第58話 いざ、第五迷宮へ……?



「ふむ。とりあえず、現状としては我の力が入るのじゃな?」

「あぁ。また頼む、マリー」


 レイフのやつが頭を下げるので、俺とフィーも頭を下げる。すると、マリーはにっこりと微笑む。


「ははははははは! 我の力が必要だと?」

「もちろん」

「マリーちゃんの力が入ると?」

「もちろん」

「良い! 良いぞ! よし、良かろう! 再び迷宮攻略の助けをしようではないか!!」

「……助かる、マリー」


 レイフがマリーを操作しているようにも思えるが、まぁ……言わぬが花ってやつだろう。


「それで、また転移で戻れるのか?」


 俺はここにやってきた手段で戻れるのか聞いてみた。もちろん、戻れるだろうと予測しての質問だ。でも返ってきた返答は考えるうる中でも最悪のものだった。


「んや? あれは一方通行じゃ」

「「「は?」」」


 三人の声が重なる。つまりは……俺たちはこの極東の森から普通の方法で戻る必要があるのか? 俺の転移も使えるが……四人まとめては辛い。これはもしかして……やばくね?


「旅は道連れ、世は情け。四人で旅するのも良かろうて! ガハハハ!!」

「「「……」」」


 俺、レイフ、フィーは黙って下を見る。そうだ。マリーはこういうやつなのだ。それをしっかりと把握しておく必要があった。そう、これは当たり前のことで……仕方ないことなのだ。


「まぁ仕方ないな。歩いて南に下って、どこから船で海を渡ろう」


 俺がそう提案すると、皆が頷いてくれる。


「ガハハ! 四人で旅とは、心が躍るというもんじゃ!!」


 マリーだけは妙に楽しそうにしていたが、俺たち三人は嫌予感がして仕方がなかった。そんな表情をして、それぞれ目を合わせるのだった。



 ◇



「いや〜、空気がうまい! 久しぶりの冒険じゃのぉ〜」

「第三迷宮の時はどうだったんだ?」



 今は俺とマリーが後方に位置していて、レイフとフィーは前を歩いている。なんとなくこうなった構図だが、マリーと話をするのは嫌ではないのでちょうどいい機会だ。


「あの時は楽しむ暇がなかったからの。ただ淡々とこなすという感じじゃった。でも今は違う。初めから楽しむと決めてきているから、楽しみじゃ! がはははははは!!」

「そ、そうか」

「で、お前はどう考えておる?」

「迷宮のことか?」

「うむ。迷宮はロストテクノロジーの一種。それは間違いない。でも、なぜ迷宮は作られたのか? それも間違いなく人為的なもんじゃ。エルの意見が聞いてみたいの」

「……魔法と関連した何か。制御装置か、それとも迷宮は何かから逃れるシェルター? でもキメラのことも考えると、まだ謎は多いな」

「人間と蜘蛛のキメラ……か。なんとも全く、恐ろしいものを作るもんじゃ」

「理論としては可能な技術だ。だが、錬金術ではまだ実現はできない。人の遺伝子配列と蜘蛛のものを掛け合わせるには越えるべき要素が多すぎる。キメラの話になると、マクスウェルの悪魔を越える必要もあるからな」

「ふむ。確かにそうじゃの。錬金術ではまだ出来ない。でも魔法なら……できるのかもしれないと思うんじゃ」

「マリーもまだ魔法の概要は掴めていないのか?」

「まだまだ分からないの。魔法が第零質料アカシックマテリアを介しているのは間違いないが……我でも理解が及ばない」

「……魔法か。なぜ、錬金術と魔法なんかあるのか……」



 そう話していると、マリーのやつは笑いながら走り去っていく。



「がははははははは!! エルよ、お前も真理探究のために身を捧げるがいい!! がはははは!!」



 マリーはそのまま森の中を駆け出すと、レイフのやつが焦ってその後を追いかける。それを見てフィーのやつが俺の方に下がってくる。



「エル、大丈夫?」

「何がだ?」

「ここまで来て疲れてない? それにあの事もまだ、そんなに時間が経っていないし……」

「……まだ心に残っているものはある。割り切れていない事もある。それでも、前に進むと決めたんだ」

「そう……」



 森の中を二人で進んでいく。幸い、マリーとレイフの位置は把握できているのでそんなに焦る必要はない。フィーとこうしてゆっくり話のもいいタイミングだ。


「フィーはいいのか。こんなところまで来て」

「それを今言うの? もう覚悟してるわよ。それにエルの無茶に付き合うのは慣れているしね」

「フィーと出会ってもう数年が経つな。初めの頃は苦労をかけたな」

「そうよ! 私がどれだけ大変だったかわかる!!? でもまぁ……あれもいい経験だったわよ」

「そうか?」

「……まぁね。それに迷宮攻略なんて、名誉な事じゃない」

「名誉か……」

「エルはそう言うの気にしてないみたいだけど……」

「俺はなんとなく流れでここに来てるだけだしな」

「流れ……ね。私もそんな感じだし、人のことは言えないけど……でも、誰かのためにはなっているわよ」

「そうだといいな」


 空を見ると、そこにはどこまでも透き通る青空が広がっていた。この森を抜ければ、南の街に着く。そこから船に乗って、西の大陸に戻り第五迷宮に戻る。流れは分かっている。俺たち四人がいればなんとかなる。でも、俺たちは迷宮を攻略した先に何を見るのだろうか。あの迷宮のように、また何かおぞましいものが待っているかもしれない。


 それでも俺は進むしかなかった。もう、戻ることはできないのだ。


 

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