1-39話 新しい歴史へ

     ◆


 自由軍への評価がはっきりする前に、ケルシャーは自由軍を離れることに決めた。

 すでにクリスは惑星ワリオンに戻っているし、ジゼルもケルシャーの小型宇宙母艦に戻っている。

 ケルシャーを見送りに来たのは、ボビーとダイダラだけだった。それくらい密かに、ケルシャーは逃げるように自由軍を出ることにしたのだった。

「また一緒に仕事ができることを祈っています」

 ボビーは握手をしてそういうと、笑みを見せた。

 ここ三日ほど、ケルシャーはボビー本人と三次元チェスを何局も指して、一度も勝てなかったが、天才の手ほどきに満足していた。

 入れ替わるようにダイダラがケルシャーの前に立った。

「俺もすぐに宇宙海賊に戻るから、どこかですれ違うかもな。お前とは敵味方に別れたくはないよ」

「そっちのじゃじゃ馬とやりあうのは俺もごめんだな」

 どんと笑顔でダイダラがケルシャーの肩を押し、やり返すようにケルシャーもダイダラの肩を突いた。不思議そうな顔のボビーの前で、二人はそれを二回ほど繰り返し、最後はお互いに声を上げて笑った。

「さて、そろそろ行くか。自由軍の今後に期待するよ。公爵に機体の礼をもう一度、伝えておいてくれ」

「わかりました。お気をつけて」

 ボビーが弱々しい敬礼をして、ダイダラは腕組みをして頷いた。

 ブラックナイトの操縦席に収まり、二人が距離を取ったのを見てから、燃焼門を起動させる。推進器にエネルギーを流し込み、スタート。

「また会おう!」

 ケルシャーは二人に大声で怒鳴り、手を振る二人に手を振り返すと、操縦席のハッチを下げた。機体のすべての状態を再確認。どこにも異常はない。

 と、パネルの下に文字列が流れた。

 Good Luck

 ケルシャーは格納庫管制室に通信を繋ぐ。

「こちら、ケルシャー・キックス、ブラックナイト、発進許可をくれ」

『お気をつけて』

 公爵の声だった。どこにでもいるんだな、と可笑しかった。

「ありがとう」

 ケルシャーは推進器の出力を最大にした。

 ブラックナイトが滑るように宇宙へ飛び出していった。


     ◆


 帝国議会は自由軍を名乗る集団をテロリスト集団と断定し、帝国軍の力を持って、これを壊滅させると決めた。

 自由軍は複数の大型宇宙母艦の存在を全宇宙に公表し、それらの連合として、自由領域、と名乗る一帯を定め、ここを帝国とは全く違う人間集団の生活の場と主張した。

 この宣言はほとんど関心を呼ばず、歴史の上でも「大演説」の直後ということで、見過ごされがちである。

 そして「大演説」から半年後、帝国軍の二個軍団が、自由領域に向けて進発した。

 これをもって、自由軍と帝国軍の最初の衝突を「自由騒乱」と呼び、それに続く衝突を「自由討伐」とか「大征伐」と呼ぶことになるが、それはまだ先の話である。




(LS第1話 了)




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