本当の敵
4-22 戦う理由
『果たし状
わらわたちの部下たちが世話になった。
このままでは、引くに引けぬ。
そこで、わらわたち3人で勝負を挑みたいと思う。
決闘の勝敗はゲームで決める。
そのほうが、そちらにも都合がよかろう。
代表者3人を選び、その3人のみで第6区の「不忍競技場」まで来られよ。
賭け金は、600万
現金で持参せよ。
時間は、1時間後。
勝負を受ければ、人質の命は保証する。
以上。
手紙から、何かが落ちてきた。
白い毛の束。
「ラビュレン!」
ラビューが、そう叫んだ。
ラビュレン。毛の色は、獣人、ラビューのものと同じ。
そうか。
最初に手紙を読んだときは、「人質」とは誰のことかわからなかった。
人質としての価値ある者に、心当たりがなかったからだ。
しかし、ラビューが名前を叫んだことにより、点と点が繋がった。
ラビュレン。
ラビューの弟だ。
敵は、病気がちなラビューの実弟を拉致して脅迫してきた。
彼ら3人は、どうして、カラーギャングの集団と共に、襲いかかって来なかったのか。最初は戦うつもりだったのかもしれない。
しかし、戦闘の様子を観察して、単純な殴り合いでは分が悪いと判断したんだろう。
こちらの戦闘力の高さを目の当たりにした。
人質がいたとしても不利、と思ったんだ。
そこで、ゲームへと勝負の内容を切り替える。
ゲームなら勝てるかもとでも思っているのか?
人質が有効活用できる、と。
果たし状に書かれている「部下」、という単語にも引っ掛かりを覚える。
俺たちは、ブリュードがリーダーだと勘違いをしていたんだ。
彼の立ち振る舞いはリーダーっぽかったけど、所詮は使いっ走りで、小さなチームのまとめ役に過ぎなかったのか。
確かに、リーダーだとは誰も言っていなかった気がする。
カラーギャングの本当のリーダーは別にいた。そして、そいつらは姿を現したんだ。
おいおい、お前ら。部下から、きちんと報告受けてねえのかよ。
お前らは、一回ゲームでも完敗してるじゃねえか。
100万
それでも、まだ勝負しようってんのか?
あろうことか、ゲームで。
……いいさ。そっちが、やりてえって言うなら、付き合ってやるよ。
たっぷりと後悔のフルコースを満喫させてやる。
「キン?」
ジェスターが、心配そうに声を掛けてくる。
俺は、激情に身を任せて、手紙をクシャクシャにしてしまう。
揺さぶられた感情を抑えきれない。
「私、行かなきゃ…」
ラビューが、焦ったような表情でそう言った。
「そうだな。だが3人でだ。向こうの条件はそれだろう」
「キン殿、ゲームを受けるのか?我らが行って、戦闘に持ち込んでしまってもいい気もするが…」
「いや。ゲームしたいって言うならしてやろうぜ。それでも結果は変わんねえさ」
「また、卑怯なイカサマをしてくるかもしれないぞ」
「…それでも、だ」
俺は、心配するロンロンにそう伝える。
「私も行くわ」
ジェスターが名乗りをあげた。
「…どんな、ゲームを仕掛けてくるのかわからないぞ」
「何、心配してくれるの?それに、店のお金を賭けるっていうんでしょ?この前、奪った100万
ジェスターは、そう言った。
これで、3人のメンバーは決まった。
ラビュー、ジェスター、俺だ。
この3人で、カラーギャングたちが仕掛けてくるゲームに挑む。
「私たちは、敵から見えないところで待機しているね。何かあったら、大声で合図でもしてよ」
「いや…、やめておこう。敵がもしも、ラビューの『千里耳』のような探知魔法を使えたとしたら、バレちまう。3人は、店で待機していてくれ。もしも、俺たちが朝まで帰って来なかったなら…、探してくれると助かる」
「……わかった」
リンリンは、しぶしぶ、といった様子で、それを了承してくれた。
ジェスターは店の中に戻り、金の用意をしてくれた。
俺たちは、外で待機して、それを待つ。
ジェスターが戻ってきたところで、声を掛ける。
「行こう。場所はわかるか?」
「ええ。ここから30分ほど歩けば到着するわ」
「二度負けても、三度目の戦いをまだ挑んでくる。その根性だけは大したもんだ。だがな、二回連続で負けるってことは、それなりの理由があるはずなんだよ。その理由を、四度目は絶対に挑んで来れないようにするために、たっぷりと体全身に叩き込んでやるさ」
俺は、そう言い残して、決戦の場に向かっていった。
********
不忍競技場。
木々に囲まれた公園のようにも見える空間。
月光に照らされたその土地は、人ならざるものの住処かと思うような不気味なオーラを放っていた。
昼間に賑わいを見せる場所も、暗く、誰もいなくなったときには、隠された恐ろしい表情を見せることがある。
不忍競技場は、まさにそんな空間であった。
死体の一つや、二つ、転がっていても不思議ではない。
俺は、不忍競技場まで歩いてきた時間の中で、いろんなことを考えさせられた。
ラビューのこと、カラーギャングのこと、この場に来ることになったあらゆる原因を。
その中で、俺は一つの”仮説”にたどり着いていたのだが、今はそのことはどうでもよかった。
そんなことよりも、これから目の前で起こるであろう事象に対して集中せねばならないのだ。
仮説はのちの検証すれば良い。
俺たちは、約束の時間よりも多少早く到着してしまったのだが、紅葉、狐左、狐右の3人は、すでにその場に待機をしていた。
ピエロ&ドラゴンから、まっすぐここに向かってきたのだろうか。
彼らが用意した土地。
何か罠でも飛び出してくることも警戒しているのだが…、今の所、その兆候は見られない。
「弟は、どこっ!」
最初に声をあげたのは、ラビューであった。
行き路では冷静さを保っていたラビューだったが、いざ目の前に憎き犯人を目撃した状態では、感情を制御することができなくなっていた。
「安心しろ。わらわが手紙に書いた通りじゃ。勝負さえ受ければ、人質は何事もなく解放される。そういう手筈になっている」
人間の女、紅葉はそう伝えてきた。
人質がこの場にいる展開も想定していたのだが、そうはならなかった。ロンロンたちを率いて、力づくでの強奪を選択しなくてよかったと思う。
「この場に来たということは、600万
「ああ、それでいい。だが、その前に、お前らの身分と立場を明らかにしな」
3人の名前は知っている。しかし、それ以上の知識がない。
「そうじゃな。わらわの名は、紅葉。先ほど貴様らと戦った、カラーギャングチームのリーダーをしているものじゃ」
「拙者の名は、狐左。チームの副リーダーをしてるでござる」
「拙者が、狐右。同じく、チームの副リーダーでござるよ」
3人はそう自己紹介をした。今度こそ、チームを率いているリーダーたちとご対面できたというわけだ。
狐左、狐右は、人間よりも獣に近い、歩きしゃべる狐、といった外見の獣人である。
両方とも狐なのだが、狐左は白い毛を、狐右は茶色い毛をしているという別々の特徴があった。
「わらわの知らないうちに、ブリュードの奴が勝手に暴走をしてな。わらわの命令は、金を奪って、組織の傘下にカジノでも入れろ、というところまでだったんじゃが。気づいたら、チーム全員を勝手に連れ出して、あのザマじゃ。本当にどうしようもない奴らじゃな」
紅葉は、迷惑そうにそう言った。
迷惑をかけられたのはこっちだ。部下の統率が全くとれていない組織は、リーダーが悪いに決まっている。
それに、最初の命令を下したのは、紅葉であった。
悪の元凶は、間違いなく目の前にいるこいつだ。
「金は用意したでござるか?」
狐左が、尋ねてきた。
「ええ。ここに」
ジェスターは、金の入った袋を見せる。
「いやあ。それにしてもお手柄じゃったな。ラビューよ。ちゃんとこいつらを連れて来たじゃないか?」
「はあ?」
今、なんて言った。
紅葉は、衝撃的な事実を明かしてきた。
「まあ、そうだろうな。聞いてないよな。ラビューが自らの口から、それを言うはずがない。ラビューは、わらわのカラーギャングの構成員じゃ」
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