第91話 Alice in wonderland 5:恋と愛
「ねぇサリア」
「何でしょうか。アリス様」
「私って、彼のこと……好きなのかしら?」
「今更ですか?」
「え? 今更ってどういうこと?」
「エルウィード・ウィリスのことを語るアリス様をみて、私はてっきりもう自覚しているものだと」
「え……私って、そんなに分かりやすい?」
「はい。とても」
「そう……そうなのね」
自室でアフタヌーンティーを取っている最中、私はメイドのサリアにそんなことを聞いてみることにしたが……まさかの回答が返ってきて少し驚いている。
私は確かに興味があった。
史上最高の天才錬金術師であるというのに、その専攻分野は農業系だという。そんな話を聞けば誰もが首をかしげるし、不思議に思うだろう。だからこそ、私はそんな彼の人となりを知ってみたかった。
そう思っての行動だったのだが、最近は妙に彼のことが気になって仕方がなかった。
農作業中に捲っている腕に見える血管、それに鎖骨、滴る汗。それらが妙に魅力的に見えてしまうのだ。それに話し方や、時折笑う姿、それらをみても私は自分の心臓がドクンと跳ね上がるのを感じていた。
これはもしかしたら、もしかするのか?
私、アリス・カノヴァリアはエルウィード・ウィリスのことが好きなのだろうか?
そんな疑問が湧いて出てきたため、サリアに聞いてみることにしたのだが……まさかそんなにあっさりと返答が帰ってくるなんて……。
「その参考にだけど……」
「はい」
「どうしたらいいと思う?」
「そうですね……アリス様は仮にも王女です」
「いや別に仮じゃないけどね……」
「殿方から告白させるのがよろしいのではないかと」
「そう思う?」
「まぁアリス様に告白する勇気があるのなら、話は別ですが……やはり外聞などもありますので。でもこれはいいことかもしれません」
「どういうこと?」
「アリス様の相手でしたら、必ず高位の錬金術師、または貴族と限られる話でしたが……彼ならば釣り合うも取れるというものです。なんせ、王国始まって以来二人目の
「そう……そうよね! 釣り合いは取れるわよね!?」
「えぇ。もちろん」
「ふふ……ふふふ……」
その話を聞いて、私は浮かれた。
そうだ。私と彼は釣り合いが取れる。
間違いなく、いいカップルになれるだろう。
そんな妄想を始めると、もう止まらなくなっていた。先ほどの疑問は何処へやら、私は完全に恋に落ちていた。
「では早速、作戦会議よ!」
「……だる」
「何か言った、サリア?」
「いえ何も。そうですね。作戦は大事です」
「よし。やるぞー!」
「おー!」
ということで、私はこの日を境にエルにアプローチをかけることにしたのです。
◇
「む!? 誰だ!!?」
「えっとその……アリスですけど……」
「アリスか。ならいいんだ……」
街中で彼を偶然。そう、偶然。偶然にも見つけたので話しかけることにした。と言っても今日はなぜかローブを羽織って、それに付いているフードで顔も見えないようにしている。
一体どうしたのだろうと一瞬思うも、あぁ……と私は納得した。
「マスコミですか?」
「そうだ。奴らはハイエナだ。俺の家、それに俺の研究室はすでにマークされている……くそ、汚いやつらだッ!」
「しばらくすれば、ほとぼりも覚めるでしょうけど……そうですよね。まだ一週間も経っていないのですから」
「くそ……なんだってこんな目に……」
「史上二人目の
「そういうものか?」
「えぇ。もしかして、
「不満か? ある。大いにある。それはこうして自由に身動きが取れないことだ。別に俺は錬金術師としての格を上げたいわけじゃない。あくまでこれは手段であり、目的ではないのだからな」
「ふふ……」
「どうした、アリス?」
「いえ貴方らしいと思いまして」
「そうか?」
「えぇ。とっても」
と、ここでずっと話しているわけにもいかない。
私はある提案をしてみることにした。
「私の部屋に来ますか?」
「む? どういうことだ?」
「私の部屋でしたら、しばらくいてもらっても構いません。隠れるなりお好きにしていただいても」
「しかしアリスは王族。王城に向かうということだろう? 奴らのテリトリーはそこまで伸びているのかもしれん」
「大丈夫です。私が出るときはいませんでしたので」
「そうか。ならしばらく世話になるか……よろしく頼む」
「いえいえ。困ったときはお互い様ですよ?」
にこりと微笑むも、私は後ろに回した手でガッツポーズを取っていた。まさか図らずとも、自室に招くことができてよかった。もちろん部屋の掃除はすでに完了している。いついかなる時も準備には余念が無い。
それがこの私、アリス・カノヴァリアなのだから。
「では行きましょうか」
「あぁ」
そうして怪しい二人が街の中を進んで行く。かたやローブを羽織り、そのフードで顔を完全に隠している男性。かたや、サングラスに麦わら帽子の女性。
私はこんな変な感じでも嬉しかった。
ただ彼と言葉を交わせるだけで満たされている気がしてた。
このときは何も怖いものはない。
──そう思っていた。
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