それぞれの後日談・ラグード

 俺には今、とても気になるひとがいる。


 ああ、俺はリオナット国の王子ラグード。

 頭を使う方はあまり得意じゃないけど、体力と剣の腕、それと炎魔法なら多少の自信はある。


 そんな俺が今気になっているのは……


「ユーシア姫!」

「あっ……ラ、ラグード王子」


 滞在中の隣国リンネの、ひとつ年下の小さなお姫様。

 何故か俺に気づくと一瞬身を強張らせて、ひと呼吸おいてから笑いかけてくれるんだけど……どうにもそれがぎこちない。


「ユーシア姫……俺のこと、苦手なのかい?」

「そ、そ、そんなことはありませんわ! おほ、おほほほほ!」


 うーむ、何か嫌われることでもしてしまったんだろうか?


「ファイやマオルーグ、スカルグと話している時はそんなじゃないのに……」

「ぎく!」

「やっぱり余所の国の人間には、心を開いてくれないんだね……」

「あ、あうう……」


 思わず落ち込みが顔に出て心優しい姫を困らせてしまったようで、紺碧の大きな目が視線を彷徨わせる。

 レディを困らせるなんて紳士失格だ……そう、気を取り直そうと思った時だった。


 ぽふ、と頭に優しい感触。


 俯いていた顔を上げ、よくよく見てみると……姫の手が俺の頭に置かれていた。


「姫……?」

「……あ! しまった、つい……!」


 それは小さな子供か、もしくは子犬にでもするような……

 慌てて姫が手を引っ込めると、頭から感触が離れていく。


「え……」

「あの、その……ごめんなさいっ!」

「もっと……」

「え?」


 ん?


 あれ、俺は今なにを言おうとしたんだ?


「な、なんでもないよ! それじゃあユーシア姫、俺はこれで!」

「あっ、ラグード王子!」


 とりあえず一旦離れようと、物陰までダッシュ。

 逃げるなんて俺らしくないけど、それよりも……!


「ユーシア姫に頭を撫でられて嬉しいだなんて、俺はどうして……っ」


 と、そこに。


 今度は先程よりも大きな手が、無遠慮にわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。


「えっ……?」


 振り向けば先日姫の護衛に就いたという旅の傭兵、マオルーグが、


「……王子は撫でられるのがお好きなようでしたので」


 そう言って、鋭い眼光でこちらを見下ろしていた。


「失礼、では」


 何がしたかったのだろうか、彼はすぐに背を向けて去っていく。


 いや、それより何より不可解なのは……彼に撫でられた時の、まるで生まれる前から知っているような心地よさ。


「ユーシア姫に撫でられた時より嬉しいなんて、俺は一体どうしてしまったんだああああああ!?」


 リオナットの父上、母上……


 俺には今、とても気になる人がいます。

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