第3-5話 仕事の後で

 俺たちもすぐに亜空間航法を起動させ、計算されていた航路を跳躍した。

 三十分で飛び出した先は小惑星に偽装したコンテナだ。小惑星と言っても、フィシャーマンの半分ほどしかない。最低限の水と酸素を補給するコンテナである。

 そこで補給を受けて、また亜空間航法で移動。今度は三時間の長丁場だ。

 俺は自分の部屋に戻り、酒を少しだけ飲んで、眠りについた。

 かなり疲れている自覚があったので、酒の力も加われば、あっという間に意識を失うのが当然だ。

 どれくらい眠ったのか、大きな衝撃で目が覚めた。

 窓の外を見ようにもこの部屋には窓がない。慌てて壁に埋め込まれている端末に飛びついた。

「どうした?」

『ドックに入港しただけよ』アイが澄ました声で答える。『お父さんを起こさないようにやるつもりだったけど、目測を誤って』

 バカな娘たちめ。慣れないことをするからだ、ドックが破損していたら、コンテナ三つの収穫も全部なくなるんだぞ。

 服を着替えて部屋を出る。接舷ハッチがひとりでに開き、若い技術者がやってきた。

 顔見知りの男で、腕は確かだ。

「久しぶりですね、モスさん。まだ宇宙の塵になっていないのですか?」

「俺は強運なんだ」

「かしましい女神もついていますからね。あまりにかしましくて、死神も遠慮するんでしょう」

 雑談をしつつ、その間に色々なことが決まっていく。

 フィッシャーマン自体は損傷がないので、機動戦闘艇をアップグレードすることになる。

 その話になると、アイとマイとミーも会話に加わって、専門的な話になった。俺には理解できないことでも、技術者の男は平然と答えている。

 最後にその場での仮の見積もりが出されて、俺はゴーサインを出した。

 あとはこの技術者が上役や経理担当者と話を詰めて、本当の見積もりが来る。

 その額で納得できれば、実際に作業が始まるだろう。仮見積もりはいつも正確なので、俺も安心している。

 コンテナの中の鉱物燃料を売り払うために闇業者と連絡を取っていると、通信室にいきなり三姉妹の声が響いた。

『お父さん! 大変!』

『すごいことになっちゃった!』

『信じられない!』

 なにやら、興奮状態で、こういう人工知能も珍しい。

 彼女たちの興奮を受けて、逆に俺は冷静になった。船か戦闘艇に問題があるのか、それとも経済的な何かか。

 それとも、帝国軍が俺に賞金でもかけたか。

「落ち着け。どうした?」

 俺の声は素っ気ないほどだが、三姉妹はまだ喚いている。

『銀河毎日新聞の電子版を見て! 読者投稿欄よ!』

『これは間違い無く彼だわ!』

『嬉しい! とても!』

 銀河毎日新聞? なんのことだ?

 俺は通信室の端末を操作して、銀河毎日新聞の電子版を購入した。普段は新聞なんて読まないのだ。

 見出しを全部、スルーして、読者投稿欄を表示させる。

 ちなみに読者投稿欄は「星の声」という名称だ。

 三つの投稿が紹介され、問題は三つ目だった。

 そこには、

 宇宙海賊に美しき三人の姫君

 と、題された記事がある。

 読んでいくと、その投稿者が遭遇した宇宙海賊には三人の美少女が乗り込んでいて、戦闘艇を乗りこなしている、とある。

 趣旨としては、宇宙海賊の擁護のような立場で、美少女とやらが戦っていることの不条理、反社会的な手法には触れず、冗談としてだろうが最後に、

 彼女たちになら撃墜されるのも幸福に思えるだろう

 と、結ばれていた。

 俺は端末から新聞を消去する。

「あまり浮かれるなよ、お前たち。まだまだ仕事は続くんだ」

『たまには良いじゃないの。クランク中佐、今になってみると本当にイケメンだったわ!』

『あの技師の子も可愛かったじゃない。カブ少尉!』

『あぁ! 恋愛ができないのが切ないわ!』

 訳のわからないことを言っている人工知能を無視して、俺は闇業者と連絡を取り始めた。

 それにしてもこの人工知能たちは、どこかにバグでもあるんじゃないか?

 普段はそんなこともないんだが、たまにおかしくなる。

 三人が声を揃える。

『『『私の王子様、どこにいるのかしら!』』』

 ……そんなもん、いるか!




(第3話 了)

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