第四百七十一話 三姉妹の絆編 その十九


 次の日。

 

「初さん……どうですか?」

 

 朝食を終えてすぐに着替えた心美。

 彼女が選んだ服は、昨日美咲に買わせたものだ。

 

「似合ってるぞ、結構」

 

 結構どころじゃねえな。

 マジで似合ってる。非の打ち所がない。

 

「また出掛けるのか貴様ら」

「おう。ちょっとこいつの記憶を取り戻す手がかりとか探せたら、と思ってな」

「そう言えばそやつは記憶喪失だったな」

 

 某ゲームの某軍師みたいに、正体が邪龍の器とかはないと思いたいが。

 

「吾が仮面を着けて戦わなければならんのか」

「お前が伝説の武器とか絶対使いこなせる気がしねえ」

 

 絶対果物ナイフとかにしそう。

 

「吾を聖王の娘の妹扱いするな」

 

 もしくは「残念だったな」と言いながら地面に落下しそう。

 

「今度は聖王扱いか!?」

 

 いや……ク〇ム以下かもな。

 

「吾はそこまで弱くないであろう!?」

 

 いやお前木刀の機械なきゃただの厨二病だしな。

 

「ぐぬぬ……否定しきれん……」

 

 否定しようという脳みそはあったんだな。

 

「闇の騎士の名をそのような低劣な名と同じにされては困るからな」

 

 残念だが同じだ。

 すまんな。

 

「どうしてだよぉお!」

 

※※※

 

 下らない会話を終え、私と心美は家を出る。

 まずは私と心美が出会った公園に向かう。

 

「初さん」

「なんだよ」

「記憶を取り戻す手伝いって本当なんですか?」

「ああ。もう家に溶け込みそうな雰囲気ではあるけど、お前はちゃんとお前の居場所に帰るべきなんだ。だから何か思い出せたら私に教えてくれ」

「はい」

 

 私も言いはしたが、正直言って不可能に近い発想だ。

 私は心美の事を、公園で偶然知り合った、人間離れした美少女という点しか知らない。

 つまり私が自分の力だけで出来るのはここまで。

 あとは心美自身に何かを思い出してもらうしかない。

 

「何か思い出せそうか?」

 

 次に思い出して欲しい事を敢えて言うなら、記憶を失った原因や、断片的に覚えている記憶。

 そこにある人物やものの特徴さえ覚えていれば、地道ではあるが探しに行ける。

 

「うーん……まだ難しいです」

 

 申し訳なさそうな顔をする心美。

 

「ゆっくりでいい。焦らなくて良いんだ」

「は、はい……」

 

 何をやっているんだろう、私は一度そう思う。

 よく考えてみれば、ここまで私がしている行動は変だ。

 作者の悪戯による出会いで、身寄りがないこいつを居候にして、服まで与え、

 

 服はお前与えてねえだろ。By作者

 

 割り込むな。

 

 服まで与え、そして今は、記憶を取り戻す手伝いまでしている。

 勝手に友達呼ばわりしているだけの、赤の他人の筈なのに。

 もし放り出しても、何も悪くないのに。

 

「初さん」

「何か思い出せたか?」

 

「――私、やっぱり嫌です」

 

※※※

 

「嫌って……何でだ?」

「……」

 

 黙り込む心美。

 

「お前が私と一緒にいたいって気持ちは分かるぞ。でもよ、このままじゃお前の為にならねえ。記憶を取り戻して、ちゃんと自分の帰るべき場所で、また私と会えば良いんだ」

「分かってます……ですけど、嫌な予感がするんです」

「嫌な予感……?」

「私は人間関係に困っていると言っていた初さんと友達になって、ちゃんと解決してあげたい。でも、私はまだ何も出来てないんです」

「だからそれは……」

「しかしそう思うのは、今だけなんです。記憶を取り戻した自分は、ひょっとしたら違う自分なのかも知れない。私は今の私のままで、友達として初さんの役に立ちたいんです!」

「心美……」

 

 その顔には、恐れと悲しさが混じっていた。

 

「大丈夫だ」

「初さん?」

 

 説得力皆無な、大丈夫から……私は何とか心美に言う。

 

「もしお前の記憶が戻って、心変わりなんてしても、私がお前を放さねえ」

「……」

「私は約束を守ろうとしない奴は嫌いだ。私は前のお前は知らねえけど、今のお前がどんだけ馬鹿で、それでもどれだけ一生懸命やろうとしてるか知ってる。だから安心しろ。お前が自分から逃げようったってそうはいかねえ」

「初さん……」

「私とお前は、友達なんだろ? もしお前が私を友達だってそう思うんなら、尽くすだけじゃなくて頼れよ。昨日も言ったと思うけど、今のお前じゃ何の役にも立たねえ。だから役に立つのは後で良い」

「……」

「だから……まずはお前だ。取り戻すべきもんちゃんと取り戻して、お前を待ってる家族の所に一度帰るんだ」

「……はい!」

「じゃあ、もう少し探してみるぞ」

 

 そのまま私と心美はもう一度、公園内に何かないかを探す。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る