南港追撃編5 治療

犬神はスポーツカーに乗り込むと、

コイン駐車場出口で清算せず、ゲートを突っ切った。


振動で腕の噛み千切られた傷が痛む。


『傷を見せてください』

竜の落とし子姿の乙姫の口から、

泡が噴き出した。


『アワワワ』

グロい傷だったのだろうか。


しかし泡が傷口に触れると、

痛みが引いていく。


『ご褒美というやつです』

犬神は乙姫の女性らしさを、

名前と声だけやん、と心の中で突っ込んだ。


『大阪城に医務室があります、

戻ってください』


「そういえば大阪城っていつからあんなんなん?」


『私たちが使っているのは、

大阪城の地下に作った大阪城です。

長い廊下はその為です。』


乙姫がナビで自宅を選択する。


無事に京阪電車高架下へ戻ると、

乙姫が収納ボックスからリモコンを取り出し、

高架の扉が開いた。


螺旋スロープを降りながら、

軽くめまいがした。

出血が多すぎたのだろう。


元の駐車スペースに車を止めて、

ふらふらと長い廊下を進む。


『ほらほらもうちょっとですよ、アワワワ』

乙姫が犬神の足のきり傷にも泡を吹いた。


乙姫の案内でなんとか医務室へ入ると、

警備員服を脱いで、診療台へ寝ころんだ。


犬神はそのまま気を失うように眠った。


『なんかデジャブった』

乙姫が棚から湿布薬を取り出し、

傷口へ貼る。


妖刀村雨ほどではないが、

ゆっくりと傷口が元通りにふさがっていった。


乙姫は犬神に患者衣をかぶせると、

天守閣の陰陽師犬坂に報告へ向かった。



犬神はこの所、夜勤続きだった為か、

一時間程で目が覚めた。


患者衣を着て天守閣へ向かう。

天守閣には陰陽師犬坂と乙姫が居た。


「よくぞ吸血鬼から逃れましたね。

お見事でした。

吸血鬼はあのあと、

おそらく水上飛行機を使って河童を連れ去ったようです。

式紙は振り切られてしまいました。」


「どうする?」


「伏姫が早朝にニューヨーク観光へ行ったのはこの件でしょう。

危惧していた河童パンデミックも起きそうにない事はわかりました。」


「犬神さんよろしければ、

犬塚さんの地下鉄掃討を手伝って頂けませんか?」

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