第44話:謎のクエスト④
壁の外側から炎の柱を見ているアレッサとエレナは呆然としていた。
ボスフロアの天井にまで届く炎の柱は壁の内側にいるアルストを丸焼きにしているだろう。
あの中にいて生きているとは到底思えなかった。
「……まさか、アルストが、
「……嘘、アルストさん……アルストさん!」
エレナが諦めるように呟きを溢し、アレッサが悲鳴にも似た声で名前を呼ぶ。
レベルが上がっているとはいえアルストと比べればまだまだ低い。
アルストがいない今、アシュラがターゲットを二人に切り替えてしまえばアルストと同じ運命を歩むことになるだろう。
だが、逃げ場はない。
ここが通常のフロアであれば逃げられたのだろうが、一度ボスフロアに足を踏み入れてしまえば決着がつくまでは外に出ることを許されない。
ボスモンスターを倒すか、ボスモンスターに倒されるか。
二人は後者になるだろうと、半ば戦うことを諦めてしまっていた。
ただ呆然と眺めていた炎の柱がその勢いを落としていき、やがて消失して土の壁もボロボロと崩れていく。
そこに佇んでいたのは――アルストだった。
「…………ア、アルスト、さん?」
「…………な、何故、生きているんだ?」
土煙が舞っている中、二人は目を凝らして見てみると、アルストの周囲に何か膜のようなものを見ることができた。
そして響いてきたのは電子音。
『イベントボスモンスター:後光神アシュラ討伐により、ドロップアイテムを獲得しました。アイテムボックスをご確認下さい』
何が起きているのか分かっていない二人のもとにアルストが顔を向けてゆっくりと歩き出す。
見えていた膜はアルストが二人の前に到着した時には無くなっていた。
「二人とも、無事でよかった」
「…………いやいや、お前は何を言っているんだ?」
「そ、そうですよ! いったい何があったんですか? 先ほどの膜みたいなものはいったい?」
「あれですか? あれは救済処置のバリアです。あー、最後の一回を使っちゃいましたね」
アルストは炎の柱が立ち上がった時に間違いなくDPしていた。
だが、その時に救済処置が発動していたのだ。
※※※※
――時間は少しだけ遡る。
土の壁に囲まれたアルストはその時点でDPを覚悟した。
そして救済処置を活かすならここしかないとすぐに頭を切り替える。
「これなら、お前も逃げられないからな!」
アルスター3を大上段に構えて飛び上がるのと同時に炎の柱が立ち上がる。
七割は残っていたアルストの
『初心者救済処置が発動しました。救済処置は以上です。初心者救済処置が発動しました。救済処置は以上です』
そして始まる無敵時間。
『3――2――1――スタートです』
止まっていた時間が動き出し、アルストの体はアシュラめがけて急降下。
赤い光を纏ったアルスター3をアシュラに叩き込み、一撃で五割あったHPを三割まで減少させる。
そのまま密着を維持して連撃を浴びせていくアルストに対して、アシュラは四本の武器を殺到させて叩き潰そうと試みるが、その全てをバリアが弾き返してしまう。
たまらず後退して大盾を前に出そうとしたのだが、自らが作り出した土の壁が邪魔をしてしまい後退できない。
こうなると大盾は無用の長物と成り果て、アシュラは大盾を手放すと素手で殴りかかってきた。
だが変わることのないバリアの壁に阻まれ、HPをどんどんと削り取られて気づけば残り二割。
「これが最後の救済処置なんだ! だから! 絶対に! 倒す!」
斬る、斬る、斬る斬る、斬る斬る斬る斬る斬る斬る!
目を回しそうになるほどの連撃を、呼吸をすることも忘れて浴びせ続ける。
周囲にはいまだ炎の柱が立ち上がったままだ。
このまま倒し切ることができず、その時にもまだ炎の柱が健在であれば、無敵時間の解除と同時に本当のDPになるだろう。
そしてアシュラの矛先は二人に向いてしまう。
これはゲームだ。間違いなくゲームだ。
それでも、だとしても、男が女を守らないわけにはいかないと、コミュ力をほとんど持たないアルストでもそれくらいの気概は持っていた。
『残り三〇秒です』
無敵時間も半分を切り、さらなる連撃ラッシュを見せたアルストは、アシュラのHPを一割まで削ることに成功
「これで、ラストオオオオォォッ!」
『グルギャアアアアアアアアァァッ!』
アルストの咆哮と、アシュラの悲鳴。
炎に包まれた異質な空間において、咆哮も悲鳴も誰の耳にも届かない。
そして、アシュラの悲鳴が死ぬ間際の断末魔に変わったのは無敵時間が残り一五秒になった時だった。
光の粒子に変わったアシュラは炎の柱に飲み込まれていき天井へと消えていく。
炎の勢いが落ちていき、土の壁が崩れていく。
『おめでとうございます。アルスト様のレベルが18に上がりました』
『おめでとうございます。
『レアクエストボスモンスター:後光神アシュラ討伐により、ドロップアイテムを獲得しました。MVP賞を獲得しました。ラストアタック賞を獲得しました。アイテムボックスをご確認下さい』
二人の無事を確認できたのは電子音を聞いた後だった。
※※※※
炎の中での出来事の説明が終わるとアレッサとエレナは口を開けたまま固まっていた。
すぐに思考を切り替えられたことにも驚いていたが、あの炎の中でアシュラに逃げ場がないと思える発想力に一番驚かされていた。
自分が逆の立場ならどうしただろうか。どのようにして脱出するかを考えたのではないだろうか。
そんなことばかりが頭の中に浮かんでしまう。
「とりあえず、二人も無事でよかったです。これで心置きなく秘境への入口を探せますね」
「……な、納得していいのか?」
「……どうなんだろうね」
「いいんですよ。それよりも入口を探しましょう」
いまだに困惑している二人を差し置いてアルストはボスフロアの壁際に移動して手を付きながら移動を開始する。
アレッサとエレナも仕方がないと壁際に移動してアルストとは逆方向に歩き出す。
――程なくして、秘境への入口は見つかった。
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