第11話
「へぇ? 下級冒険者ですらないこいつらに何の話があるっての?」
「今は緊急事態なんだ。皆が一丸となって事にあたらなきゃいけないのに、下級も特級もないだろ」
「ふーん? 緊急事態だってのにすることがナンパ?」
「ナンパじゃないって! 君たちも彼女の実力は見ただろ!?」
アレンと仲間たちは言い争っていた。
アレンには恋人が五十人以上いるらしいので、こんなことばかりしているのだろう。
マズルカの教義的には許しがたい男なのだが、信者ではないのに教義を押しつけるわけにもいかない。
だが、いつまでも側にいるとまた無意識に殴ってしまいかねないのでニルマはさっさと退散することにした。
「めんどくさい! いこう、ザマー!」
「あ、ちょっと待ってくれ!」
ニルマは逃げるように、海へと飛び込んだ。
ザマーとネルズファーも慌てて付いてくる。
ニルマはそのまま沖の方へと泳いでいった。
数キロも泳げばさすがに周りに人はいなくなってくる。アレンも追いかけてはこなかった。
「いいんですか? 確かにナンパのようでしたが、ビーチに冒険者がたむろしていたのにはなにか理由があったのでは?」
「何かあるのかもしれないけど、それは準国民の私らはお呼びじゃないんじゃない? 特級冒険者様がどうにかするんでしょ」
「そうですね。聖導経典を探すのが優先ですし」
なんだかわからない事態よりも、聖導経典探索の方が優先順位が高いとザマーは判断したようだった。
「じゃあ探しますか」
ニルマたちは海中へと潜った。
ニルマは海中でもそれなりには活動が可能だ。ザマーもどうにか海中での行動はできる。
ネルズファーは、巨大な鮫の姿へと変化していた。このメンバーの中では一番海中行動に適しているだろう。
『どうよ? 気配は感じるか?』
ネルズファーがようやく口を開いた。
海中なので普通なら会話はできないのだが、これは魔力を用いた通信のようなものだ。
『……まったく。というか海中に入ると逆にわかんなくなっちゃったけど』
かすかに漂っていた気配のようなもの。
それが海中ではまったく探れなくなったのだ。
『どうすんだよ。手がかりゼロじゃねーか』
『とにかく海底の方まで行こう! 沈んでるはずだし!』
ニルマとザマーはネルズファーの背びれを掴んだ。
移動はネルズファーに任せるのが効率的だろう。
ネルズファーが身をくねらせて、海底へと泳いでいく。
『なんか見えてきたな』
『聖導経典……なわけはないですよね』
『……街?』」
海底には、自然にできたとは思えない直線的な構造の隆起が並んでいた。
角張った建物が、珊瑚や海藻の中に埋もれているのだ。
『海底遺跡といったところでしょうか』
『とりあえず行ってみようか』
近づいていくと、それらはやはり地上にあった街並みのようだった。
現在地上にある街よりも高層化が進んでいた時代のものだろう。ビルらしき大きな建物が倒れ、積み重なっているのだ。
『これ……中を全部見て回るとかしてたら一生終わらないような』
『大丈夫ですよ。ニルマ様の一生はかなりありそうですから』
ニルマはげんなりとした口調だったが、ザマーはあっさりと返した。
ネルズファーが近くの建物へと向かう。
建物の表面には大量の海中生物が付着しているが、建物そのものはほとんど劣化していなかった。
『これはネルズファーのいた遺跡と同じような建材でできているのでしょうか?』
『だね。多分、五千年前の建物だよ』
『街並みに見覚えは?』
『うーん……どこも似たような感じだったからなぁ』
『ここが街だとすると、このあたりにはないんじゃないですか?』
『そうだなぁ。街が沈んだとするとこのあたりは五千年前は陸地だったことになるんだけど……』
だが、地形が変わりすぎているので陸地だったとも言い切れない。
五千年前の戦いは常軌を逸したものだった。
状況によっては、街がまるごと海まで吹っ飛んできたなどということもあり得るのだ。
『このあたり、探してみます?』
『探すだけ無駄と言うか……見つかる気がまったくしないんだけど?』
ニルマはもうほとんど諦めていた。先ほど感じた気配のようなものも気のせいだった気がしてくる。
『おい! なんか来たぞ!』
唐突に、ネルズファーが叫んだ。
「なんか?」
ニルマは、ネルズファーの視線の先を見た。
建物の一つから、何かが湧くようにあらわれていた。
全身が鱗で覆われた人型の生き物だ。その頭部は流線型をしていて、魚の頭部のようになっている。
背には背びれらしきものがあり、足は足びれのように広く大きくなっていた。
体をくねらせて滑らかに泳ぐそれらは、銛のような武器を手にしている。
『なにあれ? この時代にはあんな人が?』
『人は五千年程度で形態が変わるほどに進化したりしませんよ』
『じゃあ……悪魔? いや、ソルジャー?』
この星には基本的に人の姿に似た魔物の類いは存在していない。
つまり、いるとすればそれは異世界からの侵略者であるソルジャーなのだ。
だが、ニルマは一瞬、その可能性を否定しようとした。
それは、ソルジャーはダンジョン外にはいないと聞いていたからだ。
『オーバーフローというやつでしょうか。ダンジョンからソルジャーがあふれ出てきて、侵略を開始するという』
『なるほど。ビーチに特級の人とかがいたのはそれで?』
詳細な事情はわからないが、冒険者たちが砂浜を警戒していたのは魚人間の目撃情報でもあったからなのかもしれない。
『どうします?』
『今のうちなら、まだ対処できたりするのかな? とりあえず目前の敵は蹴散らすしかないんだけど』
『何か問題が?』
『ザマートーピドーと、ザマースクリューならどっちがいいと思う?』
『どっちも嫌ですよ!?』
『と、思わせて、ネルズファーアタック!』
ニルマはネルズファーを蹴りつけた。
『そのフェイントになんの意味があるんだよ!』
巨大な鮫が文句を言いながら、魚人間の群れに突っ込んでいった。
*****
あとがき
書籍版2巻の発売が決定いたしました!
お買い上げくださった皆様のおかげです! ありがとうございます!
ですが、重版するほど売れているというわけでもありませんので、そっから先はまだわかりません……。
応援がてら買っていただけると嬉しいです!
漫画版が2話まで公開中です! 今のところは全話読めますのでいまのうちにどうぞ!
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