第四百八話 おまけ インフル中の夢 その四


 ……。

 

「……」

 

 その後は……何も残らなかった。

 街は焼かれ、私の家は面影など一つもない。

 だが黒焦げになっても、私だけは生きていた。

 

「……」

 

 そこで確信する。私はこの夢から逃げられないのだと。

 

「そんな……そんなッ!」

 

 ……元の世界には帰れないのだろうか。

 

「アンタが犯人なのね」

 

 聞き覚えのある声。

 この街であろうと……生き残ったというのか……。

 

「全然出番無かった……姉さん」

「殺すわよ?」

 

 うん。殺して。

 

「はあ……バカな妹を持つと私も大変ね……」

 

 夢が馬鹿なんだけどな。

 

「……待て」

 

 もう一つ……聞き覚えのある声。

 声の方向にいたのは……。

 

「せ……先輩……ッ!」

 

 京極先輩だ。

 傷だらけではあるが、生きていたのだろうか。

 

「アンタも来たのね。言っておくけど、街を燃やしたのはこいつよ」

「……」

 

 夢の中とは言え、先輩に嫌われてしまう……。

 

「そんな事どうでも良い。初さんさえいれば、僕は他のものなんてどうでも良いんだよ」

「先輩……」

 

 夢の外でこれ言われたい……。

 

「僕の恋人に手を出した罪、味わえよ」

 

 かっこいい……。

 

「さあ来なさい……私が全て壊してやるわ!」

 

 先輩は眼を見開き、そのまま駆け出す。

 

「うおおおおおおおおッ!」

 

 先輩が姉さんに勝てるわけがない。

 だけど……。

 

「ぐあっ!」

 

 効いてる……。

 

「やってください! 先輩!」

「とうっ!」「ぐっ!」

 

 勝てる……勝てるぞ!

 

「おのれ……〇ーめーはーめぇぇぇぇぇぇ」

「僕は負けないッ!」

 

 何もない所から、剣を召喚する先輩。

 立ち姿は……一人で十体倒す英雄王のようだ。

 

「波あああああああああああああッ!」

「させるものかッ!」

 

 姉さんのかめはめ波を、先輩が剣で塞ぎ。

 

「馬鹿な!」

「これで終わりだ!」

 

 先輩の剣が、姉さんを一刀両断した。

 

「うう……そんな……」

 

※※※

 

「先輩!」

「大丈夫? 初さん」

 

 これで私はまだ生きられる。

 もう邪魔者はいない。

 

「先輩」

「?」

「その……ここでキスしたいです」

「……! 良いよ……」

 

 照れてる……でもカッコいい。

 

「目を閉じて?」

「はい」

「……」

 

 そろそろ唇が触れ

 

「ただいま~初!」

 

 ぐえっ!

 

「……」

 

 アレ……部屋の中?

 

「帰ったわよ初」

「私は帰りたくなかった」

 

 せめて見せられないところまでやりたかった。

 

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