度バベルへ向かい準備運動をすることにした。

 アルストは装備を変更しようかとも考えたが、手に馴染んだアルスター3を変更することを躊躇してそのままの装備である。

 それに五階層までならアルスター3でも問題はないとアリーナから言われている。ここで強い装備をしてしまうと戦闘に面白みが欠けてしまう気がしていた。


「今回もエレナさん中心で戦ってくださいね。というか、もう俺がいなくても余裕ですよね?」

「当然だ! 私のレベルも14まで上がっているからな!」


 エレナ自身の能力に加えてスピルニアの性能も上乗せされている。

 一階層や二階層のモンスター程度ならエレナ一人でも難なく倒すことができるようになっていた。

 アレッサもレベル13に上がっているので魔法の攻撃力もそうだが、魔導師マジシャンのスキルで魔力上昇1を習得している。

 こちらも後衛としてはすでに下層ならば問題なく戦えるレベルになっていた。

 結果、アルストは二人と戦いぶりを見守るだけだった。


「そうだ、ステイタスの振り分けとアイテムの確認がまだだったや」


 アシュラを討伐した時にレベルが上がり、ドロップアイテムを手に入れていたのだが確認を怠っていた。

 ステイタスの振り分けは基本中の基本なので注意しなければならないと自分に言い聞かせながら振り分けていく。


 ──────

 アルスト:レベル18

 腕力:44(+23)

 耐久力:40(+21)

 魔力:32(0)

 俊敏:37(+15)

 器用:27(0)

 魅了:27(0)

 知恵:27(0)

 体力:37(+13)

 運:20(0)

 DP:0

 ──────


 イベント参加に備えて腕力と耐久力に振り分ける。

 そしてアイテムボックスを確認したのだが、今回はめぼしいアイテムはドロップしていなかった。

 とはいえレア度が高いことに変わりはなく、レア度5の後衛職専用装備の脚当【魔法樹の木靴】、レア度5の素材アイテム【エーテリアル】、レア度6の素材アイテム【アシュラの神玉しんぎょく】。

 今のアルストに扱えるアイテムはなかったのでステイタス画面を閉じると視線を二人に戻した。


「……それにしても、普通にプレイできるようになったなぁ」


 出会った頃はどうしたものかと考えた時もあった。

 それが今では普通に肩を並べて戦っている。キングベアーと対峙した時などは頼りになったと今でも思っている。

 イベントが終わるまでの期間限定パーティではあるが、アルストにとってはよい思い出になるかもしれない。


 ──そして時間はやってきた。


『一二時になりました。今週のイベントが開始されます。一二時になりました。今週のイベントが開始されます』


 アーカイブには、イベント開始をアナウンスする電子音が鳴り響いた。

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