4-23 ラビューの正体

「違う!私は、あんたたちの仲間なんかじゃない!」


 ラビューは、即、紅葉の言葉を否定した。


「そうか。だが、わらわたちの仕事を手伝っていたことは否定できないだろ?」


 紅葉は、そう言った。


「どう言うことだよ、ラビュー?」


 俺は尋ねる。

 答えたのは、紅葉だった。


「そなたらが、ラビューの前職がなんだったと聞いているのかは知らない。だがな、ラビューの仕事は、そんなに真っ当なものじゃないぞ。ラビューは、仕事を紹介する仲介業者に雇われていた。その仲介業者が、斡旋するのは合法の仕事だけじゃない。違法な仕事も含まれている。わらわたちも、その業者のお得意様でな。何度も仕事を依頼して、ラビューが派遣されてきたよ。特技の耳を生かして、敵対組織の諜報活動から、闇取引をする際の見張りとか、様々な場面で活躍してくれたのじゃ。今回、このものたちをゲームの場に連れてきたのも、あれじゃろ?仕事は依頼してないが、お得様へのご奉仕ってところだろう」


 紅葉は、衝撃的な事実を暴露した。

 カラーギャングたちと、ラビューには繋がりがあった、と。


「違う!違う!違うっ!全然、違う!確かに、私は…、紅葉たちの依頼を受けていたけど、まさか店に来ていたカラーギャングたちが、紅葉の組織のメンバーだって知らなかったんだよ。仕事をする際は、依頼主の情報は隠されていたから。…まともな仕事じゃないもん。そういう仕事をしてたのだって、全部弟の治療費と薬代のため!普通の仕事じゃお金が足りなかったから…。私がそのことを知ったのは、さっき。紅葉たちが姿を現したとき。私は、こいつらの仲間じゃないし、カラーギャングのメンバーでもない!キンたちのことを嵌めようとなんてしてないよ。……信じて」


 ラビューは、瞳に涙を浮かべながら訴えてきた。

 ラビューが非合法な仕事を受けていたこと、それはラビューの否定をしなかった。

 紅葉たちからの依頼を受けたことを。

 ラビューの耳は、仕事においてきっと大活躍したことだろう。


「大丈夫だラビュー。心配するな。…俺は、お前のことを信じるよ」


 俺は、ラビューの肩の上に手を添えながらそう言った。


「なあ、紅葉。もしも、お前が今、言ったことが真実だとしたなら、どうしてお前たちは、ラビューの弟を人質にとるような真似をしたんだ?そんな必要は一切ないじゃないか。敵の大切な人を捕らえることはあっても、味方の大切な人に手を出す馬鹿はいない。…お前らとラビューは、仲間じゃないよ。ただの過去の仕事の関係者に過ぎない。だから、お前らは、ラビューの弟の存在を知っていて人質にしたんだ。ラビューは弟を見捨てないと確信してたから。くだらない揺さぶりはやめとけよ。時間の無駄だぜ」


 俺は、紅葉たちに向かってそう言う。


「クククク。そうかい、そうかい。これで少しでも疑心暗鬼になってくれたら、ゲームが有利に進められると思ったんじゃが…、ダメじゃったか。随分と固い絆で結ばれているようじゃな」


 紅葉は、ヘラヘラと笑いながらそう言ってきた。


「うむ。泣ける話でござるな」

「紅葉の目論見は見事に失敗でござる」


 狐左と狐右は、そんなチャチャを入れてくる。


「キン…、ありがとう」


 ラビューは、半泣きでそう言ってきた。


「気にすんな」


 俺はラビューの目を見ながら、そう伝える。


「そうじゃ、そうじゃ、言い忘れていたが。そなたらには、600万Dドリームを賭けてもらうのだが、わらわたちは、1Dドリームも金を賭けないぞ。そなたらの大切な人の、さらに大切な人を預かっているんだ。それでも問題なかろうよ」

「は?何、言ってんのよ!あんたたちもお金を賭けなさいよ」


 ジェスターが、怒った口調でそう言った。


「いや…、ジェスター、待ってくれ。紅葉、条件はそれでいいよ。ただし、俺たちが勝利したとしたら、カラーギャングのメンバーは全員、ピエロ&ドラゴンに金輪際関わらないことを誓ってくれ」


 俺は、アンフェアな条件を受け入れることを伝えた。


「キン?」


 ジェスターが、俺が敵の条件を受け入れたことに対して、相当驚いていることが伝わってきた。

 ジェスターの知っている俺から、想像して、かなり意外だったんだろう。

 でも、それで良いんだ。

 ”仲間”のためだ。

 これくらいのリスクは負ってもいい。


「ジェスター。必死になって稼いだ金の大切さはわかっている。大丈夫だ。俺たちは負けない。ちゃんとその金は全部、店に持ち帰るさ。安心して勝負のテーブルに乗せてくれ」


 俺は、ジェスターを説得した。

 ジェスターは、完全には納得していなさそうではあるものの、コクリと頷き、俺の提案を了承してくれた。

 信頼の証、と素直に受け取っていいただろう。


 これで、お互いが賭けるものは定まった。


 ピエロ&ドラゴンチームは「600万Dドリーム」を、カラーギャングチームは「金輪際、俺たちに関わらないこと」を、だ。

 人質は、勝敗に関係なく解放される約束となっている。


 勝負は「3対3」のチーム戦。


 この人数がどう生かされるのかは、ゲームの内容次第である。

 ゲームはすでに、紅葉たちが用意しいるだろう。

 俺たちは、そのルールを聞いて、勝負を受けるだけだった。


「では、今から行うゲームのルール説明を行うが良いか?」

「ああ、さっさとやりな。お前らみたいなクソ野郎たちをぶっ飛ばせると思うとワクワクするぜ」


「ふん、今のうちに好きなだけ吠えるが良い。これから行うゲームの名前は…、”勝利の風船ビクトリー・バルーン”じゃ。仲間同士の絆が強い、そなたらにはちょうどいいギャンブルじゃな」


 紅葉は、ゲームの名前を告げてきた。

 そのまま、ゲームのルール説明を開始する。


「”勝利の風船ビクトリー・バルーン”は、3ターン制のゲームじゃ。3人のチームメイトが、それぞれ、1人1ターンずつ担当する。1対1で戦うんじゃ。それぞれが「先鋒」「中堅」「大将」となる。さて、肝心な戦い方なのじゃが…、こっちに来な」


 そう言うと紅葉は、俺たちに背を向けて歩いていく。狐左と狐右もそれに従う。俺たちも、数メートルほどの距離を取り、その背中を追いかけた。

 しばらく歩くと、ぽっかりと穴が空いた地面が見えた。

 人工的に作られた穴だとすぐにわかる。

 何故ならば、その穴は、綺麗な長方形をしていたから。

 正方形に近いけど、長方形。

 大きさは、サッカーコートの半分ほど。

 深さは、3階建ての建物がすっぽりと収まりそうで、10m弱くらい。

 穴には地面と底をつなぐ梯子が付いていて、底まで降りれるようになっている。


 そして、ここからは、おそらくはゲームに使うであろう道具の話。

 フィールドには、ゲームすぐにプレイできる準備がされていた。


 3個の的の絵が描かれた巨大な風船が、両サイドに浮いている。

 直径1m。

 3×2で、計6個。

 地面からの高さは、2mとちょっとほど。

 俺よりも背が低いジェスターたちでも、ジャンプすれば手が届きそうなくらいの高さだ。

 後は、地面にバレーボールほどの大きさの球が、数十個散らばっていた。

 球は、ランダムにばら撒かれているように見える。


「ゲームは、このフィールドで行う。お互いのプレイヤーは、自分に与えられた3つの風船を守りつつ、相手の3つの風船を割りにかかる。制限時間はなし。先に3つ割ったほうが勝利となる。武器、道具、魔法の使用も自由じゃ。ただし、それぞれの風船には、違った特徴がある。1つ目は、地面に転がっているボールをぶつけることでしか割れない風船。この風船には、どんなに鋭利な刃物で衝撃を与えようとも、絶対に割れない魔法がかかっている。ただし、ボールさえぶつければ、ちょんと触れるだけですぐに割れる。2つ目は、先ほどの風船とは逆に、ボールでは絶対に割れない風船じゃ。こちらは、ボール以外のもので衝撃を与えると割れる。人間が素手で触るだけでも十分。普通に世の中にある風船よりも、かなり強度が弱い。最後に3つ目、ボールと通常の接触、どちらでも割れる風船じゃ。この風船は、普通のものよりもちょっとだけ硬い。ただ、思いっきり衝撃を与えれば、人間の素手であっても割れないほどじゃない。トマトくらいのもんじゃ。以上の3つの風船を、対戦相手には見えないように、ゲーム開始前に、フィールドの好きな場所に配置する。後は、ゲームを開始して、どんな手段でもいいから、相手の風船を全部割れば勝利になるのじゃ」


 『ボールでしか割れない風船』『ボール以外で割れる風船』『何でも割れる風船』の3つを「1対1」で割り合うゲームってことか。

 武器、道具、魔法の使用は、全て無制限に許されている。


「ゲーム中に、他のプレイヤーが外部から攻撃を加えるのは禁止だよな?」

「もちろんじゃ。そのような行為をした時点で、そのチームは負けとなる。後は、フィールド外にある道具を使うのも禁止じゃ。使いたい道具は、ゲーム開始前に、フィールド内に持ち込んでおく必要があるのじゃ」


 純粋に「1対1」で戦うことができる、と。

 外部からの干渉は受けない。


「そして、ここからが重要。”勝利の風船ビクトリー・バルーン”の勝敗条件についての話じゃ。このゲームでは、全3ターンで、2。両チームは、ゲーム中にFPフレンドポイントを賭けて戦う。3ターン終わった時点で、このFPが多かったチームの勝利となる。まずは、ゲーム開始時、両チームは1,000FPを所持している。そして、風船3つを先に割ったチームは、ボーナスFPを手にすることができる。手に入るボーナスFPは、「先鋒」「中堅」「大将」戦で、それぞれ違う。「先鋒」200FP、「中堅」400FP、「大将」800FP、といった具合じゃ。さらに、FPを手にするチャンスがある。それは、各ターンごとに、どちらのチームが勝利するのかに、FPを賭けることができるんじゃ。賭けられる最大FPは、「先鋒」「中堅」戦で500FPまで、「大将」戦で1,000FPまでじゃ。マイナスになるようにFPを賭けることはできない。各ターンで必ず、賭けられる最大FPの半分以上は賭けなくてはいけない。「先鋒」「中堅」戦で最低250FP、「大将」戦で500FPじゃ。以上の2つの方法でFPを増やしていくんじゃ。要は、1勝2敗だとしても、FPさえ多ければ勝利となる。FPの賭け方次第で、それは可能じゃ」


 ゲーム全体を通じて、できる限り多くのFPを手にする必要がある、と。


 例えば、先鋒の1ターン目で、自分たちのチームの勝利に「500FP」賭けたとする。ゲームは無事勝利した。

 すると、賭けた分の「500FP」と先鋒で勝利した分の「200FP」、計「700FP」が手に入る。

 最初から持っている「1,000FP」と追加して、「1,700FP」になるってことか。

 逆に、「500FP」賭けて負けてしまうと。

 「1,000−500=500」で、所持するFPが、「500FP」となってしまうのか。


 どのターンにどれだけのFPを賭けるのかは、最低ラインから最大値まで、自由に決定することができる。

 自信があるターンには多くのFPを、逆に自信がないターンには少ないFPを賭けていく。


 風船の割り合う対決で勝利することはもちろん、FPのマネジメントも、ゲーム全体で勝利するために重要な要素となってくる。


 紅葉は、名刺サイズのプレートを取り出した。


「どのチームの勝利に何FP賭けるのかは、このプレートに記入して、伏せて置いておく。そして、各ターン終了時にオープンする。相手がそのターン、どちらの戦いに何FP賭けているのかは、ターン終了時まで不明となる。プレートには、賭けるチームとFPを念じると、その情報が浮かび上がる仕組みになっているのじゃ。一度書き込んでしまうと、二度と書き換えることはできないから注意してくれ」


 そう言うと、紅葉の横にいた狐左は、「先鋒」「中堅」「大将」と書かれたプレートを3枚渡してきた。


 これで、ゲームの全容が把握することができた。

 ”勝利の風船ビクトリー・バルーン”は、頭脳と肉体、両方が必要なゲームであった。


「ルール説明は以上じゃ。何か質問は?」

「…いや、ねえよ」


 俺は、紅葉に対してそう言った。


「よかろう。それでは、”勝利の風船ビクトリー・バルーン”を開始する!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る