第百五話 厨二ドクター その三


 ここは〇×記念病院。

 全国レベルで見ても、腕の良い医者が集められた場所として有名だ。

 そんな凄い病院には、規格外の医者がいるという。

 

「ふっ、吾の出番か」

 

 今日もまた、彼女は患者を救う。

 

※※※

 

「今日は運が良い。限定の甘味を味わう事が出来るのだからな……。病院についたらどう喰らおうか? 一気に喰らうか……それともなぶるように喰らうか……好きな方を選ぶと良い……くくく……」

 

 その時。

 

「うわああああああん! いたいよぉぉぉぉ!」

 

「感じる……これは、幼子の声。しかも男の……」

 

 ん、ん、ん?

 

「待っていろ……今助けりゅ!」

 

※※※

 

 江代が駆けた先にあったのは、小さな公園だ。

 

「貴様、どうしたのだ!?」

「あしがいたいよ~!」

「これはマズい……。今助けてやりゅからな!」

 

 江代は少年の脚を見る。

 

「骨折している……。命に別状は無いが、これは病院に連れて行かねばな……。運が良いな小僧。吾は医者だ。絶対に貴様を助けりゅ!」

「あ、ちょっとまって!」

「どうした?」

「あれみてあれ!」

「鉄骨……?」

 

 子供の指さした先には、眼鏡を掛けた女が鉄骨に潰されているのが見えた。

 

「あのおねえちゃん、ぼくをたすけるためにつぶされちゃったの! おねがい! ぼくよりさきにあのおねえちゃんをたすけて!」

「承知……少しま

 

 ……。

 

「……」

「ど、どうしたの……」

「小僧……」

「ん?」

「悪いがこの女は吾に治せない」

「え!」

 

 そう。潰されていたのは美咲だったのだ。

 

「なんでなんで! おいしゃさんなのに?」

「こいつは吾も一度診察した事があるが、その時にはもう手遅れだった」

「え!」

「あれは元々、脳にダメージを受けていて、いつ死んでもおかしくなかった」

「そ……そんな!」

「いや助けなさいよ!」

 

 つかお前その状況で喋れるのかよ!

 

「ギャグ小説のキャラだし当たり前よ!」

 

 それ適応されるの淀子と初だけだと思ってたんだが。

 

「悪いな少年。吾らに出来るのは、彼女が天国で幸せに暮らせるように祈るのみ……。無力な吾を許せ……」

「う、うう……。おねえちゃぁん……。ごめんね……ごめんね……」

 

 う……うう……。

 

「ちょっと待って!? なんで作者さんまで泣いてるの!?」

 

 お前が可哀想でな……。

 

「なら助けなさいよ! 見てみて! 血だらけだけど私生きてるよ! まだ助けられる可能性あるわよッ!」

 

「さあ、行こう……」

「くすん……」

 

 しくしく……。

 

「ねえどうしてくれるのよ! なんか凄い微妙な雰囲気なんだけど! 江代さんのせいで!」

 

 天国で幸せに暮らせよ?

 

「じゃないでしょうよ!」

 

 こうして江代は前に進む。助けられなかった命を、仕方ないと割り切りながら。

 彼女は、医者であり続けるのだ。

 

「どうしてくれるのよぉお!」

 

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