第九十三話 江代と和泉


「ってて……」

 

 あの災難から二日ほどが経過した。幸い命に別状はなく、怪我もしていない。

 しかし、痛みは残っていた。

 

「ふっ、鈍器如きで頭を痛めるとは……貴様それでも『貧乳の銃士』か?」

「その渾名をやめろっつったろ。張り倒すぞクソが」

「ここで泣いてママを呼ぶぞ」

「すみません」

 

 でも江代さん、それはカッコつけて言う事じゃないです。

 

「吾はどのような手を使っても、勝たねばならんのだ」

「他力本願した時点で負けじゃね? それ」

 

 そんなこんなで公園に着く。

 

「私お手洗い行ってくるから、江代適当に座って待ってろ」

「ふっ、貴様……外の世界の者に対し、サービスでもするつもりか?」

「そういうのはエロ同人でやれ」

 

※※※(見せられません)

 

「今日は映らなかったみたいだな」

 

 トイレを済ませ、そのまま外へ。

 すると。

 

「江代ちゃん奇遇だね~」

「き、貴様は……貧乳の銃士の勢力のもの……ッ!」

 

 おいおいおいおいッ!! ダメダメダメダメッ!!

 あの二人! 混ぜちゃ危険!

 

「淀子ちゃんや初ちゃんはいないの?」

「ふっ、二人なら吾が消し飛ばした」

「そうなんだ~」

 

 そうなんだ~、じゃないよ! そこは怒って良いのよ和泉!

 

「あくまで私が消し飛ばされた発言はスルーなのね」

「うわあッ!」

 

 コーヒーミル女! いつの間に!

 

「誰がコーヒーミル女よ」

「オメエだよ。前の話見れば大体の奴が察するよ」

「あれは完璧に私を怒らせてたわよね?」

「怒ってない時に私を殺しかけてる奴に言われたくねえよ」

 

 てか姉さんの攻撃で死んでない私頑丈じゃね? 凄くね?

 

「あー凄い凄い」

「うぜぇ……」

「うざいのはあっちよ。江代を何とか止められないかしら?」

「下手を打つと私が母さんに殺されそうなんだが」

「大丈夫よ。あのババアのスペックは私以下だから飛んでこないわよ」

「そのババア発言もやめろ」

「あ、アンタババアって言ったわね。あとでチクろ」

「ガキかテメエは」

 

※※※

 

 さて、そんな下らない喧嘩をしていたが、私は姉さんと二人の会話を聞く事にした。

 

「江代ちゃんこれ食べる?」

「なん……それはッ!」

 

 私がよく買っている高級プリンだと……!?

 何故だッ! あの店を知ってるのは私だけの筈……ッ!

 

「何シリアス調で言ってるのよ」

 

「初ちゃん、これ大好きだよね」

 

 うん。大好きだけど今隣にいる馬鹿に毎回取られてる。

 

「誰が馬鹿よ」

「うるせえ。てかお前は色々返せ」

「やだ♡」

 

 ……。

 

「江代ちゃん美味しい?」

「ふっ、まあな」

 

 まあなで済ましやがったぞあいつ。どんだけ味音痴なんだよ。

 

「腹に入れば同じよ」

「一番味音痴な奴ここにいた」

 

「江代ちゃん」

「何だ?」

「初ちゃんってさ、凄く可愛いよね」

 

 ……は?

 

「は?」

「なんだと?」

 

 如何やら全員考えてる事は同じらしい。

 

「私、高校入ってから……いっつも初ちゃんの事ばかり考えてた。私がオタオタしてる時も助けてくれるし。そんな優しい初ちゃんが大好きなんだ」

 

 なんか気持ち悪いな。

 

「アンタが言えた事じゃないわよね。『万年発情期処女の極み(レズ)ゴッド』」

「もうその渾名廃止しない?」

「しないわ」

 

 あれは事故なのにぃ……。

 

「私、学校卒業しても初ちゃんと一緒にいたいな」

「ふっ……貴様のような変わり者は初めてだ」

 

 そうだな。お前が変わり者だからな。

 

「なんか私も寒気を感じてきたわ」

「珍しいな。意見が一致するとか」

「うん。反吐が出るわ」

「うっそおおおおん」

 

※※※

 

「今日はありがとね。話聞いてくれて」

「礼には及ばない。また会おう。『微乳レズ』」

「うん。じゃあね」

 

 あれ、一瞬和泉の顔が怖くなった気がする。

 

「江代ですら、あの渾名をつけるレベルだったのよ」

「マジかよ」

 

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