第111話 Alice in wonderland 26:はじまり


「ん……うぅん……」


 寝返りを打つ。


 その時には、意識はある程度覚醒していた。


 でも私は寝起きが悪い。いつもは惰眠を貪ろうともう少し粘る。


 休日ということもあって、昼ぐらいまで寝ても誰も文句をいうことはない。そう。サリアを除いては。


 彼女はいつも、平日であっても、休日であっても同じ時刻に起こしてくる。


 その習慣に変化はない。私がサリアにお世話になるようになってから、それは毎日継続されている。


「うぅん……って、あれ?」


 ふと、壁にかけてる時計を見る。


 現在の時刻は九時過ぎだった。


 おかしい。サリアは絶対に、朝七時きっかりに起こしに来るはずだ。声をかけても起きない場合は、布団を奪うという暴虐も辞さない。


 そんなサリアとの戦いが、私の一日の始まり。


 だというのに……サリアは初めて、来なかった。


「……どうしたんだろ」


 そのあまりの違和感に、目が覚めてしまう。


「サリアー? サリアー!」


 王城の中を歩き回る。


 おかしい。いつもは人がたくさんいるのに、今日は誰もいない。


「なんで……? なんで誰もいないの?」


 呆然とする。


 いつもは人で溢れている王城だというのに、今は誰もいない。


 完全に閑散としている。


 その後、私は王城内を走り続けた。誰かいないかと思いながら、人の気配を探す。


 でもどれだけ人を探しても、見つかることはなかった。


「サリア? サリア!」


 懸命に探す。


 サリア。


 早く彼女に会いたかった。


 いつものように小言でも漏らしながら、朝の時間を過ごしたかった。


 でも、どこまで探してもこの王城は閑散としていた。


 まるでこの場所だけ、世界から切り離されたようなそんな感じだった。


「外に出れば……」


 ボソリと呟く。


 そうだ。


 外に出ればきっと大丈夫だ。


 誰かに話を聞けばいいと。そう思って私は王城から外に出て行こうとするが……。


「結界?」


 そう。そこに張られていたのは、結界だった。


 実際に見たことはないが、それは間違いなく結界の類。先生の授業で、聞いたことはあるものだ。


 ということはつまり、私はこの王城から出ることはできない?


「……どうして、どうしてこんなことに?」


 そう言葉にしても、誰もその問いに答えてくれることはない。


 ただ一人。


 孤独に王城に閉じ込められてしまったのが、今の私だった。


「そうだ……地下に行けば」


 確か、この王城には非常用の出口として地下空間があったはずだ。記憶ははっきりとしていないが、今はそこに行ってみるしかない。


 ということで私はその場から駆け出そうとするが……目の前に現れたのは、彼だった。


「やぁ。アリス。どうしたんだい? そんなに急いで」

「オスカーお兄様?」


 本来ならば、ここで人に出会えたことに喜ぶべきだろう。


 しかし私は、近寄ることはなかった。


 それはオスカーお兄様の雰囲気があまりにも異質なものだと感じ取ったからだ。


「アリス。君には行ってもらう場所がある」


 私はそうして、彼と対峙することになるのだった。

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